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三章

やりたい事

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「行ってきます!」

誕生日の日、僕は、朝食を食べ終えるとすぐに屋敷を出た。

父様達には、前もって今日出掛ける事だけを伝えていたので、帰って来てから家族でお祝いしてくれる事になっている。

「遅いぞ!」

「ご、ごめん」

朝食を食べてすぐ来たんたけど、待ち合わせ場所には、僕以外すでに集まっていた。

「貴方が速すぎるだけでしょう。朝早くから起こされたおかげで、私も少し眠いです」

「普段、遅れて来るネアは来てるぞ?」

「貴族街まで距離が遠いんだ。遅れるのは、仕方ないだろう」

「なら、今日は速く出て来たのですか?」

「いや、二度寝をしないで来ただけだ」

「ただの寝坊かよ!」

悪びれもせずに言うネアに、バルドがすぐさまツッコミを入れていた。

「休みの日は、出来るだけ長く寝ていたいんだ。まあ、そのうち分かる」

最近のネアは、口数も増えてきて、冗談のような事も言うようになって来た。だから、バルドとも掛け合いが増えて、どこかしら楽しそうにも見える。

「それより、まず馬車に乗りませんか?段々、寒くなって来ました」

「そうだね」

軽口を言い合う2人を連れながら、バルドが乗って来た馬車にみんなで乗り込んだ。窓の景色が変わり初めて、バルドの屋敷の門が見え始めた頃、僕達は外から見つからないように馬車の中で身を隠した。

馬車にバルドの家の紋章が描かれているから、特に中を確認される事なく門の警備をすり抜ける事が出来た。本来なら、事前に訪問する事を伝えるのが礼儀だけど、今回は、内緒で訪問するつもりなので、見つかるわけにはいかない。

馬車から降りると、何処かの密偵みたいに庭を移動して行く。ネアが一番動きに無駄がなくて、意外とこういうのが好きなのかなと、新しい一面を見たような気がした。

「あれが、俺の召喚獣のルドだ!」

バルドが指差す方向を見ると、木の下で伏せをしている黒い狼が見えた。声に気付いたのか、ルドと呼ばれた狼は静かに立ち上がると僕達の前まで来て、きっちりした姿勢でお座りをした。

「触ってもいい!?」

「いいぞ!」

バルドの許可も貰ったので、まずは頭を撫でてみる。初対面の僕が撫でても、嫌がる素振りを見せない。大人しく座っている姿を見ると、きちんと訓練されているんだろうという事が分かる。

何時の頃からか、僕の屋敷の中にあった嫌な空気はなくなった。でも、僕が召喚獣を持っていないせいか、そう言った話題を避けている雰囲気があった。

兄様は、普通にしてくれるけれど、父様達は僕から言わないとあまり話題に出す事をしない。変に気を使われているせいで、兄様の前でしか言い出し辛くなって来ていた。だけど、色んな召喚獣を見てみたかった。だから、何かしてみたい事と聞かれた時、まず頭に過ぎった事だった。

「お兄さんとかは、どんな召喚獣なの?」

「母さんとか以外は、狼の姿をしてるぞ。親父のはリュカの髪色と一緒で、銀色の毛をしてるんだ!」

「そうなんだ」

バルドの召喚獣を撫でながら、バルドの言葉に相槌を打つ。僕が撫でている間も、大人しく撫でさせてくれる姿が可愛い。

「銀色の狼…。一つ聞きたいんだが、氷属性の魔法も使えるのか?」

「見た事はないけど、そんな話は聞いた事あるぞ。後、中々触らせてくれないけど、撫で心地も良くて毛並みも綺麗なんだ。でも、何でか親父は不満そう顔してるんだよな?」

「普段は何処にいるの?」

押し黙ったネアの横で、不思議そうに首を傾げながら言うバルドに声を掛けたら、僕の方を向きながら言った。

「夜は、俺の部屋で寝てるけど、普段は親父達の召喚獣と一緒に行動してるんだ。だから、親父達バレないように、こっそり訓練場近くまで行って連れて来た」

「でも、この前はいなかったよね?」

泊まりに来た時に、全く姿を見なかった事を不思議に思って聞くたら、何でもない事のように言った。

「親父達の遠征に付いて行ってたからな」

「え!それって、大丈夫なの?」

座っている姿を見ても小さくはないけれど、立っている時も僕の腰までしかなかった事を思うと、魔物がいる場所に付いて行って危なくないんだろうか?

「訓練するなら、小さい頃からやった方が良いらしいぞ。兄さんの時もそうしてたみたいだったし、親父達も一緒だから大丈夫だろう!」

僕は、そういった事はよく分からないから、何とも言えない。でも、自身満々で言うのなら大丈夫なのだろう。

「では、今度は私の番ですね」

「よし!裏庭の方に行くぞ!」

「うん!」

案内されて裏手の庭の方に付いて行くと、小さな小屋が見えて来た。バルドに続いて小屋の中に入ると、部屋の中はがらんとしていて、物があまり見当たらない。

「何もないね?」

「ん?ああ、中にあった物とかは、使えそうな物だけ残して、後は全部使用人が片付けたんだ」

「ふーん」

まあ、何時までも使えない物を置いておいてしょうがないもんね。

「此処?」

「ああ、そこを持ち上げると開くぞ」

「わぁ!ほんとだ!」

「こうなっていたんですね」

僕の後ろから、地下へと続く階段を覗き込みながら、興味深そうに言った。

「コンラットは使った事ないの?」

「侯爵家の敷地に、隠し通路を使っては、さすがに入れませんから…」

「別に、何時でも好きに使っていいぞ」

「それはもう、隠し通路ではないな…」

堂々と言うバルドに、ネアが後ろの方で若干呆れた視線を向けていた。

「想像してたより、暗いね…」

「地下だからな。俺はもう慣れたから、今じゃ気にならないな」

前に学院をこっそり抜け出した時が、少し楽しかったから、もう一度やってはみたいと思ってはいた。でも、見つかったら怒られるのは確実だから、したいと思っても出来なかった。だから、この機会に我儘を言って、2人にはお願いをして、こっそりと屋敷に潜入してみた。それに、2人と一緒なら、見つかってもそこまでは怒られる事もないだろうという打算もあった。

でも、奥に進むに連れて暗くなって行く道を進んで行いると、止めておけば良かったかなと思ってくる。だけど、ここで止めると、ここまでこっそりやって来た意味が無くなってしまう。

慣れたように前を歩くバルドの服を掴みながら、僕達はゆっくりと進む。正直、何か掴まって歩かないと、壁にぶつかりそうで怖い。

「灯りとか使わないんですか…?」

しばらく暗い道を歩いたせいか、僕の服を掴みながら後ろを歩くコンラットが、不満そうな声を上げた。

「そんなに長くないから、準備する時間があるなら、行った方が速いんだよ。あ、ここから階段だから、足元気を付けろよ」

バルドの掛け声に、僕は足元を確認しながら階段を登って行った。
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