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三章

渋滞

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今年の新年祭は、まだ日が沈んで間もない頃の時間に屋敷を出た。去年は、日が沈んで辺りが暗くなってからだった事を考えると、だいぶ速い気がする。

「こんなに速く行っても、パーティーはやってるの?」

馬車も去年とは違って、1台にみんなで乗って王城を目指している。

「1台ずつ馬車から降りるとなると、どうしても時間がかかって渋滞してしまうから、パーティー事態は速くから開催されているんだよ。なにせ、客がホールに集まりきる間、ただ招待客を待たせておくわけにはいかないからね。それがあったから、今回は1台の馬車で行く事にしたんだ」

父様が僕の疑問に答えながら、理由を説明してくれた。そのおかげで、何で馬車が1台だったのかという謎が分かった。

「基本、王族が入場するまでに会場にいればいいから、私達のような者は人が落ち着いた頃に合わせて行くんだ。だが、開始時刻に待ち合わせをしているというのならば、この時間でなければ相手を待たせてしまう事になるんだよ」

冬休み前、ただ開始時間に集合としかバルドから言われていなかった。僕も、特に時間に付いては考えていなかったけど、父様の話しを聞いて、ちゃんと時間を決めておけば良かったと少し後悔した。

「渋滞するのが嫌だから、何時もゆっくり行くの?」

「それも理由ではあるんだが、開始時間に来る者は、だいだい商談や顔を売るのが目的の者がほとんどなんだ。私は、それ等の連中とは関わりあいになりたくなくてね…」

父様は、少し困ったような表情を浮かべながら僕に言った。それを聞いて、僕は父様がパーティが嫌いだと言っていた事を思い出して、少しだけ罪悪感が湧いてきた。

「もしかして、父様には迷惑だった…?」

「そんな事はないよ。それに、煩わしくなったら、私達は城の奥に逃げ込むから大丈夫だ。宰相である私が入れない場所など、王城内にもほぼないからね」

「あら、私は控室にいるラザリア様と楽しくおしゃべりするから、一緒には行かないわよ」

僕を安心させるように言った父様の言葉に、母様が少しおどけたように笑いながら返した。でも、普段の父様を見ていると、宰相だという事をたまに忘れそうになるんだよね。

「オルフェも、いざとなったら奴の息子を言い訳にして抜け出すか、盾として使いなさい」

「分かりました」

父様の言葉に、兄様は迷う素振りもなく頷いたけれど、王族を簡単に盾にして良い物なんだろうか…?そんな疑問を感じながらも、やぶ蛇になりそうだったから、僕は別の事を質問する事にした。

「そんな大変そうなのに、何でバルド達はそんなに速く来るのかな?」

「もう1人の子の事は、正確には分からないが、バルドと言う少年の父親であるベルンハルトは、昔から無駄に真面目でね。毎回のように時間通りに来ては、警備状況などを確認して回っているんだ。そんな必要せいなど、全くないんだがな」

父様は、途中から何処か呆れたような表情に変えながら話し続ける。

「警備体制は、事前に入念に確認しているうえ、奴が鍛えた部下も優秀だからね。それ等を突破出来る者など、余程の手練くらいだよ。だからこそ、レクスも客の立場として招待しているというのに、全くもう少し気を抜くという事をすれば良いものを」

「その人と、何かあったの?」

何時もと違う父様の雰囲気に、僕は少し疑問に思って聞いてみた。すると、父様は何かを思い出すように話してくれた。

「前に、とある貴族の手下が違法取引を行っていた事があってね。貴族の方も限りなく黒だったのだが、手下達と繋がる証拠が中々出て来なかったんだ。だから、仲間割れを起こしたように見せかけて処分したのち、その罪をその貴族に被せて、屋敷の調査名分を作ろうとしたのだが、彼奴は不当な証拠では動かないと言い出してな。そのせいで、証拠を集めるのに、無駄に時間と労力がかかってしまった。本当に、もう少し融通を利かせれば良いものを」

普段の父様と違って、目を閉じながら不機嫌そうにしていた。不機嫌そうにしている父様をあまり見た事がない僕としては、怒っている理由よりも、そっちの事の方が気になった。

「アル。そんなふうに言う物では無いわ」

母様は、父様を諫めるような口調と表情で言った。

「うっ…。とにかく、私がする事にいちいち口を出しては妨害してくるので、彼奴とはあまり関わらないようにしているんだ」

母様の言葉に、少し気まずそうにしながらも父様が話していると、馬車がゆっくりと停止した。僕は城に付いたのかと思ったけれど、父様達が席を立つ様子も無ければ、御者が扉を開ける気配もない。

「付いたんじゃないの?」

「いや。城に付くには、まだ時間が掛るだろうね」

苦笑を浮かべながら言う父様に疑問を感じて、少し背伸びをしながら止まった馬車の窓から僕は顔を出した。すると、多くの馬車が城の方へと並んで止まっているのが見えた。

前の方にいる馬車も進む気配がなく、父様の言う通りだいぶ時間がかかりそうだった。
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