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一章

夜に1人(アルノルド視点)

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皆が寝静まった夜に、私は一人、執務室のドアを開けた。

部屋の中は、本棚や、事務机など仕事で必要な物だけが置かれている簡素な部屋だが、今は部屋に置かれているとまり木に、一羽の鷹がとまっている。

片目だけを開けてこちらを見ていたが、私だと分かったからか、開けていた片目を閉じて、再び眠り始めた。人の気配にとても敏感で、誰か来れば眠っていても必ず目を覚ます。そのおかげで、助かっている部分が多いため、起こさないよう気を付けながら事務机の前に座る。

止り木で眠り続けている鷹は、幼い頃から私と共に過ごして来た、召喚獣のカルロだ。頭から羽にかけて茶色から黒へと変わる色合いをしており、嘴から目までに白色のラインが入っている。胸には召喚獣である印が見えた。

「はぁ…」

視線をカルロから部屋の時計へと向ければ、もうすぐ日付が変わりそうな時間になっていた。だが、やらなればならない仕事があるため、寝ている暇はない。昼間のうちに終わらなかった仕事や、翌日の仕事の段取りなど、やる事を探せばいくらでもある。

一日に発生する仕事の量が、日々増えていくばかりなのは、毎年の事だが、さすがに連日の徹夜は疲れる。

しかし、家族と過ごすために、徹夜で仕事をしている事がエレナに知られれば、無用の心配をかけてしまう。なので、寝たのを確認してから仕事をすると、どうしても仕事の開始が遅くなってしまう。前までなら、連日の徹夜もそれほど苦ではなかったのだが、私も歳をとったものだと自覚し、もうすぐ40だった事を思い出す。

使用人達も先に休んでいるため、屋敷は夜の静寂に包まれている。ドミニクにも休むよう言っているが、寝間着のままでは、仕事がし辛いだろうと着替えを用意し、エレナが起きる前に、それを回収しに来てくれるのだから頭が下がる思いだ。

しかし、こうして1人になると考えるのは、やはりリュカの事だ。

リュカの様子が、儀式の後からおかしいのは分かっていた。フェリコから、授業の様子を聞き出し、外出も気晴らしになればと思い許可を出した。今日の、出掛け先が貴族街ではなく街だったため、あからさま護衛を付ける事が出来なかった分は、カルロに一緒に行ってもらっていた。途中、不審な人影が付いて来ていたらしいが、カルロの警戒音で逃げる小物だった。

服装から、金持ちの商人の息子だとでも思ったのだろうが、契約紋がある召喚獣が側にいれば、貴族の可能性が高くなる。貴族に手を出すもの好きは、あまりいないため、それだけで抑止力にもなる。事前にフェリコには、私が管理する店のリストを渡していた。

エレナのために、服や装飾品関係、オルフェのために、書籍関係の店にも関わり他国の本も取り寄せたりしている。さすがに、屋敷に入らなくなった物は、オルフェの許可をとってから、孤児院や学院などに寄付しているが、その中で、リュカの好きなチョコで賑わっている店になったのは、リュカの日頃の行いのおかげだろう。

二人が店に入っている間に逃げた者を捕まえれば、やはりスリを生業なりわいとしている小物だったため、衛兵に引き渡したと護衛から報告を受けている。私も、暇ではないので、リュカに実害がないのであれば、私が手を下すつもりもない。

帰りの馬車の支度などを終わらせてから、手紙を飲み物と一緒にフェリコに届けさせた。夕食の話を聞いた限りでも、リュカには、気付かれていないようで安心した。気晴らしの外出を、小物なんかで台無しにされては可愛そうだ。

私は、仕事をするために、引き出しから書類を出そうとすれば、先週渡されたばかりの品が視界に入り、書類と一緒に取り出す。

ペレニアルペンは数年前に、とある商人が私の所に売り込み来た物だ。珍しい品を手に入れたと言ってはいたが、入手方法などを明かさない事に不信感しかなかった。それに、グレーの髪に薄紫色の目をした者の様子が、何とも怪し気で、私に猜疑心さいぎしんを抱かせる。しかし、商品に関しては役に立つようだった事もあり、金を払い手に入れはしたが、その後は、技術者達に渡し独自に製造方法を探らせていた。

そして、材料などの問題もなくなり、量産体制が整ったと、私の所にこれを持ってきたばかりなのだ。だから、これを使った事のある者など、ほぼいないと言っていいだろう。なのに、夕食の席でリュカは、まるで使った事があるように話していた。本人は、隠したそうにしていたので、その事を深く探るつもりはない。

「しかし、いったい何処で使ったのやら……」

時計を見れば、日付が変わってからしばらく時間がたっていた。私は、取り出した品を引き出しに戻し、リュカから貰ったばかりのペンを胸元から取り出す。日付が変わったのなら、明日使うという言葉も嘘にはならないだろうと、私は書類にペンを走らせた。
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