上 下
73 / 227
二章

それぞれの隠し事

しおりを挟む
お礼を受け取らないと、猫が帰らなそうだったので、形だけ受け取った後は、庭の隅に埋めておいた。

僕は、手に付いた土を軽く払うと、手を洗うために噴水がある方へと向かった。本は、なるべく汚さないように、脇に抱えながら持って行った。

噴水で手を洗っていると、1台の馬車が、フェンスの向こうの道を通り過ぎて行くのが見えた。視線で追いかければ、よく見慣れた馬車だった。僕は、服で軽く手を拭くと、本を持って玄関の方へと駆け出した。

「父様!!」

玄関が見える場所まで来ると、ちょうど父様が屋敷に入ろうとしている所だった。

「急いでどうしたんだ?」

「見慣れた馬車が通ったから、父様かなって!それでね!今日は、兄様と陣を作る練習をしたんだよ!!」

「だから、裏庭の方から来たのか」

父様は、何処か納得したような表情で頷いた。

「今日は、父様速いね?どうしたの?花は母様へのお土産?」

父様が何時も帰ってくる時間より、今日は少し速かった。それに、左手に花束を抱えていて、母様の好きなキキョウの花も見える。

「ああ、綺麗だったから買って来たんだ」

「でも、キキョウはまだ時期じゃないよね?」

花が好きな母様のために、庭には色々は種類の花が植えてあり、キキョウの花もあった。でも、庭の花は蕾すら付いていない。

「少し値は張るが、時期外れの花も売っている」

「ふ~ん」

父様が、母様や僕達にお土産を買って来ることは珍しくはないけれど、何時もみんなで食べれるお菓子とかだったのに何で花?それに、父様もいつもと何か違う気がするんだよね?まあ、何が?と聞かれたら、答えには困るけど…。

「アルノルド様、花を渡されるなら急がれた方がよろしいかと。花は、速めに処理をしないと、痛むのも速く、枯れてしまいます」

「そうだな。リュカも、本を汚さないよう部屋に置いて来なさい」

出迎えのために出ていたドミニクに言われて、屋敷に入って行く父様は、やっぱり何か変だ。

「いったい何だと思う?」

次の日、学院に向かった僕は、みんなに昨日の事を話して聞いてみた。

「仕事の事で、話せないのではないですか?」

「仕事の事なら、ちゃんとそう言ってくれるから違うと思うよ」

「よし!なら、今週リュカの家に行った時に調べてみよう!!」

「オルフェ様達に迷惑をかけるような事をしては駄目です!!」

僕の話しを聞いていたバルドが、名案を閃いたとばかりに言った言葉を、コンラッドがすかさず止めた。

「何で?コンラットも気になるだろ?」

「気にはなっても、それとこれとは話しが別です!オルフェ様に嫌われでもしたら、どうしてくれるんですか!!」

「大丈夫!こっちには、リュカがいるから何とかなる!!」

「う、うん…」

あんまり当てにされても困るけど、少しくらいなら大丈夫だとは思う…たぶん…。

「よし!それなら…」

「花壇を掘り返しますよ…」

ピタッ

コンラットの言葉を聞いて、さっきまではしゃいでいたバルドの動きが止まった。

「な、何の事!?」

ようやく動き出しだが、目が泳いでいて明らかに動揺していた。

「先月、私の屋敷がある側の花壇に、何か埋めていましたよね?」

「し、知らない!!」

先程よりも目が泳いでいて、どう見ても何か隠しているのがバレバレだ。

「そうですか。たしか、その日の夜に、貴方のお父上が、陛下から貰った記念のグラスが無くなったと、騒ぎになっていたと思うのですが…覚えていませんか?」

「お、覚えてないな…」

「なら、帰ったらすぐにでも、花壇を掘ってみましょうか?」

「待て!速まるな!!」

「なら、オルフェ様に迷惑をかけないように…」

「リュカ悪い!俺はこの件から手を引く!!」

バルドは手を合わせると、勢いよく頭を下げて、僕に謝ってきた。

「リュカも、人の秘密を暴こうなんてしないように…」

「は、はい…」

コンラットの何とも言えない気迫に、思わず頷きながら返事をしていた。

僕にも話せない事はあるから、コンラットの言う通り何だけど、兄様を崇拝し過ぎているような態度にちょっと引いた…。

「俺も、コンラッドに賛成だ。秘密は、誰にでもあって暴くものではない」

「そうだぞ!秘密を暴くのは良くない!グラスを割った事を、親父にバレるわけにはいかない!!」

「割ったんだ…」

「割ったのか…」

「割ったんですね…」

「巧妙な罠か!?」

罠というよりも、ただの自爆かな…。頭を抱えながらうずくまるバルドは、もうどしようもないと思う…。

「自首した方が、罪は軽いですよ」

「自首しても、罪が軽くなるとは思えない!」

バルドは、コンラットの言葉に首を左右に振りながら否定する。

「バルドの家族には、あった事がないから分からないけれど、王宮であった陛下は優しそうだったから、大丈夫じゃないかな?」

「ならリュカが代わりに謝ってきて!!」

「何で僕!!?」

僕、まったく関係ないよね!?そもそも、バルドの屋敷に行った事も無ければ、時期も合わないから!

その後も、バルドは自首を進められていたが、頑として拒んでいた。

「こういうのは、自分でも忘れた頃にバレるものだ…」

小声で言ったネアの一言を、僕は聞こえなかった事にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ
ファンタジー
この世界では、十四歳になると自らが呼び出した召喚獣の影響で魔法が使えるようになる。 とはいっても、誰でも使えるわけではない。魔法学園に入学して学園で管理された魔方陣を使わなければならないからだ。 そして、それなりに裕福な生まれの者でなければ魔法学園に通うことすらできない。 魔法は契約した召喚獣を通じて使用できるようになるため、強い召喚獣を呼び出し、無事に契約を結んだ者こそが、エリートであり優秀者と呼ばれる。 もちろん、下級召喚獣と契約したからといって強くなれないわけではない。 召喚主と召喚獣の信頼関係、経験値の積み重ねによりレベルを上げていき、上位の召喚獣へと進化させることも可能だからだ。 しかしながら、この物語は弱い召喚獣を強くしていく成り上がりストーリーではない。 一般よりも少し裕福な商人の次男坊ルーク・エルフェンが、何故かヤバい召喚獣を呼び出してしまったことによるドタバタコメディーであり、また仲間と共に成長していくストーリーでもある。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

この度神様を辞めて、地上に降りました。執着系武神様と無双旅をします!

yun.
ファンタジー
人間から、天使になり100年。 それから神に昇格して早5000年。 そろそろ、飽きました! 後任は育てたので、私は地上へ降ります! そう宣言し、転生したのはエルフ。 最長1000年生きれるでしょう。 神様として頑張ってきた5000年ほど自由に生きたかったのですが、仕方ありませんね。 私は地上で、美味しいものを食べて、いろんなところを旅して、いろんな景色を見てきます! と意気揚々と降り立ったのだが、武神は追いかけてくるし、人助けしまくっていたら、神と呼ばれるし。 それでも、今日も楽しいです! 2022.7.4 タイトル変更しました。 旧 拝啓 この度神様やめました。

異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪

紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。 4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪ 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

闇属性転移者の冒険録

三日月新
ファンタジー
異世界に召喚された影山武(タケル)は、素敵な冒険が始まる予感がしていた。 ところが、闇属性だからと強制転移されてしまう。 頼れる者がいない異世界で、タケルは元冒険者に助けられる。生き方と戦い方を教わると、ついに彼の冒険が始まる。 強力な魔物や冒険者と死闘を繰り広げながら、タケルはSランク冒険者を目指す。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...