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一章

リュカのために(オルフェ視点)

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次の日、私は朝食を食べ終わると、出掛ける事を使用人に伝えて屋敷を出た。

リュカは、書庫で図鑑だけを見ていた。しかし、屋敷には書庫にある分しか図鑑がない。昔は、もっとあったのだが、私が読まなくなったを、孤児院や学院に寄付してしまったのだ。さすがに、孤児院に本を返せとは言えないので、学院へと向かっていた。

学院から、図鑑と私が昔読んでいた本を少し借りて来た。本来なら学院の本は、外に持ち出しが禁止されているが、家で寄付をした本だった事もあり、しばらくの間だけ借りる事が出来た。交渉に少し時間がかかると思っていたが、すんなり終わったので予定よりも速く屋敷に帰れそうだ。

だが、屋敷への帰り道、別に学院に行かなくても、普通に本屋で買えば良かった事という事に気が付いた。普段、ドミニクが最新の本を取り寄せ、書庫に置いて置くものだから、自分で本を買うという発想を忘れていた。御者に、行き先を変更してもらい本屋へと向った。

本屋に入れば、数多くの本が本棚に並んでいたが、ほとんどが屋敷で読んだ事のある本ばかりだった。

「いらっしゃいませ。何かお探しの物はありますか?」

「子供が読んで、楽しい物はあるか?」

「今、子供に人気なのは、ここにある本ですね」

棚を見れば、表紙に絵が描かれている本が並んでいた。初めて見る本だが、本当に子供に人気なのか?

「本当に…人気何だな?」

「はい。一番の売れ筋でシリーズで出ているんですよ」

「……分かった。なら、全部包んでくれ。それと、図鑑はあるか?」

書庫にある本以外は、全て包んで貰い、ここにない本は発注をかけてもらうように頼んでおいた。

他にも何件か本屋を周っていたら、すっかり夕方になっていた。使用人には、余裕を持った帰宅時間を告げておいて正解だった。

買って来た本を、書庫へと運ぶように使用人達に言い、リュカが取りやすいように、一番下にある図鑑と一緒に置くようにとも伝える。

リュカが喜んでくれるかと思ったのだが、夕食の席では元気がなく、私とも目線を合わせようともしない…。今日は、書庫に行かなかったのか?

リュカは、夕食を食べ終わるとそのまま静かに、部屋へと戻って行った。

その後も、食事の席などで、私が側にいると明らかにリュカの口数が減っていた。だが、何が原因なのか分からなければ、対策のしようがない。学院でも、その事ばかりを考えていた…。

「はぁ…」

明日から学院が長期休みだが、どうしたものか…。悩みながら、何時もの癖で書庫まで行くと、中に人の気配を感じて足を止める。気付かれないように扉を開ければ、リュカが楽しそうに買って来た本を読んでいる姿が見えた。私は、邪魔にならないよう、静かに扉を閉めると自分の部屋へと戻った。

次の日も、リュカの様子を見るために、少し時間を置いてから書庫に向かっていた。すると、廊下に立ちつくすリュカの後ろ姿が見えた。何かあったのかと疑問に思い近づけば、耳障りな声が聞こえて来た。

「儀式に失敗したから、貴族としてはおしまいね。愛想振りまいて損したわ」

「前々から、仕事の邪魔だなって思ってたのよね」

最初は、怒りに我を忘れて、殺してやろうかと思って奴らの前に立った。しかし、リュカが見ている事を思い出し、何とか踏みとどまる。その間に、奴らは私に背を向けて逃げて行った。正直、今すぐ捕まえて殺してやりたかったが、リュカの前で流血沙汰は起こしたくない。だから、今は見逃してやる、今はな…。

奴らに対しての殺意を抑えられない私は、リュカの方を振り向く事も、近付く事も出来なかった。怒りに染まった顔や、魔力が制御出来ない状態では、ますますリュカを怖がらせてしまう。私は、リュカに背を向けたまま書庫の方へと歩き出した。

しかし、途中から私の後を付いてくるリュカの気配を感じた。だから、何とか書庫に付くまでに、このに怒りを抑えなければ…。

書庫に付くまでの間に、何とか魔力制御と顔を取り繕う事が出来た。今だけは、あまり動かない表情に感謝をした。扉の前で、このまま立っているわけにもいかないと、椅子に座り本を読んでいる振りをする。

しばらくすると、静かに扉を開けながら、リュカが書庫の中へと入ってきた。そのまま、この前のように本を広げ出したが、持って来た本は前と違って、図鑑ではなく私が買って来た本だった。

私は、気付かれないように、リュカの様子を見ていた。先程までは、怒りでそこまで考えが及ばなかったが、まず怒るよりもリュカに何か言うべきではなかったのだろうか…。私の横で本を読む姿を見ながら、掛ける言葉を探すが、何も見つからない…。普段の会話さえ、上手く出来ないのに、傷ついた者への言葉など、どうしたらいいんだ…。

その後も、普段と変わらないような姿で本を読んでいるが、今までもあんな事を言われた事があったのだろうか…。そう思うだけで、再び怒りが湧いてくる。そいつら全員、焼き殺したい…。しかし、屋敷全体に及んでいるのであれば、さすがに私の手に余る…。

その日はずっと、リュカの様子ばかりを見ていた。

夕食後、ある部屋の扉を数回ノックすれば、部屋の住人がすぐに出て来た。

「…ドミニク。仕える相手がわからないような奴は屋敷にいらない…」

ドミニクなら、これだけで何があったのか分かるだろうと部屋を後にする。賢い者であれば、すぐに自ら辞めて行くのだろうが、奴らにそんな頭はないだろう。せいぜい、あの場で私に殺されなかった事を後悔すればいい…。

私は、部屋に戻りながら、奴らがたどる未来を想像して笑みを浮かべるのだった。
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