上 下
15 / 230
一章

お腹がすいて

しおりを挟む
空腹で目が覚めて、 部屋の時計を見ればもうすぐ 日付が変わるところだった。

父様からお腹が空いたら呼ぶように言われたけど、こんな夜更けに起こして、わざわざご飯を準備して貰うのは何だか申し訳ない……。

ベットに横になってはみたが、腹の虫の音が気になってなかなか寝付けない。寝返りを打ちながら気を紛らわせても、返って目が冴えてきて眠れない。

「あー!もう!!」

このまま朝まで我慢するのは無理だと思った僕は、ベットから飛び起きると、廊下へ出る扉をそっと開けた。

扉の外は、暗く静まり返っており、人の気配を感じない。

普段なら、夜ぐっすり寝ているため、こんな時間に部屋の外に出た事がない。普段から見慣れているはずの廊下が、夜だというだけで、全くの別の場所のように感じて恐怖を感じる。

「だ、大丈夫!厨房にお菓子を取りに行くだけだから!大丈夫!!」

誰もいない廊下で一人、小さく声を上げる。何か声を出していないと怖くて前に進めない。

「誰も…いない…よね…?急に…出てこないでね……?」

恐る恐る進むため、厨房までの道がとても長く感じた。

「うー。寒い……何か上に来てくれば良かったかな……」

冬の夜は日中と違って冷え込んでいるうえに、恐怖心も合わさって更に寒く感じて、身を縮こませる。僕は上着を着てこなかったことを後悔しが、今から部屋に引き返すには遠い場所まで進んだ後だった。僕は、このまま 厨房に向かった方が速いと思った僕は、足早に厨房へと向かった。

僕は厨房の扉の前に立つと、少しだけ扉を開けて、隙間から中に誰か人がいないかどうか様子を窺う。中に誰もいない事を確認すると、お菓子がないか厨房内を探し始めた。

「前は、ここら辺にあったと思ったんだけどな」

以前、お菓子を見つけた場所を探してみたが見つからない。 他の戸棚の奥も覗いて探して見たけれど、調理器具や食器など重いそうな物しか置いていなかった。

その後も、しばらくゴソゴソ辺りを探してみたけれど、やっぱりお菓子は見当たらなかった。 このまま諦めて帰ろうとした時、後ろのテーブルの上に小さな木箱が置いてあるのが見えた。

「あれ?こんなのさっきあったっけ?」

不思議に思いながら木箱の蓋を開けると、中にはたくさんのクッキーが入っていた。

「わぁ~!」

箱の中に入ったクッキーは、どれも美味しそうだった。 僕はその1枚ずつを取り出して口に入れる。そのたびに口の中に甘さが広がって美味しい。それに、お腹が空いていたからか、いつもより美味しく感じられた。

「あっ!!」

夢中でクッキーを食べていたら、僕は大変なことに気がついた。木箱に入っていたクッキーが、半分ほどにまで減っていた。こらはさすがに食べ過ぎたと後悔する。

前に、昼食前にクッキーをつまみ食いして、ドミニクに叱られたことを思い出す。ばれたらまた怒られると思い、慌ててクッキーを満遍なく並らべて蓋を閉める。

木箱を元の位置に戻すと、廊下に誰もいない事を確認して、部屋へと走って戻る。走っていたせいなのか、それともお腹が満腹になっていたからなのか、来た時よりも廊下は暖かく寒く感じることはなかった。

その後、ベットに潜り込むと、満腹と暖かさで、ぐっすり眠りに付く事が出来た。そのため、夜中につまみ食いをした事なんて、朝になったら綺麗に忘れてしまっていた。

「リュカ、おはよう。昨日は良く眠れたかい?」

朝、食堂に入ると何時もと変わらない態度で僕を迎えてくれた。

「おはようございます!昨日はちゃんと眠れました」

父様達に朝の挨拶をしながら、自分の席へと座って朝食が運ばれて来るのを待った。

「昨日は、ご飯食べなくてお腹空いていると思って、量をちょっと多くしてもらったのよ」

朝食が運ばれて来る時、母様に言われて朝食をみれば、確かに普段の量よりも多くなっていた。それでも、そこまで多いとわけでなかったので食べられると思っていた。でも、途中からお腹がいっぱいになって、箸の進みが遅くなる。何故か分からずに首を傾げていると、夜中にクッキーを食べた事を思い出す。

もし、このままご飯を残せば、夜中につまみ食いをした事がばれて怒られる!怒られないためにも、ご飯は残せないと思って、頑張って箸を進めて食べる。

「リュカ…。無理して食べなくていいんだよ……」

「そ、そんな事ないよ!お腹空いてるよ!」

両親は、心配しているような、何処か呆れているような気配があった。両親から視線を食事に戻せば、無意識でも食べていたのか、さっきまであった食事が、いつの間にかほとんどなくなっていた。

ほっとして顔を上げれば、両親揃って何処か少し笑っていた。不思議に思ってたら、横からも視線を感じて視線を向ければ、こちらを見ている兄様と視線が合った。兄様は、何処か疲れたようにため息を一つ付くと、そのまま食堂を出て行ってしまった。

そんな兄様を、両親は何処か可笑しそうに笑いながら見ていてた。

「どうしたの?」

「オルフェもアルに似て不器用ってことよ」

「?」

首を傾げる僕や、気まずけにしている父様をよそに、母様だけは楽しそうに笑っていた。

その後、僕が食堂から出ようと扉を開ければ、扉の外に、見覚えのある木箱を持ったドミニクが笑いながら立っていた……。

ドミニクに叱られた僕には、しばらくお菓子禁止令が出た……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生勇者は連まない。

sorasoudou
ファンタジー
連まないは、ツルまないと読みます。 「世界を救う見返りにハーレムを要求してるような性根が腐った奴は、ここを放ってどこに行ったんですか。って聞いてるんだが?」 異世界の神々によって創造された『勇者の器』 空っぽの体に転生し宿ったのは、記憶喪失の人違いの魂。 望めば何でも切れる神剣に、容姿端麗の朽ちない体。 極めつけは魅了の眼差し。 神々の加護も人嫌いには呪いでしかない。 絶対に仲間は要らない勝手に魔王倒させて下さいな勇者、一人旅希望です。 注意:紹介文の通り、比較的まじめに異世界を旅してます。 全年齢対象として書いていますが、戦闘場面などが含まれます。 こちらの作品はカクヨムで同時更新しています。 マンガ版を制作中です。表紙やキャラ絵は登場人物にて紹介しています。 更新はのんびりですが、よろしくお願いいたします。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...