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一章
儀式の後(アルノルド視点)
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私は、教会で気を失ってしまった息子のリュカを連れ、慌てて屋敷へと戻ってきた。
教会で取り乱し、御者に声を荒げてしまった。屋敷に向かう道すら、来たときよりも長く感じて、馬車の遅さに苛立ちが込み上げる。
私達が乗っている馬車が、窓から見えていたようで、何時ものように使用人達が私達を迎える準備をしていた。たが、その準備が終わるまで悠長に待ってやる余裕は、今の私にはない。
リュカを腕に抱えたまま立ち上がると、御者が扉を開けるよら先に、扉を蹴り飛ばすように開ける。
古参からいる者にあまり動揺は見られないが、新参共の騒がしさが気に触る。何よりも、まったく動こうとしない様子に、さらに苛立ちが込み上げてくる。
「アルノルド様!」
執事長のドミニクが来た事で、ようやく他の使用人共も動き出したようだ。
来るのが遅いとも思ったが、屋敷全般の仕事を統括、管理しているのを分かっているため、叱責したい気持ちを堪える。
「医者とリタを呼べ!それと、話があるから書斎まで来て欲しいとエレナに伝えてくれ!」
簡潔に支持を出した後、その場をドミニクに任せ、私は足速にリュカの部屋へと向った。
リュカの部屋に付くと、リュカをベットに寝かせ、乱れた前髪を直しながら頭を撫でる。数時間もたっていないのに、朝に見た笑顔が遠い昔のように感じた。
「リュカ様!!っ!!す、すみません!アルノルド様!!」
部屋の扉をノックもせずに、リタが慌てたように入ってきた。私の存在に気がつくと、慌てたように身を正す。普段と変わらないようなリタの行動に、先程まで張り詰めていた緊張の糸が緩んで、何時ものような冷静さを取り戻す事が出来た。
「リタ。リュカの看病を頼みたい。事情は何となく把握していると思うが指示があるまで他言無用。医者は、呼びに走ってもらっている。リュカが目を覚ましたら、私の書斎まで報告を頼む」
「畏まりました」
私は、リタにリュカを任せて書斎へと向かう。本当なら、私がリュカの側にずっと付いていてあげたかった。しかし、私の姿を見れば教会での出来事を思い出してしまうのではないか、私の存在が息子の負担になってしまうのではないかと思えば、リュカの側にいる事が出来きなかった……。
書斎に付いて椅子に座って思い出すのは、教会での出来事だ。
私は、リュカが儀式に失敗した時に、どう声をかけたらいいのか分からず、結局はリュカを傷つけるだけだった。私が、もっと気の効いた事をリュカに言えていたら…後悔ばかりが頭を過る。屋敷についた時だって、使用人達よりも自分自身の不甲斐なさに一番腹が立っていた。
政務の事なら感情を交えずに、どんな案件でも対処する事が出来る。しかし、自分の子供の事になると、何が正解なのか分からなくなる。
確かに貴族には魔力を持たない者や、儀式を失敗したものは存在はしない。正確には最初からいなかった事になる。だから、産まれてすぐに死産になる者や、5歳で病死する者が一定数存在する。
地方貴族や下位の貴族の中には、後で、隠蔽しやすいように、妊娠した事実を知られせず、妻を屋敷に軟禁する事もある。子供も、学院に入学まで外に出さずに隠す者もいる。
まあ、隠蔽する方法としても、子供を他国の孤児院に預けたりするならまだましだろう。問題は、子供の存在を隠す事が出来ない者達だ。
王都に住んでいれば隠そうとしても、何処からか情報は漏れてしまうため、確実に隠す事など出来ない。貴族の子供が春や夏に生まれるのは、子供が病死したりしても、不自然ではないよう偽装する時間を作るためだ。
裏口があるのも、召喚場に出口があるのも、他者と絶対に出会わないでようにするためだ。
教会側も、貴族の面倒事には関わる事を嫌い、儀式場に入るのは、本人と家の家長だけと決まっている。
私に言わせれば、全てが不愉快極まりない。貴族の矜持などという下らない理由で、家族を蔑ろにするなど私には考えられない。
エレナがオルフェを身籠った時は、知り合い自慢してまわっていた。レクスからは、聞き飽きたと言われたほどだ。
リュカを身籠った時は、事前にエレナから釘を刺されていたので、知り合いに手紙を送り、屋敷に来る商人達全員に自慢するだけに留めた。
だが、何故かエレナには叱られ、オルフェには白い目で見られてしまった……。自重したのに…何故だ?
私にとって、家族は誇る者であり、隠す者でも、恥じる者でもない。だから、儀式に失敗しようが、リュカが私の大事な息子である事に変わりが無い。
だから、私には何も問題はない。だが…リュカは違う…。
他の貴族共は、リュカに対して、心無い言葉や冷たい視線を向けるだろう。もちろん、リュカは私が守る。
しかし、その全てから守ることは、現実的に出来ないだろう…。それこそ、屋敷の外に出さず、隔離する以外には…。だが、リュカにそんな事はしたくはない…。あの子達には、貴族のしがらみなど関係なく自由に生きて欲しいと思っている。
オルフェにも、自由に生きて欲しくて、幼い頃から遠乗りや、家族での観劇などにも誘ってみたが、断られる事の方が多かった。終いには、自分に構う時間があるなら当主としての仕事して下さいと言われてしまった……。
エレナには、昔の私によく似ていると言われた……。何とも複雑な気分だった……。
リュカは、我儘を言って甘えてくれる子供らしさがあった。それが嬉しくて、オルフェの分もリュカを甘やかしてしまった自覚はある…。そんなリュカには、どう説明すればいいのだろうか……。
答えの出ない問題に、思考を巡らせていると、控えめに部屋をノックする音が聞こえた。
「入ってくれ…」
「アル…」
扉を見れば、妻のエレナが、不安そうな顔をして立っていた。
教会で取り乱し、御者に声を荒げてしまった。屋敷に向かう道すら、来たときよりも長く感じて、馬車の遅さに苛立ちが込み上げる。
私達が乗っている馬車が、窓から見えていたようで、何時ものように使用人達が私達を迎える準備をしていた。たが、その準備が終わるまで悠長に待ってやる余裕は、今の私にはない。
リュカを腕に抱えたまま立ち上がると、御者が扉を開けるよら先に、扉を蹴り飛ばすように開ける。
古参からいる者にあまり動揺は見られないが、新参共の騒がしさが気に触る。何よりも、まったく動こうとしない様子に、さらに苛立ちが込み上げてくる。
「アルノルド様!」
執事長のドミニクが来た事で、ようやく他の使用人共も動き出したようだ。
来るのが遅いとも思ったが、屋敷全般の仕事を統括、管理しているのを分かっているため、叱責したい気持ちを堪える。
「医者とリタを呼べ!それと、話があるから書斎まで来て欲しいとエレナに伝えてくれ!」
簡潔に支持を出した後、その場をドミニクに任せ、私は足速にリュカの部屋へと向った。
リュカの部屋に付くと、リュカをベットに寝かせ、乱れた前髪を直しながら頭を撫でる。数時間もたっていないのに、朝に見た笑顔が遠い昔のように感じた。
「リュカ様!!っ!!す、すみません!アルノルド様!!」
部屋の扉をノックもせずに、リタが慌てたように入ってきた。私の存在に気がつくと、慌てたように身を正す。普段と変わらないようなリタの行動に、先程まで張り詰めていた緊張の糸が緩んで、何時ものような冷静さを取り戻す事が出来た。
「リタ。リュカの看病を頼みたい。事情は何となく把握していると思うが指示があるまで他言無用。医者は、呼びに走ってもらっている。リュカが目を覚ましたら、私の書斎まで報告を頼む」
「畏まりました」
私は、リタにリュカを任せて書斎へと向かう。本当なら、私がリュカの側にずっと付いていてあげたかった。しかし、私の姿を見れば教会での出来事を思い出してしまうのではないか、私の存在が息子の負担になってしまうのではないかと思えば、リュカの側にいる事が出来きなかった……。
書斎に付いて椅子に座って思い出すのは、教会での出来事だ。
私は、リュカが儀式に失敗した時に、どう声をかけたらいいのか分からず、結局はリュカを傷つけるだけだった。私が、もっと気の効いた事をリュカに言えていたら…後悔ばかりが頭を過る。屋敷についた時だって、使用人達よりも自分自身の不甲斐なさに一番腹が立っていた。
政務の事なら感情を交えずに、どんな案件でも対処する事が出来る。しかし、自分の子供の事になると、何が正解なのか分からなくなる。
確かに貴族には魔力を持たない者や、儀式を失敗したものは存在はしない。正確には最初からいなかった事になる。だから、産まれてすぐに死産になる者や、5歳で病死する者が一定数存在する。
地方貴族や下位の貴族の中には、後で、隠蔽しやすいように、妊娠した事実を知られせず、妻を屋敷に軟禁する事もある。子供も、学院に入学まで外に出さずに隠す者もいる。
まあ、隠蔽する方法としても、子供を他国の孤児院に預けたりするならまだましだろう。問題は、子供の存在を隠す事が出来ない者達だ。
王都に住んでいれば隠そうとしても、何処からか情報は漏れてしまうため、確実に隠す事など出来ない。貴族の子供が春や夏に生まれるのは、子供が病死したりしても、不自然ではないよう偽装する時間を作るためだ。
裏口があるのも、召喚場に出口があるのも、他者と絶対に出会わないでようにするためだ。
教会側も、貴族の面倒事には関わる事を嫌い、儀式場に入るのは、本人と家の家長だけと決まっている。
私に言わせれば、全てが不愉快極まりない。貴族の矜持などという下らない理由で、家族を蔑ろにするなど私には考えられない。
エレナがオルフェを身籠った時は、知り合い自慢してまわっていた。レクスからは、聞き飽きたと言われたほどだ。
リュカを身籠った時は、事前にエレナから釘を刺されていたので、知り合いに手紙を送り、屋敷に来る商人達全員に自慢するだけに留めた。
だが、何故かエレナには叱られ、オルフェには白い目で見られてしまった……。自重したのに…何故だ?
私にとって、家族は誇る者であり、隠す者でも、恥じる者でもない。だから、儀式に失敗しようが、リュカが私の大事な息子である事に変わりが無い。
だから、私には何も問題はない。だが…リュカは違う…。
他の貴族共は、リュカに対して、心無い言葉や冷たい視線を向けるだろう。もちろん、リュカは私が守る。
しかし、その全てから守ることは、現実的に出来ないだろう…。それこそ、屋敷の外に出さず、隔離する以外には…。だが、リュカにそんな事はしたくはない…。あの子達には、貴族のしがらみなど関係なく自由に生きて欲しいと思っている。
オルフェにも、自由に生きて欲しくて、幼い頃から遠乗りや、家族での観劇などにも誘ってみたが、断られる事の方が多かった。終いには、自分に構う時間があるなら当主としての仕事して下さいと言われてしまった……。
エレナには、昔の私によく似ていると言われた……。何とも複雑な気分だった……。
リュカは、我儘を言って甘えてくれる子供らしさがあった。それが嬉しくて、オルフェの分もリュカを甘やかしてしまった自覚はある…。そんなリュカには、どう説明すればいいのだろうか……。
答えの出ない問題に、思考を巡らせていると、控えめに部屋をノックする音が聞こえた。
「入ってくれ…」
「アル…」
扉を見れば、妻のエレナが、不安そうな顔をして立っていた。
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