落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

文字の大きさ
上 下
90 / 242
二章

学院の怪談

しおりを挟む
夜の学院は、昼の時と違って、やっぱり何だか怖い…。怖い話しの現場に行くのもあって、足の進みも遅く、先頭のバルドとも徐々に離れて来ていた。しかし、それが分かってはいても、足は思ったように進まない…。

「おい」

「な、何!?」

前を歩いていたネアが、振り返りながら急に話し掛けるから、少し変な声が出た。

「裾を引っ張るな。歩き難い」

「ご、ごめん…」

僕は、静かに掴んでいた裾を離した。怖くて、無意識のうちにネアの裾を掴んでいたようだった。

「怖いなら、断れば良かっただろう」

「言い出せなくて…」

1人だけ怖がっているのが、何だかかっこ悪くて、どうしても視線が下に行ってしまう。

「はぁ…。今回は、掴んでて良い。でも、あんまり引っ張るなよ」

「うん!」

仕方がなさそうにしながらも、ネアは裾を掴むのを許してくれた。普段からあまり喋ったりしないけど、たまに優しい所があるんだよね。

僕は、ネアの裾を固く握りながら、バルド達の後を付いて行く。途中、聞いて来た話を語っているけど、耳を塞ぎたい…。でも、この手も離したくない…。

「兄貴が、寮生から聞いたらしいんだけど、夜、誰もいない教室に残っていると、誰かの話し声が聞こえて来て、その声に付いて行くと、全く知らない場所に行くんだって」

問題の教室に付くと、みんな耳を澄ませているようだった。だけど、僕には絶対に無理!何も、聞こえてくるな!!

「何も聞こえませんね…」

「聞こえないな…」

「そもそも、不審な声に、付いて行く方もどうかしているがな」

「次!次、行こう!」

何か聞こえる前に、教室を後にしたい!それに、こんな怖い事は、なるべく速く終わらせるに限る!

その後も、夜に鳴り響くピアノや、勝手に置き場所が変わる彫刻など、各場所を見て回ったけれど、何も起こらなかった。

「何も起こらないな…。そういえば、コンラットが聞いた話は、どんな話しだったんだ?」

「私が聞いたのは、踊り場に置いてある鏡の話です。何でも、その鏡には異世界に繋がっていると言う噂があったそうです。それを確かめるために、ある生徒が夜中に学院に忍び込んだそうですが、その生徒はそのまま帰って来なかったと言う話です」

「今の俺達の事みたいだな」

「ネア!止めてよ!!」

ネアが不吉な事を言い出したので、慌てて止めた。コンラットも、そんな話し聞いて来ないでよ!!

「よし!行ってみよう!」

「行くの!?」

僕が、理不尽な怒りをコンラッドに向けていると、予想通り、バルドが行くと言い出した。僕はもう帰りたい…。

「此処まで来たのに、行かない理由がないだろ?それより、さっきから思ってたけど…リュカはやっぱり怖いのか…?なら、リュカは此処に残って待ってるか?」

「行くよ!!」

バルドなりに気を使ってるのかもしれないけど、こんな所に1人残される方が怖いから!!

僕は、ほとんどネアを盾にするように、みんなの後を付いて行った。もう、怖がりがバレるとか気にしている余裕もなかった。

「何も起こらないな…」

「そうですね…」

そこでも、何も起こる事はなく、これでようやく帰れると僕が安堵していたら、何やら考え込んでいたバルドが、何かを思いついたかのように顔を上げた。

「森に行ってみないか?」

「森は、立ち入り禁止区域ですから駄目ですよ!リオ先生からも言われているでしょう!!」

「そうだよ!!駄目だよ!!」

「でも、オルフェ様が止めるくらいだから、何かあるんじゃないか?」

「それは…そうかもしれないですけど…。でも、それだけ危ないと言う事でしょう…」

「ちょっと、ちょっとだけ!ちょっと見たら帰るから!」

バルドの懇願と、行かなきゃ帰らなそうだった事もあって、見たら帰るとバルドと約束をしたうえで、僕達は森へと向かった。

僕達はまだ立入禁止だから、森に来た事はない。そこまで行く道は、人気がないうえに、高い壁が立っていているせいか、月明かりが差し込まずに、部屋の中みたいに薄暗い…。

森の入り口に付くと、門で固く閉ざされていた。それに、勝手に入れないようになのか、3メートルくらいの壁があって、森どころか木すら全く見る事は出来なかった。

「これで満足ですね。では、帰りますよ…って!何してるんですか!?」

「上から少し、向こうを除いて見ようかと思って?」

バルドは、近場にあった木を上手に利用しながら、すでに壁の上に手を掛けていた。

「駄目です!ほら、もう帰りますよ!」

「あし、足引っ張るな!落ちるから!」

足を引っ張って止めるコンラッドと、落ちないように必死に掴まっているバルドの大声が、静かな闇夜に響きわたる。

「2人共!そんなに騒いだら、不味いよ!!」

リオ先生に許可を貰っていたのは学院内だけで、森には近付くなと言われている。ただでさえ、1年生は立入禁止になっているのに、こんな時間にいるのがバレたら確実に怒られる。

僕は、声を聞きつけて誰か来る前に、慌てて2人を止めようとしたけど、すでにもう遅かった。

「そこで何をしている!」

誰かの怒鳴り声が聞こえて振り向けば、僕が苦手に思っているリータス先生が、つり上がった眉を更につり上げて立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?

そらまめ
ファンタジー
 中年男の真田蓮司と自称一万年に一人の美少女スーパーアイドル、リィーナはVRMMORPGで遊んでいると突然のブラックアウトに見舞われる。  蓮司の視界が戻り薄暗い闇の中で自分の体が水面に浮いているような状況。水面から天に向かい真っ直ぐに登る無数の光球の輝きに目を奪われ、また、揺籠に揺られているような心地良さを感じていると目の前に選択肢が現れる。 [未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか? ちなみに今なら豪華特典プレゼント!]  と、文字が並び、下にはYES/NOの選択肢があった。  ゲームの新しいイベントと思い迷わずYESを選択した蓮司。  ちよっとお人好しの中年男とウザかわいい少女が織りなす異世界スローライフ?が今、幕を上げる‼︎    

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う

ちょす氏
ファンタジー
 今の時代においてもっとも平凡な大学生の一人の俺。 卒業を間近に控え、周りの学生たちは冒険者としてのキャリアを選ぶ中、俺の夢はただひとつ、「悠々自適な生活」を送ること。 金も欲しいし、時間も欲しい。 程々に働いて程々に寝る……そんな生活だ。 しかし、それも容易ではなかった。100年前の事件によって。 そのせいで現代の世界は冒険者が主役の時代となっていた。 ある日、半ば興味本位で冒険者登録をしてみた俺は、予想外のスキル「黄金」を手に入れる。 「はぁ?」 俺が望んだのは平和な日常を送るためだが!? 悠々自適な生活とは程遠い、忙しない日々を送ることになる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...