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三章
憧れ(リオ・デリウム視点)
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同学年には、完璧を絵に描いたような方がいた。眉目秀麗、頭脳明晰、何をやっても負けた事などなかった。少しでも、憧れの方に近付けるよう、努力を重ね続けた。その結果、Aクラスに入れるまでになった。
だが、同じクラスになったとしても、会話が出来るのは、一握りの人間だけだった。私のような者は、目すらも合う事はなかった。だが、お姿を拝見出来るだけでも満足だった。でも、1度だけ言葉を交わした事があった。
「レグリウス侯爵様!」
勇気を出して声を掛ければ、静かに私の方を振り向いた。
「何だ…」
「あ、あの…。も、もっと努力して、何時か、貴方様を支えられるようになってみせます!!」
「好きにしろ…」
そう言って去って行く後ろ姿を見て、もっと努力を重ねようと心に決めた。
卒業間近になった頃、何時も視界に入ってくるアレと一緒に、優秀な人材に声を掛けて回っていると言う話を聞いた。私の所にも来て下さるかと期待していたが、お声がかかる事はなかった。
たが、どうしても諦めきれず、卒業後は、少しでも目に止まる可能性がある、学院の教師になった。それなのに、私に声がかかる事はなく、私よりも若く、学院で手伝いをしていた者が、息子の家庭教師として呼ばれたと聞いた。
その時は、歯がゆい思いをしたが、いずれは学院に入学して来ると、気持ちを落ち着けて時を待った。
あの方の息子が入学して来た時は、あの方と瓜二つの容姿や優秀さに、私は高揚感を隠しきれなかった。今度こそ、お役に立つ所をお魅せして、側に置いて頂こうと誓った。
入学から数年たった時、ある問題を起こしたという事で、あの方が学院へと来て下さった。問題が起きれば、あの方が来て下さる。そう思って、色々と画策してみたが、あの方譲りの優秀さで、全て自身の力で解決してしまっていた。それが、あの方を思い出して、喜ばしくもあり、憎たらしかった。
その次は、目の色も違えば能力も劣っていた。ただ子供というだけで、何の苦労もなく、あの方に目を掛けて貰えている事が癪に触る。
怪文書を、問題を起こしそうな生徒に渡せば、想定通り、問題を起こさせる事に成功した。だが、事の顛末を聞いた私は、怒りが込み上げて来た。
平民の分際で、あの方と話をしただけではなく、力になるとまで言われるなど、いったい何様のつもりだ!私は、こんなに努力を重ねても、あの方に近付く事さえ出来ないと言うのに!ならば、私も、上手く利用しよう…。
問題が起きたなら、私に頼るように声を掛けた。友人と言うだけで、あの方の目に止まるのなら、恩師ともなれば、あの方とも懇意にする事が出来るはずだ。
新年祭でも、子供の目に止まるように動けば、思った通り、私に声を掛けて来た。声を掛ける足掛かりに使えればと思ったが、あの方から私にお声を掛けて下さった。
あの頃と変わらないお姿に、憧憬の念を抱く。やはり、遠目から見るのとでは、まったく違う。あれよりも、この方こそ、王に相応しいとさえ思う。
あの夜、あの方からのお呼びがかかった時は、天にも登るような心地だった。例え、余計な存在がいたとしても…。
「私が言った事を、理解出来ていなかったのか?」
「何の事でしょ?」
「私が、気付いていないとでも?」
計画の段階で気付かれるとは、さすがとしか言いようがない。しかし、私も、許可を出したその日に行くとは思ってはおらず、準備が間に合わなかった。
「計画だけとは言え、国が管理する学院内の森に、魔物を誘い込もうとするのは重罪だ」
計画の準備をしただけで、まだ何もしてはいない。証拠がなければ、罰される事はないだろう。この方は、不当な事をなさらない事を知っている。
「息子のクラスで、騒ぎを起こしただけでは、物足りなかったか?」
「私がやったという証拠は、ないはずです」
懐へと手を伸ばすと、見覚えのある手紙を私に見せた。
「お前は知らないだろうが、学院で使われている備品は全て、不正防止用に特殊加工がされている。だから、誰が書いたかは、調べればすぐに分かるようになっている」
自分の迂闊さに、苛立ちが募る。まさか、紙一枚まで対策しているとは思わなかった。だが、あの方が管理する場所で、何も対策をしていないなど、あり得ない事だと、考えれば分かる事だ。
「今回は見逃すが、次はない。大人しくしている事だな」
慈悲もなく告げられる言葉に、私は言葉を失う。何とかしなければ…。そうしなければ、きっと、あの方に関わる事は、もう出来なくなる。残された部屋で、1人、拳を握った。
そんな時、降ってわいた闘技場に同行する話は、私には、渡りに船だった。
街のゴロツキ連中に金を握らせて、一芝居売って貰う事にした。街の中ならば、目も届かないだろうと踏んだのに、雇った連中は現れず、自宅に衛兵が張っていた。
自宅に帰れなくなった私は、一縷の望みを掛けて、会場で張っていれば、目当ての人物が見えた。その時、天はまだ見捨てていないと確信した。
上の息子の方に邪魔をされて、執成して貰う事は出来なかったが、あの方本人に、嘆願する機会が与えたれた。
「アルノルド様!私は!」
「黙れ。お前に、発言を許可した覚えはない…」
感情がこもっていない、静かな声だったが、人を黙らすのには、十分だった。
「計画を立てた程度で裁くには、罪がまだ弱かった。だから、確実な証拠と罪状が必要だった。すぐに墓穴を掘るとは思い、しばらく泳がせていたが、高位貴族に刺客を送るとはな」
「刺客などでは、ありません!それに、私に、挽回の機会を下さるために、見逃して下さったのですよね!?」
事実とはことなる罪状に、私は声を荒らげて否定するも、冷笑を浮かべるだけだった。
「そんなわけがないだろう。リュカが、懐いていたから見逃してやっただけだ」
「私の方が、あれよりも、貴方様との付き合いが長いはずです!」
「何を言っている?」
慈悲に縋るように、昔の事を話題に出したが、怪訝そうな顔をされながら、私の事を見てくる。その事に焦った私は、思い出して欲しくて、必死に訴えかける。
「同じクラスに在籍してたではないですか!?それに、お声がけしたら、答えて下さいました!?」
「記憶にない。そもそも、お前、クラスにいたか?」
私の言葉に、何の感情も感じていないような、冷淡な顔で言った一言を聞いて、私の目の前が真っ暗になった。
だが、同じクラスになったとしても、会話が出来るのは、一握りの人間だけだった。私のような者は、目すらも合う事はなかった。だが、お姿を拝見出来るだけでも満足だった。でも、1度だけ言葉を交わした事があった。
「レグリウス侯爵様!」
勇気を出して声を掛ければ、静かに私の方を振り向いた。
「何だ…」
「あ、あの…。も、もっと努力して、何時か、貴方様を支えられるようになってみせます!!」
「好きにしろ…」
そう言って去って行く後ろ姿を見て、もっと努力を重ねようと心に決めた。
卒業間近になった頃、何時も視界に入ってくるアレと一緒に、優秀な人材に声を掛けて回っていると言う話を聞いた。私の所にも来て下さるかと期待していたが、お声がかかる事はなかった。
たが、どうしても諦めきれず、卒業後は、少しでも目に止まる可能性がある、学院の教師になった。それなのに、私に声がかかる事はなく、私よりも若く、学院で手伝いをしていた者が、息子の家庭教師として呼ばれたと聞いた。
その時は、歯がゆい思いをしたが、いずれは学院に入学して来ると、気持ちを落ち着けて時を待った。
あの方の息子が入学して来た時は、あの方と瓜二つの容姿や優秀さに、私は高揚感を隠しきれなかった。今度こそ、お役に立つ所をお魅せして、側に置いて頂こうと誓った。
入学から数年たった時、ある問題を起こしたという事で、あの方が学院へと来て下さった。問題が起きれば、あの方が来て下さる。そう思って、色々と画策してみたが、あの方譲りの優秀さで、全て自身の力で解決してしまっていた。それが、あの方を思い出して、喜ばしくもあり、憎たらしかった。
その次は、目の色も違えば能力も劣っていた。ただ子供というだけで、何の苦労もなく、あの方に目を掛けて貰えている事が癪に触る。
怪文書を、問題を起こしそうな生徒に渡せば、想定通り、問題を起こさせる事に成功した。だが、事の顛末を聞いた私は、怒りが込み上げて来た。
平民の分際で、あの方と話をしただけではなく、力になるとまで言われるなど、いったい何様のつもりだ!私は、こんなに努力を重ねても、あの方に近付く事さえ出来ないと言うのに!ならば、私も、上手く利用しよう…。
問題が起きたなら、私に頼るように声を掛けた。友人と言うだけで、あの方の目に止まるのなら、恩師ともなれば、あの方とも懇意にする事が出来るはずだ。
新年祭でも、子供の目に止まるように動けば、思った通り、私に声を掛けて来た。声を掛ける足掛かりに使えればと思ったが、あの方から私にお声を掛けて下さった。
あの頃と変わらないお姿に、憧憬の念を抱く。やはり、遠目から見るのとでは、まったく違う。あれよりも、この方こそ、王に相応しいとさえ思う。
あの夜、あの方からのお呼びがかかった時は、天にも登るような心地だった。例え、余計な存在がいたとしても…。
「私が言った事を、理解出来ていなかったのか?」
「何の事でしょ?」
「私が、気付いていないとでも?」
計画の段階で気付かれるとは、さすがとしか言いようがない。しかし、私も、許可を出したその日に行くとは思ってはおらず、準備が間に合わなかった。
「計画だけとは言え、国が管理する学院内の森に、魔物を誘い込もうとするのは重罪だ」
計画の準備をしただけで、まだ何もしてはいない。証拠がなければ、罰される事はないだろう。この方は、不当な事をなさらない事を知っている。
「息子のクラスで、騒ぎを起こしただけでは、物足りなかったか?」
「私がやったという証拠は、ないはずです」
懐へと手を伸ばすと、見覚えのある手紙を私に見せた。
「お前は知らないだろうが、学院で使われている備品は全て、不正防止用に特殊加工がされている。だから、誰が書いたかは、調べればすぐに分かるようになっている」
自分の迂闊さに、苛立ちが募る。まさか、紙一枚まで対策しているとは思わなかった。だが、あの方が管理する場所で、何も対策をしていないなど、あり得ない事だと、考えれば分かる事だ。
「今回は見逃すが、次はない。大人しくしている事だな」
慈悲もなく告げられる言葉に、私は言葉を失う。何とかしなければ…。そうしなければ、きっと、あの方に関わる事は、もう出来なくなる。残された部屋で、1人、拳を握った。
そんな時、降ってわいた闘技場に同行する話は、私には、渡りに船だった。
街のゴロツキ連中に金を握らせて、一芝居売って貰う事にした。街の中ならば、目も届かないだろうと踏んだのに、雇った連中は現れず、自宅に衛兵が張っていた。
自宅に帰れなくなった私は、一縷の望みを掛けて、会場で張っていれば、目当ての人物が見えた。その時、天はまだ見捨てていないと確信した。
上の息子の方に邪魔をされて、執成して貰う事は出来なかったが、あの方本人に、嘆願する機会が与えたれた。
「アルノルド様!私は!」
「黙れ。お前に、発言を許可した覚えはない…」
感情がこもっていない、静かな声だったが、人を黙らすのには、十分だった。
「計画を立てた程度で裁くには、罪がまだ弱かった。だから、確実な証拠と罪状が必要だった。すぐに墓穴を掘るとは思い、しばらく泳がせていたが、高位貴族に刺客を送るとはな」
「刺客などでは、ありません!それに、私に、挽回の機会を下さるために、見逃して下さったのですよね!?」
事実とはことなる罪状に、私は声を荒らげて否定するも、冷笑を浮かべるだけだった。
「そんなわけがないだろう。リュカが、懐いていたから見逃してやっただけだ」
「私の方が、あれよりも、貴方様との付き合いが長いはずです!」
「何を言っている?」
慈悲に縋るように、昔の事を話題に出したが、怪訝そうな顔をされながら、私の事を見てくる。その事に焦った私は、思い出して欲しくて、必死に訴えかける。
「同じクラスに在籍してたではないですか!?それに、お声がけしたら、答えて下さいました!?」
「記憶にない。そもそも、お前、クラスにいたか?」
私の言葉に、何の感情も感じていないような、冷淡な顔で言った一言を聞いて、私の目の前が真っ暗になった。
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