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二章

忘れずに

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「どうして先に教えてくれなかったんですか!?」

「ご、ごめん…。忘れてた…」

父様達が書庫から去って行った後、コンラットから事情を聞かれた僕は、正直に来る事を伝え忘れていたと言った。

「そういう大事な事は、忘れないで下さい!!勉強の前に、記憶力を何とかした方が良いんじゃないですか!?」

僕も、それが出来るならそうしたいけど、記憶力の向上なんてどうすればいいのさ…。

「まあ、リュカも悪気があったわけじゃないんだから、そんなに怒るなって」

「貴方も、何ちゃっかりと手合わせの約束を取り付けてるんですか!?」

「会えたら、駄目もとで頼んでみようと思ってたんだよ」

「ああ…。挨拶らしい挨拶も、何も出来なかった…。礼儀知らずだと、思われてないですよね…」

僕からバルドに、怒りが転化したと思ったら、今度は盛大に落ち込み初めた。下手に声を掛けると、また怒られそうなので、少しでも話題を変えるために、ネアと話しを振った。

「ネアは、緊張しているのかと思ってたけど、何も変わってなかったね」

「そんな事はない。俺も、余計な事は言わないように、言葉には気を付けてはいた」

「え?あれで?」

父様との会話を思い出しても、何も変わっていなかったと思うんだけど…。

「主席合格だって?」

「そうだが?」

「爵位を持たない者が主席を取るなんて事は、学院でも初めてだったそうだ」

「悪いのか?」

「非難しているわけではない。ただ、学院で生活するのは何かと大変だろう?なにせ、周りにいるのは子供だけだからこそ、偏見を持っている者は多い。リュカの友人であるなら、私は力を貸す事は惜しまない」

「……覚えておく」

僕は、2人の会話をハラハラしながら聞いていた。父様は優しいから、ネアの言葉使いに怒ったりはしないとは思うけれど、聞いているこっちが落ち着かない。父様が、兄様を連れて部屋を出た時は、母様とは別の意味でホッとした。

「バルドは、どう思った?」

「俺でも、あの態度はさすがに無理だぞ…」

「だよね…」

僕だけなのかと思ったけど、やっぱりバルドもそう思っていたようだ。

「それで、ネアは父様達に会いたがっていたけれど、実際どうだったの?」

「そうだな。迂闊な事は出来ない、とは思ったな」

ネアは、もうやらかしているような気もするけどね…。それに比べて、コンラットは未だに落ち込んでいた。ネアの態度でも怒られないんだから、そんなに気にする必要もないのに。

「コンラッドも、そんなに気にしなくて良いと思うよ。父様や兄様は、優しいからきっと怒ってないよ。それに、そんなに気にするなら、夕食の時にフォローしておくから」

「本当ですか!?」

「う、うん」

「絶対ですよ!!今度は、忘れないでくださいね!」

たぶん、忘れない、大丈夫…。その後、僕は帰る直前まで、コンラッドから念押しされ続けた…。

その日の夕食での話題は、自然とみんなの話になった。

「約束した手合わせの件だが、軽くで良いのか?」

「たぶん?学院で会った時に、バルドに聞いてみるね」

「相手の予定も、合わせて確認しておいて欲しい。私も、仕事を調整して合わせるつもりではあるが、リュカとの訓練の時間も、出来れば確保したい」

「明日もやるの?」

「明日は、そこまでの時間は取れそうにない。だから、ルーン文字を教えるくらいだな」

「覚えられるかな…」

コンラッドから、記憶力のなさを指摘されたばかりだったので、まったく自信がない…。

「絵を眺めるように、文字を見ているだけでも記憶には残るものだ」

「うーん…」

まあ、眺めるだけでいいなら、僕にも出来るかな?

「あ!!友達が、父様達にちゃんと挨拶出来なかったって気にしてたんだ。僕が、来る事をみんなに伝えるの忘れていたから、驚いて緊張したみたい。だから、怒らないでね」

「そんな事で、怒ったりはしないよ。子供は、名前を言えるだけで褒められるべきだと、部下も言っていた」

「私も、怒ってはいない。それよりも、父上は仕事を抜け出して来て、本当に良かったんですか?来月には、陛下の生誕祭があったと思いますが?」

「毎年の事で、みんな慣れているからね。それに、レクスに媚びを売るために、大人しくしている貴族ばかりだから、それほど対応も大変ではないよ」

「それなら、良いのですが…」

僕も、少し心配はしていたので、何も問題がないなら良かった。それに、2人も怒っていないようなので、コンラットにはいい報告が出来そうだ。まあ、少し忘れかけた事は、内緒にしておこう。
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