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一章

何で!!?

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「父様…大丈夫かな…」

「父上には無用の心配だ。それよりも、此処では休めない。移動するぞ」

「…あの人達はどうするの?」

兄様の後ろには、地面に倒れたまま動かない男達がいた。

「…今は運ぶ手段がないからここ残していく。アクアが、叩きのめしたから、町に戻ってから回収を依頼しても大丈夫だ…」

兄様は、何処か冷めた目で男達を見ていたけど、こんな森に置いて行って大丈夫かな…?そんな事を思っていたら、空から雪がチラチラと降ってきた。

「…雪も降り出したから急ごう。母上は、リュカと乗りますか?」

「いいえ。今回の事を、ラクスの領主にも報告した方がいいと思うから、私は領主の所に行ってから宿に戻るわ。だから、オルフェがリュカと乗って、先に宿に戻ってて」

「…大丈夫ですか?」

兄様が、母様を心配するように聞いた。

「大丈夫よ。私だって、学院で魔物討伐とかにも行ったのよ。だから、逃げる事くらいは出来るわ。それに、今はイグニスも一緒だから大丈夫よ」

「イグニス…分かってるな…?」

兄様がそう言うと、イグニスと呼ばれた赤い龍は、何度も首を縦に降っていた。

母様は、しゃがんだ龍の足を足場にしながら、翼を掴んで龍に飛び乗った。

「盗賊の回収も依頼する必要があるから、私は先に行くけれど、2人は大丈夫?」

「平気です。私達よりも、母上の方が心配です…」

「私は、大丈夫だから…。オルフェ、リュカの事をお願いね。イグニス、町までよろしくね」

母様が声をかけると、返事をするように咆哮し、翼をはためかせながら空へと飛び立って行った。母様の姿が小さくなった頃、兄様から声をかけられ、兄様の方を振り向く。

「リュカ…私達も行くぞ。此処は、不愉快な者が多い…」

兄様は、青い龍のアクア?にさっそうと乗ると、僕に手を差し出して来た。

「…捕まれ」

たしかに、龍が乗りやすいように屈んでいるとはいえ、元々が5メートルほどの巨体だ。だから、僕の身長では、龍の足を足場にするのも難しいそうだ。

僕が、兄様の手を取っれば、兄様は龍の背中まで引き上げてくれた。上まで引き上げて貰った僕は、そのまま兄様に背中を預けるようにして龍の背に座る。

「行くぞ…」

兄様が呟くと、翼を広げて龍が空へと舞った。

高い所からの景色は、最初、少し怖かったけれど、後ろから兄様が支えてくれているからか、徐々に恐怖心がなくなり周りを見渡す余裕が出来た。

空には厚い雲が覆って雪を降らし、下には黒い森しか見えなかったけど、初めて見る空からの景色に興奮していた。

でも、雪が降る中を飛んでいるのに、全く寒さを感じないのはどうしてなんだろう?それに、かなりの速さで飛んでいるのに、風もあまり感じない。

「…不思議だなぁ?」

「…どうかしたか?」

僕の呟きが聞こえたからなのか、背中から兄様の不思議そうな声が聞こえた。

「な、何でもない!」

「…そうか」

その後、兄様は特に話しかけて来る事はなかった。しばらくすると、しだいにラクスの町の灯りが見えて来た。

兄様は、龍に乗ったまま町に入ると、夏に泊まった事のあるホテルの前に降り立った。まだ夜も遅いというのに、あちこちに町の人達が立っており、僕達の事を見ていた。

「兄様…やっぱり、龍に乗ったまま町の中に入るのは、不味かったんじゃ…」

「今さらだ…」

兄様は、どこ吹く風で町の人達を気にした様子はなかった。兄様は、宿に入ると受付から鍵を貰って僕の所まで戻って来た。

「行くぞ…」

僕は、兄様の後を付いて行き、一緒に宿の1室へと入った。

「まだ、夜も遅いから休め…」

兄様は、窓の側にある椅子に腰掛けると、僕にベットで休むように言ってきた。

「兄様は休まないの…?」

「念のためにな…」

兄様は休まないのに、僕だけ休むのは何だか申し訳ない。

「ごめんなさい…」

「…何で謝る?」

「…何も役に…立たないから」

「リュカには、それを求めていないからいい…」

兄様は、僕から視線を反らしながら言った。やっぱり、兄様は僕の事が嫌いなのかな…。

「…兄様は…僕の事を嫌い…?」

「はっ!?え、その…別に…嫌いでは…」

何処か狼狽えたように話していた兄様が、突然、眉間にシワを寄せながら黙り込んでしまった。僕は、その様子を恐る恐る見ていた。

「はぁ…。リュカ、この際だから言っておく。私は、その…リュカを嫌いとかではなくてだな…大切な弟として…その…好き…だぞ…」

兄様から何を言われるのかと、身構えていたら、予想外の言葉を言われて、驚きながら兄様の顔を凝視する。兄様の顔は、薄暗い部屋でも分かるくらい赤くなっていた。

「兄様…僕の事、嫌いじゃないの?」

「だから!その…嫌いではないと…」

「なら、僕の事好き?」

「な!?……好き…だ…」

「僕も兄様の好きだよ!!」

兄様に突撃すれば、兄様は驚きながらも受け止めてくれた。兄様は、母様とフェリコ先生が言ったような、不器用で優しい人だった。

「リュカ…その…今度…また、ピアノを聞かせてくれないか?」

「兄様、僕のピアノ聞いた事ありましたけ?」

「書庫で聞いていた…」

そういえば、書庫とピアノのある部屋は近かった事を思い出した。

「兄様は、僕のピアノどう思いますか…?」

「リュカが引くピアノは…聞いてて…楽しい…」

「本当ですか!なら、屋敷に戻ったら兄様に聞かせますね!」

僕の言葉に、兄様が小さくだけど、笑ってくれたような気がした。僕がふっと視線を下げれば、兄様の右手が見えた。

「兄様!右手!怪我してますよ!!」

「ああ、屋根を壊した時に、破片で切れたんだろう。かすり傷だから問題ない」

兄様の右手には、2、3センチほどの切り傷が出来ていた。

「ダメです!手を貸して下さい!!」

僕は、兄様の手を取ると、回復魔法で兄様の傷を治してみせた。

「僕だってこれぐらいは出来るんですよ!!だから、兄様が怪我をしても治せるようになって、兄様を助けます!!」

「なら、私はリュカを守れるように、もっと強くなろう」

その瞬間、兄様の右手が光初め、光が消えた後には、兄様の右手の甲に、召喚獣に付いているのと同じような契約紋があった。

「なんでー!!?」
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