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二章
卒業式
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予期せぬ出会いはあったけれど、僕達は、兄様のいる講堂へとやって来ていた。
「兄様、何処かな?」
講堂前には、卒業生やその家族などが、大勢集まっていて、何処に兄様がいるのか分からない。
「まだ、来ていないようだね。それに、この人数だと、探しに行くよりも、見つけて貰った方が速そうかな?」
たしかに、大勢の人達が集まっていて、あの中から探すのは大変そうだ。それに、父様は、周りの他の人よりも、身長が高い分、人混みに紛れても、見つけられそうだ。
講堂の前にある広場で、兄様を待っている間、女学院生達や、その他の親達も、父様の事を見ながら、話をしている姿がチラチラと見える。だけど、父様は、話しかけられたくないのか、気付いていないように、そちらに視線を向けよとはしなかった。
僕の事も、何だか見られている気がして、自然と視線が下がってしまう。しかし、ふっと兄様が来た気がして、視線を上げて周りを見渡して見ても、兄様の姿は見えなかった。
「兄様…まだかな…」
「すまない…遅くなった…」
「兄様!!」
人混みを抜けて、ようやく兄様が僕達の所へとやって来るのが見えた。
「さっき来たと思ったのに、私達を見つけるの速かったね?」
「人混みの中にいても、リュカが何処にいるかは、分かりますから」
ああ、そういえば、兄様が、前にそんな事を言っていたような気がする。
「父様も、分かってたの?」
父様も、兄様が来たのが分かっていたような口振りだったので、聞いてみた。
「オルフェみたいに、魔力が強ければ、近くにいるな、くらいには分かるかな。まあ、正確な位置まで察知するのは、難しいけれどね。それより、話は終わったのかい?」
「はい。学院から、原稿を少し書き換えるように言われて、修正作業していただけだったので…」
「兄様!頑張って下さいね!!」
「リュカが、頑張れというなら、頑張ろう」
兄様が、笑いながら僕の頭を撫でると、周りが少し騒がしくなった。
「おい…あいつって笑えるの…?」
「え…見たことないけど…幻覚…?」
「笑った顔も、素敵…」
屋敷では見慣れてきたけれど、学院では、兄様の笑顔は、見慣れない物のようで、しきりに騒いでいる。それが、煩わしかったのか、兄様から笑顔は消えうせ、周りを睨むように見渡せば、騒いでいた人達は、慌てたように講堂の中へと入って行った。
人が少なくなったおかげで、僕にも周りが見えやすくなった。それにしても、さっき集まってた人達の中にもいたけれど、兄様みたいに右手だけ手袋をはめている男子生徒が、少し見えるのはなんで?
「人も少なくなってきたようだし、私達も講堂に移動しようか?」
父様達と一緒に講堂内に入ると、学院の人が、僕達を席まで案内してくれた。講堂は、演劇場のような作りになっていて、僕達が案内された場所は、3階にあるボックス席だった。だけど、この席は、少し身を乗り出さなければ、ステージに立つ兄様が見えない。
「父様、下の方が見えやすそうだから、あっちの席がいい」
僕は、ステージを正面から見える、下の席を指差しながら、父様にお願いする。だけど、父様は、僕の言葉に少し困ったような顔をしていた。
「それは…ちょっと…無理…かな…」
「リュカ、我儘を言って困らせては駄目よ。それぞれ、席が決まっているから、急に席は変えられないのよ」
「はーい…」
僕達が、そうこうしているうちに、卒業式が始まっていた。僕は、手すりに掴まりながら、兄様が出てくるのを待った。
しばらくすると、兄様が呼ばれて、ステージに立つ兄様が見えた。
「兄様だ!!」
僕の声が聞こえたのか、こちらに視線を向けて、小さく笑うと、ステージ上で話し始めた。
「お前達が、この学院で何を身に付けて、その後、何をしようが、どうなろうが、私は興味もない。誰に守って貰える時間は、ほぼ終わりだ。これからは、自身で責任を取れ、甘えるな。だから、私の前に立ち塞がる者や、私のものに手を出す者は、誰だろうと容赦しない。それを肝に銘じろ」
兄様は、言いたい事は言ったというように、その後は、当たり障りのない無難な挨拶文を読んでいた。
「学院から、呼び出しを受けた理由が、分かるような気がするね…」
「そうね…。多分だけど、最初の部分で言った内容みたいな事しか、書いてなかったんでしょうね…」
「そうだね…。普段ならやらないんだろうけど…今回は、警告も含めて、あえてやったのかもね…」
「?」
父様は、僕を見た後、少し困ったような顔をしながら、ステージに立っている兄様を見ていた。僕としては、ステージに立つ兄様は、堂々としていて格好いいと思うんだけど、父様達は違うのかな?
兄様の挨拶が終わった後、学院長からの長い挨拶が始まった。だけど、あまりにも退屈過ぎて、僕は椅子に座りながら居眠りをしていたら、ほとんど卒業式が終わっていた。でも、兄様は見れたからいいかな?
「兄様、何処かな?」
講堂前には、卒業生やその家族などが、大勢集まっていて、何処に兄様がいるのか分からない。
「まだ、来ていないようだね。それに、この人数だと、探しに行くよりも、見つけて貰った方が速そうかな?」
たしかに、大勢の人達が集まっていて、あの中から探すのは大変そうだ。それに、父様は、周りの他の人よりも、身長が高い分、人混みに紛れても、見つけられそうだ。
講堂の前にある広場で、兄様を待っている間、女学院生達や、その他の親達も、父様の事を見ながら、話をしている姿がチラチラと見える。だけど、父様は、話しかけられたくないのか、気付いていないように、そちらに視線を向けよとはしなかった。
僕の事も、何だか見られている気がして、自然と視線が下がってしまう。しかし、ふっと兄様が来た気がして、視線を上げて周りを見渡して見ても、兄様の姿は見えなかった。
「兄様…まだかな…」
「すまない…遅くなった…」
「兄様!!」
人混みを抜けて、ようやく兄様が僕達の所へとやって来るのが見えた。
「さっき来たと思ったのに、私達を見つけるの速かったね?」
「人混みの中にいても、リュカが何処にいるかは、分かりますから」
ああ、そういえば、兄様が、前にそんな事を言っていたような気がする。
「父様も、分かってたの?」
父様も、兄様が来たのが分かっていたような口振りだったので、聞いてみた。
「オルフェみたいに、魔力が強ければ、近くにいるな、くらいには分かるかな。まあ、正確な位置まで察知するのは、難しいけれどね。それより、話は終わったのかい?」
「はい。学院から、原稿を少し書き換えるように言われて、修正作業していただけだったので…」
「兄様!頑張って下さいね!!」
「リュカが、頑張れというなら、頑張ろう」
兄様が、笑いながら僕の頭を撫でると、周りが少し騒がしくなった。
「おい…あいつって笑えるの…?」
「え…見たことないけど…幻覚…?」
「笑った顔も、素敵…」
屋敷では見慣れてきたけれど、学院では、兄様の笑顔は、見慣れない物のようで、しきりに騒いでいる。それが、煩わしかったのか、兄様から笑顔は消えうせ、周りを睨むように見渡せば、騒いでいた人達は、慌てたように講堂の中へと入って行った。
人が少なくなったおかげで、僕にも周りが見えやすくなった。それにしても、さっき集まってた人達の中にもいたけれど、兄様みたいに右手だけ手袋をはめている男子生徒が、少し見えるのはなんで?
「人も少なくなってきたようだし、私達も講堂に移動しようか?」
父様達と一緒に講堂内に入ると、学院の人が、僕達を席まで案内してくれた。講堂は、演劇場のような作りになっていて、僕達が案内された場所は、3階にあるボックス席だった。だけど、この席は、少し身を乗り出さなければ、ステージに立つ兄様が見えない。
「父様、下の方が見えやすそうだから、あっちの席がいい」
僕は、ステージを正面から見える、下の席を指差しながら、父様にお願いする。だけど、父様は、僕の言葉に少し困ったような顔をしていた。
「それは…ちょっと…無理…かな…」
「リュカ、我儘を言って困らせては駄目よ。それぞれ、席が決まっているから、急に席は変えられないのよ」
「はーい…」
僕達が、そうこうしているうちに、卒業式が始まっていた。僕は、手すりに掴まりながら、兄様が出てくるのを待った。
しばらくすると、兄様が呼ばれて、ステージに立つ兄様が見えた。
「兄様だ!!」
僕の声が聞こえたのか、こちらに視線を向けて、小さく笑うと、ステージ上で話し始めた。
「お前達が、この学院で何を身に付けて、その後、何をしようが、どうなろうが、私は興味もない。誰に守って貰える時間は、ほぼ終わりだ。これからは、自身で責任を取れ、甘えるな。だから、私の前に立ち塞がる者や、私のものに手を出す者は、誰だろうと容赦しない。それを肝に銘じろ」
兄様は、言いたい事は言ったというように、その後は、当たり障りのない無難な挨拶文を読んでいた。
「学院から、呼び出しを受けた理由が、分かるような気がするね…」
「そうね…。多分だけど、最初の部分で言った内容みたいな事しか、書いてなかったんでしょうね…」
「そうだね…。普段ならやらないんだろうけど…今回は、警告も含めて、あえてやったのかもね…」
「?」
父様は、僕を見た後、少し困ったような顔をしながら、ステージに立っている兄様を見ていた。僕としては、ステージに立つ兄様は、堂々としていて格好いいと思うんだけど、父様達は違うのかな?
兄様の挨拶が終わった後、学院長からの長い挨拶が始まった。だけど、あまりにも退屈過ぎて、僕は椅子に座りながら居眠りをしていたら、ほとんど卒業式が終わっていた。でも、兄様は見れたからいいかな?
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