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一章

僕は普通

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朝の日差しで目が覚めて、窓の外を見れば、今日は雲一つない快晴だった。だけど、僕の心は何処か晴れないまま、どんよりと雲が覆っているようだった。

「リュカ様。失礼致します」

ノックの音が聞こえた後に、リカが僕の部屋へと入ってきた。

「リュカ様、おはようございます。もう…お目覚めだったのですね…」

朝は何時も、リカに起こしてもらうまで寝ている事が多いせいか、何処か心配そうな顔をしてこちらを見ていた。

「おはようリカ!なんか今日は、目が覚めちゃって!」

僕は、これ以上皆に心配をかけたくなくて、何でもない振りをして挨拶を返した。けれど、リカの顔をみれば、それが上手くいっていない事は分かった。その後、何時もみたいに服を着るのを、リカに手伝って貰いながら、両親達が待つ食堂へと向かった。

昨日の夕食での事もあったせいか、なんとも食堂に入り辛い…。だけど、ここで引き返して、朝食を抜いたとなれば、更に皆に心配をかける事になる…。僕は、深呼吸をしてから、食堂の扉を開けて中に入った。

「父様、母様おはようございます!」

「おはようリュカ。昨日は、眠れたかい?」

「おはよう。今日もいい天気ね」

食堂には、父様と母様が何時ものように座って、僕が来るのを待っていた。だけど、何時も先に来ている兄様の姿が、食堂の中にはなかった。

朝と夕は、決まって家族全員で食事をとっている。たまに、父様や兄様が用事などでいない時はあったが、それは夕食の時だけであり、朝食の席にいないなんて事は今までになかった。それに、兄様は時間に正確なので、時間より遅く来るなんて事もなかった。

「兄様は?」

自分の席に座り、空席になっている隣の席を見ながら、両親に尋ねる。

「オルフェは、まだ来ていないよ。予定の時間までもう少しあるから、待っていたけど…オルフェしては珍しいな…」

「そうね…何処か具合が悪くなっているのかもしれないから、私、部屋まで行ってオルフェの様子を見てくるわ」

「エレナ、頼んでもいいかい?私は、ここで待っているから」

母様に声を掛ける前、父様が僕の方を少し見たような気がした。兄様よりも、僕が優先されている事に、少し罪悪感を感じる。母様が席を立って様子を見に行こうとした時、食堂の扉が開いて兄様が入って来るのが見えた。

「おはようございます…」

「何時もより遅かったね?何処か具合でも悪いのかい?」

父様は、心配しそうに兄様の様子を伺いながら声をかける。

「いえ…。……昨日、少し遅くまで本を読んでいたので遅くなりました……」

「具合が悪くないなら良かったわ。今、様子を見に行こうか話していた所なの」

「……ご心配をおかけしました」

兄様が、席に付いたのを確認した使用人達が、朝食の準備を始めた。

「それにしても、オルフェが寝坊するなんて子供時以来かな?」

「そうね。子供の時以来ね」

「………」

自分の事が話題になっているのに、兄様は気にする様子もなく、朝食が運ばれて来るのを見ていた。それにしても、兄様も寝坊した事あるんだ。

「そういえば、一度、部屋を半壊させた事もあったね」

「は、半壊!?」

突然聞こえてきた不穏な言葉に、視線をそちらに移せば、父様が楽しそうに笑っていた。

「そ、そうね。あの時は、さすがに私も驚いたわ……」

母様!驚いたで済ませていいの?そもそも何をすれば部屋が半壊するの!?その時、兄様にいったい何があったの!?

「あの頃は、オルフェもやんちゃだったな~。リュカも、やんちゃしたければしてもいいよ?」

「え、遠慮します」

父様からかけられた言葉に、少し引き気味に返事を返す。

「そうかい?周りに人がいなければ、屋敷内なら何処を壊しても大丈夫だから」

「しませんよ!!」

僕を、破壊魔みたいに言わないで欲しい!むしろ、部屋を半壊させて、やんちゃの一言で終わる父様の感覚が凄いです。僕は、普通の人間なので、そのレベルを求められても無理です!

え、やらないの?という父様の顔無視して兄様を見ても、顔色も表情も何一つ変える事無く、運ばれて来た朝食を食べていた。その様子を見ていると、何だか今まで僕が悩んでいた事がすごくちっぽけに感じて、悩んでいるのがだんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。そもそも、僕は普通の人間なんだから、父様達と比べる事が間違っていた。

何処か吹っ切れたような思いで、僕も運ばれて来ていた朝食を食べていたら、食後のデザートが運ばれて来た。しかも、僕が好きなチョコ味!ドミニクの方に視線を向ければ、小さく頷いているのが見えた。どうやら、お菓子禁止令が解除されたようだ!なんで、予定よりも速くなったかは分からないけど、お菓子が食べれるなら理由は関係ない。

周りに心配をかけた事など忘れ、お菓子が食べれるなら、たまに悩むのも悪くないかなと、お菓子に舌鼓をうつ。途中、兄様から見られているような視線を感じる事があったけど、視線を向けて見てもこちらを見ている様子はなく、不思議に思いながら僕は食堂を後にした。
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