26 / 227
一章
夜に1人(アルノルド視点)
しおりを挟む
皆が寝静まった夜に、私は一人、執務室のドアを開けた。
部屋の中は、本棚や、事務机など仕事で必要な物だけが置かれている簡素な部屋だが、今は部屋に置かれているとまり木に、一羽の鷹がとまっている。
片目だけを開けてこちらを見ていたが、私だと分かったからか、開けていた片目を閉じて、再び眠り始めた。人の気配にとても敏感で、誰か来れば眠っていても必ず目を覚ます。そのおかげで、助かっている部分が多いため、起こさないよう気を付けながら事務机の前に座る。
止り木で眠り続けている鷹は、幼い頃から私と共に過ごして来た、召喚獣のカルロだ。頭から羽にかけて茶色から黒へと変わる色合いをしており、嘴から目までに白色のラインが入っている。胸には召喚獣である印が見えた。
「はぁ…」
視線をカルロから部屋の時計へと向ければ、もうすぐ日付が変わりそうな時間になっていた。だが、やらなればならない仕事があるため、寝ている暇はない。昼間のうちに終わらなかった仕事や、翌日の仕事の段取りなど、やる事を探せばいくらでもある。
一日に発生する仕事の量が、日々増えていくばかりなのは、毎年の事だが、さすがに連日の徹夜は疲れる。
しかし、家族と過ごすために、徹夜で仕事をしている事がエレナに知られれば、無用の心配をかけてしまう。なので、寝たのを確認してから仕事をすると、どうしても仕事の開始が遅くなってしまう。前までなら、連日の徹夜もそれほど苦ではなかったのだが、私も歳をとったものだと自覚し、もうすぐ40だった事を思い出す。
使用人達も先に休んでいるため、屋敷は夜の静寂に包まれている。ドミニクにも休むよう言っているが、寝間着のままでは、仕事がし辛いだろうと着替えを用意し、エレナが起きる前に、それを回収しに来てくれるのだから頭が下がる思いだ。
しかし、こうして1人になると考えるのは、やはりリュカの事だ。
リュカの様子が、儀式の後からおかしいのは分かっていた。フェリコから、授業の様子を聞き出し、外出も気晴らしになればと思い許可を出した。今日の、出掛け先が貴族街ではなく街だったため、あからさま護衛を付ける事が出来なかった分は、カルロに一緒に行ってもらっていた。途中、不審な人影が付いて来ていたらしいが、カルロの警戒音で逃げる小物だった。
服装から、金持ちの商人の息子だとでも思ったのだろうが、契約紋がある召喚獣が側にいれば、貴族の可能性が高くなる。貴族に手を出すもの好きは、あまりいないため、それだけで抑止力にもなる。事前にフェリコには、私が管理する店のリストを渡していた。
エレナのために、服や装飾品関係、オルフェのために、書籍関係の店にも関わり他国の本も取り寄せたりしている。さすがに、屋敷に入らなくなった物は、オルフェの許可をとってから、孤児院や学院などに寄付しているが、その中で、リュカの好きなチョコで賑わっている店になったのは、リュカの日頃の行いのおかげだろう。
二人が店に入っている間に逃げた者を捕まえれば、やはりスリを生業としている小物だったため、衛兵に引き渡したと護衛から報告を受けている。私も、暇ではないので、リュカに実害がないのであれば、私が手を下すつもりもない。
帰りの馬車の支度などを終わらせてから、手紙を飲み物と一緒にフェリコに届けさせた。夕食の話を聞いた限りでも、リュカには、気付かれていないようで安心した。気晴らしの外出を、小物なんかで台無しにされては可愛そうだ。
私は、仕事をするために、引き出しから書類を出そうとすれば、先週渡されたばかりの品が視界に入り、書類と一緒に取り出す。
ペレニアルペンは数年前に、とある商人が私の所に売り込み来た物だ。珍しい品を手に入れたと言ってはいたが、入手方法などを明かさない事に不信感しかなかった。それに、グレーの髪に薄紫色の目をした者の様子が、何とも怪し気で、私に猜疑心を抱かせる。しかし、商品に関しては役に立つようだった事もあり、金を払い手に入れはしたが、その後は、技術者達に渡し独自に製造方法を探らせていた。
そして、材料などの問題もなくなり、量産体制が整ったと、私の所にこれを持ってきたばかりなのだ。だから、これを使った事のある者など、ほぼいないと言っていいだろう。なのに、夕食の席でリュカは、まるで使った事があるように話していた。本人は、隠したそうにしていたので、その事を深く探るつもりはない。
「しかし、いったい何処で使ったのやら……」
時計を見れば、日付が変わってからしばらく時間がたっていた。私は、取り出した品を引き出しに戻し、リュカから貰ったばかりのペンを胸元から取り出す。日付が変わったのなら、明日使うという言葉も嘘にはならないだろうと、私は書類にペンを走らせた。
部屋の中は、本棚や、事務机など仕事で必要な物だけが置かれている簡素な部屋だが、今は部屋に置かれているとまり木に、一羽の鷹がとまっている。
片目だけを開けてこちらを見ていたが、私だと分かったからか、開けていた片目を閉じて、再び眠り始めた。人の気配にとても敏感で、誰か来れば眠っていても必ず目を覚ます。そのおかげで、助かっている部分が多いため、起こさないよう気を付けながら事務机の前に座る。
止り木で眠り続けている鷹は、幼い頃から私と共に過ごして来た、召喚獣のカルロだ。頭から羽にかけて茶色から黒へと変わる色合いをしており、嘴から目までに白色のラインが入っている。胸には召喚獣である印が見えた。
「はぁ…」
視線をカルロから部屋の時計へと向ければ、もうすぐ日付が変わりそうな時間になっていた。だが、やらなればならない仕事があるため、寝ている暇はない。昼間のうちに終わらなかった仕事や、翌日の仕事の段取りなど、やる事を探せばいくらでもある。
一日に発生する仕事の量が、日々増えていくばかりなのは、毎年の事だが、さすがに連日の徹夜は疲れる。
しかし、家族と過ごすために、徹夜で仕事をしている事がエレナに知られれば、無用の心配をかけてしまう。なので、寝たのを確認してから仕事をすると、どうしても仕事の開始が遅くなってしまう。前までなら、連日の徹夜もそれほど苦ではなかったのだが、私も歳をとったものだと自覚し、もうすぐ40だった事を思い出す。
使用人達も先に休んでいるため、屋敷は夜の静寂に包まれている。ドミニクにも休むよう言っているが、寝間着のままでは、仕事がし辛いだろうと着替えを用意し、エレナが起きる前に、それを回収しに来てくれるのだから頭が下がる思いだ。
しかし、こうして1人になると考えるのは、やはりリュカの事だ。
リュカの様子が、儀式の後からおかしいのは分かっていた。フェリコから、授業の様子を聞き出し、外出も気晴らしになればと思い許可を出した。今日の、出掛け先が貴族街ではなく街だったため、あからさま護衛を付ける事が出来なかった分は、カルロに一緒に行ってもらっていた。途中、不審な人影が付いて来ていたらしいが、カルロの警戒音で逃げる小物だった。
服装から、金持ちの商人の息子だとでも思ったのだろうが、契約紋がある召喚獣が側にいれば、貴族の可能性が高くなる。貴族に手を出すもの好きは、あまりいないため、それだけで抑止力にもなる。事前にフェリコには、私が管理する店のリストを渡していた。
エレナのために、服や装飾品関係、オルフェのために、書籍関係の店にも関わり他国の本も取り寄せたりしている。さすがに、屋敷に入らなくなった物は、オルフェの許可をとってから、孤児院や学院などに寄付しているが、その中で、リュカの好きなチョコで賑わっている店になったのは、リュカの日頃の行いのおかげだろう。
二人が店に入っている間に逃げた者を捕まえれば、やはりスリを生業としている小物だったため、衛兵に引き渡したと護衛から報告を受けている。私も、暇ではないので、リュカに実害がないのであれば、私が手を下すつもりもない。
帰りの馬車の支度などを終わらせてから、手紙を飲み物と一緒にフェリコに届けさせた。夕食の話を聞いた限りでも、リュカには、気付かれていないようで安心した。気晴らしの外出を、小物なんかで台無しにされては可愛そうだ。
私は、仕事をするために、引き出しから書類を出そうとすれば、先週渡されたばかりの品が視界に入り、書類と一緒に取り出す。
ペレニアルペンは数年前に、とある商人が私の所に売り込み来た物だ。珍しい品を手に入れたと言ってはいたが、入手方法などを明かさない事に不信感しかなかった。それに、グレーの髪に薄紫色の目をした者の様子が、何とも怪し気で、私に猜疑心を抱かせる。しかし、商品に関しては役に立つようだった事もあり、金を払い手に入れはしたが、その後は、技術者達に渡し独自に製造方法を探らせていた。
そして、材料などの問題もなくなり、量産体制が整ったと、私の所にこれを持ってきたばかりなのだ。だから、これを使った事のある者など、ほぼいないと言っていいだろう。なのに、夕食の席でリュカは、まるで使った事があるように話していた。本人は、隠したそうにしていたので、その事を深く探るつもりはない。
「しかし、いったい何処で使ったのやら……」
時計を見れば、日付が変わってからしばらく時間がたっていた。私は、取り出した品を引き出しに戻し、リュカから貰ったばかりのペンを胸元から取り出す。日付が変わったのなら、明日使うという言葉も嘘にはならないだろうと、私は書類にペンを走らせた。
20
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑
つちねこ
ファンタジー
この世界では、十四歳になると自らが呼び出した召喚獣の影響で魔法が使えるようになる。
とはいっても、誰でも使えるわけではない。魔法学園に入学して学園で管理された魔方陣を使わなければならないからだ。
そして、それなりに裕福な生まれの者でなければ魔法学園に通うことすらできない。
魔法は契約した召喚獣を通じて使用できるようになるため、強い召喚獣を呼び出し、無事に契約を結んだ者こそが、エリートであり優秀者と呼ばれる。
もちろん、下級召喚獣と契約したからといって強くなれないわけではない。
召喚主と召喚獣の信頼関係、経験値の積み重ねによりレベルを上げていき、上位の召喚獣へと進化させることも可能だからだ。
しかしながら、この物語は弱い召喚獣を強くしていく成り上がりストーリーではない。
一般よりも少し裕福な商人の次男坊ルーク・エルフェンが、何故かヤバい召喚獣を呼び出してしまったことによるドタバタコメディーであり、また仲間と共に成長していくストーリーでもある。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
この度神様を辞めて、地上に降りました。執着系武神様と無双旅をします!
yun.
ファンタジー
人間から、天使になり100年。
それから神に昇格して早5000年。
そろそろ、飽きました!
後任は育てたので、私は地上へ降ります!
そう宣言し、転生したのはエルフ。
最長1000年生きれるでしょう。
神様として頑張ってきた5000年ほど自由に生きたかったのですが、仕方ありませんね。
私は地上で、美味しいものを食べて、いろんなところを旅して、いろんな景色を見てきます!
と意気揚々と降り立ったのだが、武神は追いかけてくるし、人助けしまくっていたら、神と呼ばれるし。
それでも、今日も楽しいです!
2022.7.4 タイトル変更しました。
旧 拝啓 この度神様やめました。
異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪
紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。
4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
闇属性転移者の冒険録
三日月新
ファンタジー
異世界に召喚された影山武(タケル)は、素敵な冒険が始まる予感がしていた。
ところが、闇属性だからと強制転移されてしまう。
頼れる者がいない異世界で、タケルは元冒険者に助けられる。生き方と戦い方を教わると、ついに彼の冒険が始まる。
強力な魔物や冒険者と死闘を繰り広げながら、タケルはSランク冒険者を目指す。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる