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一章

後1人?

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兄様が来たと思ったら、あっという間に状況が変わった。僕の目の前にいた男を、兄様が吹っ飛ばしたと思ったら、兄様が乗って来た青い龍も残りの男達を吹っ飛ばし初めていた。

兄様が、側に来てくれて、僕達の縄や首輪を取ってくれたけど、何だか未だに体が重い…。首輪をしているからかと思っていたけど、取れてもそれが変わらなかった。

兄様と母様が何か話しているのを、何処かぼんやりと聞いていたら、誰かが僕の手を取るのを感じた。すると、だんだんと体が暖かくなって行くのと同時に、しだいに頭がはっきりとしてきた。

「…どうだ?」

声を掛けられて顔を上げれば、兄様が僕の手を取って握っていた。状況が分からずに、不思議そうに兄様を見ていたら、兄様から心配そうに声をかけられた。

「…少し魔力が減っていたから、私の魔力を少し分けたが、体調はどうだ?」

そういえば、さっきまで感じていた体の怠さがなくなって、体調はだいぶ落ち着いていた。

「はい。さっきよりも辛くはないので大丈夫です」

僕が答えた後も、僕の様子をしばらく見ていたけれど、僕が大丈夫な事を確認し終わったのか、兄様は後ろを振り返りながら立ち上がる。僕も兄様と一緒に、同じ方向を見ると、青い龍が既に、男達を全員を地面に沈め終わった後だった。

さっきまで、怖いと感じていたけれど、その人達が全員地面に横たわって全く動かない。その様子は、また別の意味で怖くなる。兄様が殴った相手も、まったく動いている様子がない。

「…あれは、お前を傷付ける事はない。だから、大丈夫だ」

男達の様子を恐る恐る見ていたら、兄様が僕にそう言ってきた。別に、龍の事を怖がっていたわけではなかったんだけど…。

多分あれが、フェリコ先生が言っていた、兄様の召喚獣なのだろう。だから、最初から何となく怖いとは感じていなかった。むしろ、龍を見てみたいと思っていたので、格好いいとか綺麗だなと思う。でも、2体と聞いていたのに、残りの1体は何処に行ったんだろう?

「…これで全員か」

全てが終わった後、兄様があたりを確認するように、あたりを見渡していた。僕も真似してあたりを見渡すと、山小屋は僕達がいる方を除いて全壊していた。その時、倒れた人達の中に、奥の部屋に入って行った男がいない事に気が付いた。

「1人…足りない?」

「何…?」

兄様は振り返りながら、僕の発した言葉に対して疑問を口にする。

「何処に行ったか分かるか?」

「あっちの扉の方に行った」

兄様の言葉に答えながら、男が向った方の扉を指差す。兄様は、僕が指差した方へと向かうと、まだ原型を留めたままの扉を開けた。

「チッ…いない」

ここからは、中を見る事は出来ないけど、あの男はもう部屋にはいないようだった。

「…抜け道から逃げたようだ」

兄様が忌々しそうに呟きながら、こちらへと戻って来た。どうやら、仲間がやられているうちに、自分だけ逃げ出したようだった。

「2人を残して追うわけにも行かない…。だがら、諦めるしかないな…」

「それなら、私に行かせて貰えないかな?」

声がした方を見れば、父様がいつの間にかそこに立っていた。そして、その後を追うように、父様の後ろに赤い龍が着地するのが見えた。姿が見えなかった残りの1体なのだろうか?でも、何処か脅えた様に見えるのは気のせいだろうか?

「父様!!」

「…すまない。遅くなってしまった…。2人とも怪我などはしていないか?守ってやれずにすまない…」

足早に僕達の側に来た父様が、しきりに僕達に対して謝って来た。

「兄様が来てくれたから大丈夫!父様も来てくれてありがとう!!」

「私達は、大丈夫だから安心して、それよりアルは、大丈夫だった?」

僕達の言葉に、ずっと申し訳なさそうな顔に、少しだけ笑みが戻った。

「私は、大丈夫だから問題はないよ。オルフェ、私の変わりに2人を守ってくれてありがとう。そのオルフェに、また頼み事をするのは申し訳ないけど、前に泊まった宿を新たに予約しておいたから、2人をそこまで送って貰ってもいいかな?それと、残りの1人は…私に譲って欲しい…」

「……はい」

「父様?大丈夫?」

父様の様子が、何時もと違う様な気がして、心配になって聞いて見ると、父様は僕の頭を撫でながら答えた。

「大丈夫だよ。だから、私が戻るまで、宿で休みながら待っていなさい」

父様は、僕達に背を向けると、森の奥の方へと歩き出した。

「…さあ、私とも遊ぼうか」

父様の呟きは、冬の冷たい風に攫われて、僕達の所に届く事はなかった。
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