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三章
逃走
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取得学科が増えた事で、半日だけだったけれど、初日から授業が始まった。
「東側にある商業国家と我が国、アエステル王国は長年の友好国家を築いており、全ての国に中立を宣言しているため多くの物資と人が集まる国となっております。我が国からは、魔物の素材などを多く輸出しており、加工品を輸入しています。皆さんが、使っている日用品の中にも多くあると思いますので、興味がある方は探して見てみるのも良いかもしれません」
先生の言葉を聞いて、自分が持っているペンへと無意識に視線を下げる。
「北にある宗教国家のルークスとは険悪であるものの、間に連なる山脈に隔たてられており、山脈周辺にある樹海部分が一部が接してはいても、魔物も多く生息しているため、争い事には発展した事はありません。しかし、南にある海を挟んであるオルディア帝国とは休戦協定を結んでだ今も、長年の仮想敵国として緊張状態にあり…」
僕が下を向いている間も先生の授業が進んで行き、周辺国家との関係性などに付いて語っていた。
「まだ、怒ってるのか…?」
「……」
授業中、バルドがこちらを振り返りながら、僕の様子を伺うように聞いて来た。僕としては、ただペンを見ていただけだったけど、敢えて何も言わずに様子をみる。
「あの場合はしょうがないだろう?俺達の話しなんか、聞く様子なかったじゃないか…」
「それでも、バルドが余計な事を言った事には変わらないでしょ?」
「うっ…。それは、悪かったと思うけどよ…。状況は、変わらなかったと思うぞ…」
「前もそれで失敗してたよね?」
「でも、色々と言ってたのは俺だけじゃないだろ!?」
「そこ!授業中ですよ!」
「「すみません…」」
バルドが大きな声を出したせいで、僕も一緒になって先生に注意されてしまった。
「言っておくが、俺は余計な事は言ってないぞ」
「何も言わないのも、酷いと思うけどね…」
「……」
先生にバレないようするためなのか、教科書から視線を動かさないで言うネアに、僕は冷たい目を向ける。
「リュカ。助けなかったのは謝りますが、私達が何を言っても変わらなかっただろう事は、貴方も分かっているでしょう」
「……」
コンラットの言葉を頭では理解していても、素直には納得は出来なかった。
「ですが、さすがガリスア家のご令嬢でしたね」
「知ってるの?」
話しがレイラ嬢の方に向いたので、興味本意で聞いてみる。
「知ってるも何も、ガリスア領は1番東に位置しているので、流通関係で幅広い人脈を持っている事で有名ではないですか。高位貴族でさえ、表立って蔑ろには出来ない相手のはずですよ」
「「へー」」
「何で、爵位が高いはずの2人が知らないんですか…」
2人で感嘆の声を上げたら、コンラットが真顔で聞いて来た。
「気にした事ないから?」
「興味ねぇから?」
「はぁ…。たまに、貴方達の自由さが羨ましくなる時があります…。とりあえず、私が言えた立場ではないですが、もう一度お礼は言っておいた方が良いですよ」
「うん。授業が終わったら行ってみるつもり」
半分呆れを滲ませているコンラットに返事を返しながら、僕はレイラ嬢の方をこっそりと盗み見る。コンラットに言われる前から、お礼を言いに行こうとは思ってはいたけれど、問題はあの子をどうやって巻くかなんだよね…。
「絶対に、話し掛けてくるよね…?」
「あの様子では、そうでしょうね…」
「誰かが気を引いてるうちに、話しかければ良いんじゃないか?」
「それいいね!」
僕が相槌を打つと、タイミング良く授業が終わりを告げる鐘の音がなった。
「みんなは、どうする?」
ちょうど今日の授業が終わった事もあり、話し掛けられる前に行こうと思って、席を立ちながらみんなはどうするか聞いてみる。
「俺は行くぞ」
「私も行きます」
「俺は待ってる。話し方とかが母さんに似てて、なんか苦手なんだよなぁ…」
即座に、僕に付いて来ると言った2人と違って、バルドだけは複雑そうな顔して座っていた。
「なら、バルドはあの子の相手しておいてね」
「はあっ!!?ちょっ、ちょっと待て!何で俺!?」
「誰かが気を引けば良いって、自分で言ってたでしょう?じゃあ、よろくね!」
慌てふためくバルドの声を背に受けながら、僕は2人を連れて足早にその場を離れた。
「学ばないな…」
「学びませんね…」
心の中で2人の言葉に同意しながら、僕は何と言って声を掛けるべきかを考えていた。
「ガリスア嬢。少しだけ、時間を貰っても良いかな?」
「よろしいですけれど、皆様、何かございましたか?」
いきなり名前呼びは失礼かと思って家名で呼びかけた僕と、その後ろにいる2人にも視線を向けながら、彼女は不思議そうに言った。
「さっき、ちゃんとお礼を言えてなかったから、改めてお礼を伝えようと思って」
「礼なら既に言って頂きましたから、それ以上は不要ですわ」
「それでも、さっきはありがとう」
「ふふっ、レグリウス様は、義理堅い方なのですのね」
あどけなく笑うレイラ嬢の顔に少し見入りっていると、僕の耳に2人が小声で話しているのが聞こえた。
「意外と頑張ってますね」
「俺も、此処まで時間を稼げるとは思ってなかった」
その言葉で、少しだけ気になった僕は、バルドの方へと視線を向ける。すると、何処か困惑したような顔をしながらも、ちゃんと彼女の足止めをしようとしてくれている姿が見えた。バルドって、変な所で真面目だったりするんだよね。
「どうかなさいましたか?」
「う、ううん!何でもないよ!ただ、ガリスア嬢が、僕が思っていた印象と違うなって思って!」
別の事に気を取られていたら、レイラ嬢の声が聞こえて来たので、慌てて視線を戻して取り繕う。
「まあ、それはどういう意味か気になりますわね…」
「悪い意味じゃないよ!!」
「ふふっ、分かっていますわよ。レグリウス様は、顔に出やすいようですからね」
一瞬、冷や汗をかきそうになったけれど、冗談だったようで本当によかった…。
「それと、今後はレイラでよろしくてよ。去年から同じクラスなのですから、これからは仲良くして行きましょう」
「ありがとう。僕も、リュカで良いよ」
「ふふっ。こちらこそ、よろしくお願いしますね。リュカ様」
僕達が和やかな空気で会話していると、それに似合わない慌ただしい足音が近付いて来た。
「リュカ!速く逃げるぞ!!」
「どうしたの!?」
「説明してる暇ないから!とにかく、此処から逃げるぞ!!」
バルドが僕の手を掴んだと思ったら、引きずりようにして教室の外へと引っ張る。
「ご、ごめん!僕、先に帰るね!!」
「え、ええ、さようなら」
教室を出る際、何とかレイラ嬢に別れの挨拶をする事が出来たが、教室を出た後もバルドの足は止まる事はなく、僕の手を引っ張り続けた。
「此処までくれば、もう大丈夫そうだな…」
学院の門まで来て、ようやく足を止めたバルドは、何処か安堵を滲ませながら小さく呟いた。
「はぁ…はぁ…な、何があったの?」
バルドのペースで走らされたせいで上がった息をなんとか整えながら聞くと、薄っらとだけかいた汗を拭いた軽く拭う仕草をしながらバルドが答えた。
「いや、このままだとやばいと思って、一人の世界に入った隙に逃げてきたんだ…」
「やばいのは、元からだっただろ?」
ネアの声が聞こえて後ろを向くと、息が上がった様子もなく立っていた。その後ろに見えるコンラットは、僕以上に息が乱れていて、しばらく話せそうにない。
「それが…最初は、オルフェ様の事を聞かれてたんだけど、対して話せるような事がなくってさ…。それで、俺に兄がいるかって聞かれたから、正直にいるって答えたんだ…。そうしたら、兄さんの事とかも色々と聞かれだして、それに答えていたら将来有望そうだから紹介してって、最後の方に言い出し始めたんだよ…」
「ああ、目を付けられたのか…」
「親父が騎士団長ってのに、目の色が変わってて、正直、狩られる獲物にでもなったような気がして、怒った親父と対峙するより怖かった…」
身震いするように言うバルドを見ると、本当に怖かったようだった…。
「それは、災難でしたね…」
やっと息が落ち落ち着けたコンラットが、同情を滲ませるように言った。
「ぞれだと、父様の役職なんかを知られたら、また騒ぐって事…?」
あの時の事を思い出しながら嘆いている僕に、バルドは追い打ちを掛ける事を言った。
「それは、既に知ってるみたいだったぞ?騎士団長と、宰相ならどっちが将来有望かって言ってたから」
「ああ…。それで、最初からあんなに押して来てたんですね…」
「良かったな。あれ以上、酷くなる事はなさそうだぞ」
「嬉しくない慰め、どうもありがとう…」
ネアの言葉を聞きながら、去年も初日は散々だった事を思い出し、何とも言えない気持ちになった…。
「東側にある商業国家と我が国、アエステル王国は長年の友好国家を築いており、全ての国に中立を宣言しているため多くの物資と人が集まる国となっております。我が国からは、魔物の素材などを多く輸出しており、加工品を輸入しています。皆さんが、使っている日用品の中にも多くあると思いますので、興味がある方は探して見てみるのも良いかもしれません」
先生の言葉を聞いて、自分が持っているペンへと無意識に視線を下げる。
「北にある宗教国家のルークスとは険悪であるものの、間に連なる山脈に隔たてられており、山脈周辺にある樹海部分が一部が接してはいても、魔物も多く生息しているため、争い事には発展した事はありません。しかし、南にある海を挟んであるオルディア帝国とは休戦協定を結んでだ今も、長年の仮想敵国として緊張状態にあり…」
僕が下を向いている間も先生の授業が進んで行き、周辺国家との関係性などに付いて語っていた。
「まだ、怒ってるのか…?」
「……」
授業中、バルドがこちらを振り返りながら、僕の様子を伺うように聞いて来た。僕としては、ただペンを見ていただけだったけど、敢えて何も言わずに様子をみる。
「あの場合はしょうがないだろう?俺達の話しなんか、聞く様子なかったじゃないか…」
「それでも、バルドが余計な事を言った事には変わらないでしょ?」
「うっ…。それは、悪かったと思うけどよ…。状況は、変わらなかったと思うぞ…」
「前もそれで失敗してたよね?」
「でも、色々と言ってたのは俺だけじゃないだろ!?」
「そこ!授業中ですよ!」
「「すみません…」」
バルドが大きな声を出したせいで、僕も一緒になって先生に注意されてしまった。
「言っておくが、俺は余計な事は言ってないぞ」
「何も言わないのも、酷いと思うけどね…」
「……」
先生にバレないようするためなのか、教科書から視線を動かさないで言うネアに、僕は冷たい目を向ける。
「リュカ。助けなかったのは謝りますが、私達が何を言っても変わらなかっただろう事は、貴方も分かっているでしょう」
「……」
コンラットの言葉を頭では理解していても、素直には納得は出来なかった。
「ですが、さすがガリスア家のご令嬢でしたね」
「知ってるの?」
話しがレイラ嬢の方に向いたので、興味本意で聞いてみる。
「知ってるも何も、ガリスア領は1番東に位置しているので、流通関係で幅広い人脈を持っている事で有名ではないですか。高位貴族でさえ、表立って蔑ろには出来ない相手のはずですよ」
「「へー」」
「何で、爵位が高いはずの2人が知らないんですか…」
2人で感嘆の声を上げたら、コンラットが真顔で聞いて来た。
「気にした事ないから?」
「興味ねぇから?」
「はぁ…。たまに、貴方達の自由さが羨ましくなる時があります…。とりあえず、私が言えた立場ではないですが、もう一度お礼は言っておいた方が良いですよ」
「うん。授業が終わったら行ってみるつもり」
半分呆れを滲ませているコンラットに返事を返しながら、僕はレイラ嬢の方をこっそりと盗み見る。コンラットに言われる前から、お礼を言いに行こうとは思ってはいたけれど、問題はあの子をどうやって巻くかなんだよね…。
「絶対に、話し掛けてくるよね…?」
「あの様子では、そうでしょうね…」
「誰かが気を引いてるうちに、話しかければ良いんじゃないか?」
「それいいね!」
僕が相槌を打つと、タイミング良く授業が終わりを告げる鐘の音がなった。
「みんなは、どうする?」
ちょうど今日の授業が終わった事もあり、話し掛けられる前に行こうと思って、席を立ちながらみんなはどうするか聞いてみる。
「俺は行くぞ」
「私も行きます」
「俺は待ってる。話し方とかが母さんに似てて、なんか苦手なんだよなぁ…」
即座に、僕に付いて来ると言った2人と違って、バルドだけは複雑そうな顔して座っていた。
「なら、バルドはあの子の相手しておいてね」
「はあっ!!?ちょっ、ちょっと待て!何で俺!?」
「誰かが気を引けば良いって、自分で言ってたでしょう?じゃあ、よろくね!」
慌てふためくバルドの声を背に受けながら、僕は2人を連れて足早にその場を離れた。
「学ばないな…」
「学びませんね…」
心の中で2人の言葉に同意しながら、僕は何と言って声を掛けるべきかを考えていた。
「ガリスア嬢。少しだけ、時間を貰っても良いかな?」
「よろしいですけれど、皆様、何かございましたか?」
いきなり名前呼びは失礼かと思って家名で呼びかけた僕と、その後ろにいる2人にも視線を向けながら、彼女は不思議そうに言った。
「さっき、ちゃんとお礼を言えてなかったから、改めてお礼を伝えようと思って」
「礼なら既に言って頂きましたから、それ以上は不要ですわ」
「それでも、さっきはありがとう」
「ふふっ、レグリウス様は、義理堅い方なのですのね」
あどけなく笑うレイラ嬢の顔に少し見入りっていると、僕の耳に2人が小声で話しているのが聞こえた。
「意外と頑張ってますね」
「俺も、此処まで時間を稼げるとは思ってなかった」
その言葉で、少しだけ気になった僕は、バルドの方へと視線を向ける。すると、何処か困惑したような顔をしながらも、ちゃんと彼女の足止めをしようとしてくれている姿が見えた。バルドって、変な所で真面目だったりするんだよね。
「どうかなさいましたか?」
「う、ううん!何でもないよ!ただ、ガリスア嬢が、僕が思っていた印象と違うなって思って!」
別の事に気を取られていたら、レイラ嬢の声が聞こえて来たので、慌てて視線を戻して取り繕う。
「まあ、それはどういう意味か気になりますわね…」
「悪い意味じゃないよ!!」
「ふふっ、分かっていますわよ。レグリウス様は、顔に出やすいようですからね」
一瞬、冷や汗をかきそうになったけれど、冗談だったようで本当によかった…。
「それと、今後はレイラでよろしくてよ。去年から同じクラスなのですから、これからは仲良くして行きましょう」
「ありがとう。僕も、リュカで良いよ」
「ふふっ。こちらこそ、よろしくお願いしますね。リュカ様」
僕達が和やかな空気で会話していると、それに似合わない慌ただしい足音が近付いて来た。
「リュカ!速く逃げるぞ!!」
「どうしたの!?」
「説明してる暇ないから!とにかく、此処から逃げるぞ!!」
バルドが僕の手を掴んだと思ったら、引きずりようにして教室の外へと引っ張る。
「ご、ごめん!僕、先に帰るね!!」
「え、ええ、さようなら」
教室を出る際、何とかレイラ嬢に別れの挨拶をする事が出来たが、教室を出た後もバルドの足は止まる事はなく、僕の手を引っ張り続けた。
「此処までくれば、もう大丈夫そうだな…」
学院の門まで来て、ようやく足を止めたバルドは、何処か安堵を滲ませながら小さく呟いた。
「はぁ…はぁ…な、何があったの?」
バルドのペースで走らされたせいで上がった息をなんとか整えながら聞くと、薄っらとだけかいた汗を拭いた軽く拭う仕草をしながらバルドが答えた。
「いや、このままだとやばいと思って、一人の世界に入った隙に逃げてきたんだ…」
「やばいのは、元からだっただろ?」
ネアの声が聞こえて後ろを向くと、息が上がった様子もなく立っていた。その後ろに見えるコンラットは、僕以上に息が乱れていて、しばらく話せそうにない。
「それが…最初は、オルフェ様の事を聞かれてたんだけど、対して話せるような事がなくってさ…。それで、俺に兄がいるかって聞かれたから、正直にいるって答えたんだ…。そうしたら、兄さんの事とかも色々と聞かれだして、それに答えていたら将来有望そうだから紹介してって、最後の方に言い出し始めたんだよ…」
「ああ、目を付けられたのか…」
「親父が騎士団長ってのに、目の色が変わってて、正直、狩られる獲物にでもなったような気がして、怒った親父と対峙するより怖かった…」
身震いするように言うバルドを見ると、本当に怖かったようだった…。
「それは、災難でしたね…」
やっと息が落ち落ち着けたコンラットが、同情を滲ませるように言った。
「ぞれだと、父様の役職なんかを知られたら、また騒ぐって事…?」
あの時の事を思い出しながら嘆いている僕に、バルドは追い打ちを掛ける事を言った。
「それは、既に知ってるみたいだったぞ?騎士団長と、宰相ならどっちが将来有望かって言ってたから」
「ああ…。それで、最初からあんなに押して来てたんですね…」
「良かったな。あれ以上、酷くなる事はなさそうだぞ」
「嬉しくない慰め、どうもありがとう…」
ネアの言葉を聞きながら、去年も初日は散々だった事を思い出し、何とも言えない気持ちになった…。
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