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三章

控室(オルフェ視点)

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「今日は、何時にもなく機嫌が悪そうだな?」

「黙れ」

父上達から少し離れた位置に、レオンと向かい合って座りながら、不機嫌さを隠す事もなく言い捨てる。

パーティは昔から嫌いではあったが初めててはないため、ある程度の事までは我慢する事が出来た。だから、無駄に香水臭いのは我慢していたが、その匂いが何人も混ざってただの悪臭になってからは、とてもじゃないが耐えられなかった。

その匂いを間近で嗅いだ事もそうだが、無遠慮に触られたせいで、自分自身にもその匂いが染み付いているような気がして未だに気分が悪い。

父上と共に、王族達の控室に避難して来てからは、だいぶ気分も落ち着いて来たが、あの場所に戻る事と考えると、匂いを思い出して気分が滅入る。

「俺と違って、オルフェは婚約者がいないからなぁ」

まるで他人事のように言い放つ奴には、若干の殺意と苛立ちが募るが、今は怒る気力さえわかない。

「何故、あの匂いで平気なのか理解できない…」

「鼻が麻痺してるんじゃないか?それにしても、何で混ざるとあんな匂いになるんだ?」

「知るか…」

本当は、リュカに付き添ってやりたかったが、私がいては邪魔にしかならないのは目に見えていた。だから、少しでも傍にいようと思っていたのだが、遠目にでもリュカが楽しそうにしているのが見えた。

喜ばしい事ではあったが、同時に癪でもあった。しかし、忙しい身の私ではその役をこなせそうにない。もう少し、爵位が低ければそれが出来たのかと思えば、一緒にいるスクトール家の者が羨ましくなる。

「母上達のとかなら、一緒にいてもそこまででは無いんだけどな?」

興味さえもわかない私の前で、レオンも1人で首を傾げていた。

王妃様は、母上達がいる控室の方へと行ったため、今は此処にはいない。母上の事も少し心配ではあるが、私よりも社交界なれしているうえに、令嬢達しか入れない控室でラザリア様達と共にいるなら大丈夫だろう。社交界の花や王族に正面から喧嘩をする者は、余程の愚か者だけだ。

しかし、爵位が低い者ほど匂いがきつくなる傾向があっため、今までなるべく関わらないようにしていたが、此処まで酷い物だったとは予想もしていなかった。

再び憂鬱になりそうになった気分を変えるため、父上の方へ視線を向ければ、私と同様に苛立ちや不満が隠せないようだった。

「パーティーなど、全て無くなってしまえば良いものを」

陛下の向かいで腰を掛けている父上が憎々しげに呟けば、陛下はまるで面白い物でも見るような目で見つめながら言葉を返した。

「アル。息子の前なのに、そんな態度と口調で良いのかい?君の本性が知られてしまうよ?ねぇ?」

「父上の事は、子供の頃にすでに気付いておりました。その事は、父上も既に把握しています」

突然、陛下に話しを振られて慌てたが、それを表に出さないようにしながら簡潔に返す。

「何だ、それはつまらないな。まあ、あの頃は本性をまだ隠しきれていなかったからね。そのせいで、パーティのたびに何処かの貴族の不正が明らかになって大変だったよ」

「その度に、私の所の騎士団も駆り出されていた」

父上の事をからかうような顔話す陛下の後ろで、控えるように立っていたグラディウス卿が、同意するように静かに答えた。

「煩い。お前だって息子に手を出されたら、私とそう変わらんだろ」

「私ならば、その場で決闘を申し込む」

「パーティで、殺傷沙汰はやめて欲しいんだが…。それに、ベルと互角にやり合える相手なんて、アルくらいなものだろう…」

「お前が、脆弱過ぎるだけだ」

「君達と私を一緒にしないでくれないかな?」

「アルノルド。毎度の事だが、陛下に対して不敬だぞ。会場から逃げて来たお前が言う事ではない。それに、陛下はただ非力なだけだ」

「ベル。それは、フォローのつもりか?」

陛下が疑問の声を上げるが、父上達の話しが止まる事がない。

「毎度、この部屋にいるお前には言われたくない」

「警護のために此処にいるのだ。それとも、私の変わりに非力な陛下を貴様が守るとでも言うのか?」

「私は非力ではない!お前らが異常なんだ!」

声を荒げる陛下に、父上は役にたたない者を見るような視線を向けた。

「煩いぞレクス。そもそも、お前がいないのが悪い。お前がいれば、盾として使えるというのに」

「人を盾にするな!招待客も集まりきっていないのに、私達が出て行くわけがないだろう!!」

「フン。お前もそこにいる奴を盾にでもして、最初から参加してみれば良い」

「……」

「ベル。何故、そこで黙る?」

口元だけに笑みを浮かべながら、何も言わないグラディス卿の方をゆっくりと振り変える。

「陛下の盾になる事に異論はありませんが、陛下の交友関係に口を出すのは不敬かと」

「それに関しては不敬で良いと、前から言っているだろう!!厄介な貴族に絡まれても、お前は何時も横で傍観を決め込んで!!」

「例外を1つでも作れば、そこから規律が乱れますので」

「そんな事でお前の所の騎士団の規律が乱れると、本気で思っているのか!?」

「そんな事で規律が乱れるとは、大した事がないな」

「規律を1番乱している奴が何を言っている」

「そうだぞ!毎度、無茶な要求を平然と出して来るが、少しはこっちの身にもなれ!」

「私は、効率を重視しているだけだ」

段々と、父上達の会話が激しくなって行く様を見ていると、レオンの楽しそうな声が聞こえた。

「仲が良いよな」

「お前は、あれをどう見たらそう見えるんだ…」

あれが仲良さげに見えるなら、目が悪いにもほどがある。1度、医者に見て貰った方がいいのではないか?

「だって、喧嘩は対等でないと成立しないだろ?どっちかでも、上下関係を意識してたら、喧嘩じゃなくてただのイジメだ。それに、本気で喧嘩したら、父上が一番最初に死ぬぞ」

コイツの言いたい事は分かるが、自身の父親への評価がそれでいいのか?

「何を言っても武力を使わずに、自分から離れて行かないって信頼してるから、言いたい事を何でも言えるんだろ。俺達と同じだよな!」

「それは違う。俺は、何かあればお前を見捨てるつもりだからな」

「えっ!?」

レオンが言った戯言を切り捨てれば、驚きの声を上げながら何時ものように騒がしく何かを言い始めた。

相手にするのが面倒で、適当に聞き流していたら、知らない間に時間がたっていたのか、こちらに近付いて来る者の気配を感じた。

「2人共、そろそろ良い時間だから、喧嘩を止めて移動しようか?」

さっきまで、揉めていた事を忘れたように陛下は言ったが、後ろに立つ父上とグラディウス卿は、未だに不満そうにお互いを見ていた。

「まずは、ルーナ達を迎えに行かないとね」

若干の不満を残しつつも席を立とうとすれば、私の腕が後ろに引かれた。

「オルフェ!俺達、親友だよな!!」

「…………。私と親友だと言うなら、困る時には助けてくれるんだな?」

「あたりまえだろ!」

「分かった。親友でいい」

「オルフェ!」

上機嫌になったレオンの見ながら、父上の言う通り、会場に戻ったら令嬢達に対しての盾として使おうと決めた。アイツも承諾したのだから、私の変わりに頑張って相手をするだろう。

私は、そんな事を思いながら父上達の後をレオンを連れて後を追った。
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