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一章

新年祭まで

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今週の授業を終えて、部屋でのんびりしていたら、母様の部屋へと呼ばれた。部屋に行ってみたら、見慣れないが2人が、母様と並んで立っていた。

「採寸?」

「そうよ。来週の新年際の服のために、あらためて測る必要があるの」

何でも、新年祭のために服は少し前から頼んで準備はしていたらしい。体の大きさが変わっても大丈夫なように、服を少し大きめに作っているので、後は、サイズが変わっていないか確認して、手直しするだけだそうだ。採寸が終わると、二人はすぐに帰って行った。

「新年祭って何をするの?」

二人が帰った後、新年祭について母様に聞いてみた。毎年、僕だけ留守番だったため、屋敷で美味しい料理を食べるだけで終わっていた。

「そうね…。城に行ったら、ほとんど挨拶回りで終わるわね…」

「えー!」

初めて新年祭に行けると思って、嫌な授業も頑張っていたのに…挨拶だけで終わるなんて…。

「でも、リュカ達は、私達に付き合う必要はないわ。パーティーには、美味しそうな料理とかも置いてあるし、ダンスだってあるから、楽しんでいて大丈夫よ。でも、迷子にならないように、目の届く所にはいてね?」

「はい!」

美味しそうな料理って何が出るんだろう!?僕が好きなチョコのお菓子も出てくるかな!?

「本当に分かっているのかしら…」

途中から、どんなお菓子が出てくるのかを、上の空で考えている僕は、母様が心配そうにしているのに気付いてなかった。

昼食を食べ終わった後、なんとなく部屋に戻る気になれなくて、僕は、書庫へとやってきていた。今は、学院に行っている時間だから、兄様が書庫に来ることはない。

「はぁ…」

部屋で1人ため息を付きながら、兄様の事を考えていた。

食事の時も、無視されているわけではないけど、何とも話し掛けにくい。しかも、父様が、こんなに屋敷にいない時がなかった事もあって、さらに気分が落ち込んでいく。

気分を変えようと、図鑑が置いてある場所まで行けば、前までは、植物と魔物関係の図鑑しか置いてなかったのに、動物や神話の生き物などが書かれた図鑑や、子供向けの本みたいな物が置いてあった。

「何時からこんなの置いたんだろう?ドミニクが本の入れ替えをしたのかな?」

ドミニクが、定期的に書庫の本を入れ替えを知っていため、僕はドミニクが本の入れ替えをしたのだと思った。

僕は、本棚から数冊取り出して来て読めば、どの本も面白くて時間を忘れて読みふけっていた。

気がついたら夕食の時間になっていたため、明日また続きを読もうと、本棚に本を戻し食堂へと向かった。

久しぶりに、楽しい夕食を堪能する事が出来た。その翌日、僕は昨日の続きを読むために、書庫へと続く廊下を歩いていた。途中の廊下を曲がろうとした時、使用人達との話し声が、曲がり角の奥の方が聞こえて来た。

「今後、リュカ様はどうなるのかしらね?」

「変わらず溺愛されているようだけど、こればっかりはね~。成人までしかいられないんじゃない?」

一部の使用人達の態度が、変わっている事は気が付いてはいた。だけど、分かっていても、実際に聞くのは初めてだ。

使用人達のおしゃべりが終わらないから、出るに出られなくて、廊下に立ちすくしている僕の横を、誰かが通り過ぎて行くのを感じた。

「オ、オルフェ様!!し、失礼します!」

兄様を見た使用人達は、すぐに逃げ出すようにその場を去って行った。兄様は、こちらを振り向くような事もなく、そのまま書庫の方へと行ってしまった。そんな兄様の後を追うように、僕も書庫へと向かった。

書庫の扉をゆっくり開くと、何時もと変わらない場所で兄様は本を読みながら座っていた。僕は、兄様の邪魔にならないよう、静かに書庫へと入った。

昨日の読みかけの本を持って、何時もの席に座る。兄様は、こちらを気にした様子もなかった。僕も、途中から本に夢中になっていた事もあって、お互い無言でいても、あまり気にならなくなっていた。

昼食を食べた後も、僕は兄様と一緒に、静かに本を読んで過ごしていた。

兄様は、僕に対して何か言ってくる事はない。だけど、使用人達みたいに、儀式後も態度を変える事もなかった。何も言わず、変わらない態度で接してくれるのは嬉しいけど…さっきの使用人達には、少しだけでいいから、怒って欲しかったと思うのは、僕の贅沢かな…。

次の日も、書庫で一緒に過ごしていたけれど、明日からの授業を思うと、自然とため息が出てくる。

「はぁ…」

「…どうした?」

こちらを向きながら、兄様から僕に話しかけてくれた。

「え!えっと、明日からの授業が、嫌だなって思って…」

言っている途中で、兄様から呆れられる未来しか予想出来なくて、声が小さくなる。

「…何をやるんだ?」

「ダンスと…貴族の家名とかを覚える授業…」

「ダンスなんて、無理に踊る必要もない。それに、嫌な貴族だけ覚えておけばいい」

「嫌な貴族?」

「それ以外は、無理に覚えなくてもいい」

それだけ言うと、視線を本へと戻してしまった。兄様は、そう言うけど、それは無理なんじゃないかな…。

次の日にやった授業も、先週と同じような内容だった…。

「ダンスは、問題ないと思います。相手がいればいいのでしょうが、私は女性のパートは踊れなくて……」

「兄様の時はどうしてたの?」

「オルフェ様の時には、女性の方もいたんですけど…アルノルド様に関わろうとする者がいて…中にはオルフェ様にも…だったので…アルノルド様が全員クビにして以来、女性を雇った事はないですね…」

「じゃあ、男の人は?」

「オルフェ様が、お世辞しか言わないような人間はいらないとおっしゃったので…」

「ああ…」

どうして、フェリコ先生しか、家庭教師がいなかったのか分かった。それにしても、父様は分かるけど、兄様はさすがに駄目だと思う。だけど、書庫で見た兄様の横顔を思い出すと、分からなくもないのか?

「まあ、ダンスの相手役をオルフェ様に頼むという手もありますけどね?」

「に、兄様に!?」

「オルフェ様なら、女性パートも完璧に踊れそうな気がします」

たしかに、兄様なら女性パートも完璧に踊れそうだと思うけれど、兄様に女性役を頼むのは、さすがにちょっと……。

「兄様…学院に行ってるから…」

「?学院は先週までで、今週から休みになっているはずですよ?」

「え?でも、今日の朝も馬車で出掛けて行きましたよ?」

「そうなんですか?なら、オルフェ様に頼むのは、無理そうですね」

ひとまずは、兄様が出掛けていて良かった…。屋敷にいたら、僕が頼みに行く事に、なっていたかもしれない。それにしても、兄様は何処に行ったんだろう?

「新年祭は今週なので、もう少し頑張って下さいね」

「はい…」

その後も頑張って、課題をこなし続けて、新年祭の日になった。
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