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一章

失敗

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その後も、たわいもない話をしながら、部屋で待っていると、5分くらいで扉をノックする音が聞こえてきた。

「失礼いたします。準備が整いましたので、ご案内させていただきます」

「よろしく頼む」

案内人と共に、部屋の外へと出る。案内人に続いて、奥に続く廊下を進んで行けば、僕達がいた部屋以外に、多くの部屋の扉が見えた。

部屋に案内されている途中にも、扉の大きさは違うものの、多くの部屋があった。

「とうさま?なんで、こんなにいっぱいへやがあるの?」

「建国した時の建物をそのまま使っているから、そのなごりが今でも残っているんだよ。今となっては、貴族同士が鉢合わせしないように、控室として利用するくらいにしか使っていないけどね」

「ふ~ん」

長い廊下には、所々に絵画や彫刻なども飾られていた。気になった物をそのたびに指させば、父様は一つ一つ説明して教えてくれた。そんな中でも、大きな絵画が飾られているのが見えた。

「あれは、何の絵なの?」

「あれは、建国した時の一場面を描いたものだな」

絵の中では、金髪の青年と赤髪の青年が、黒い大きなモヤのような物に戦いを挑んでいる姿が描かれていた。

「世界を混乱に陥れた者が現れて、世界が危機にひんした時に、二人の若者が先導をきって戦いを挑むも、犠牲ばかりが増えていったそうだよ。そして、その犠牲を嘆いた赤髪の青年が、その身を使って封印する事によって世界に平和がもたらされたとされている」

「もう1人は、どうしたの?」

「残った1人は、国を作り国王になったとされている。つまり、この国の王族は、英雄の血を継いでいる事になっている」

「ふ~ん」

あまり面白みが感じられなくて、とたんに興味がなくなる。ここまで来る間も、たいして面白みがない物ばかりだったし、だんだん歩くのに飽きてきてしまった。

「リュカ、もしかして疲れてきたかい?ごめんね…私も、表の方から来るとここまで遠いとは思っていなくって……」

「だいじょうぶ…」

その後も、しばらく廊下を歩いて、ようやく一つの大きな扉の前で案内人が止まった。

「私の案内は、ここまでです。終わりましたら、反対側の扉にある紐を引いて下さい。では、私は失礼させていただきます」

案内人はそう言って一礼すると、僕達に背を向けて来た道を戻って行ってしまった。

大きな扉にはレリーフが掘られており、鳥と猫と鹿のような物の周りを花の葉みたいなのが描かれていた。

父様は、その扉を静かに押し開いた。

父様が開けてくれた扉と一緒に、僕も部屋の中へと入る。部屋の中を見渡すと、全体が円形の形をした部屋になっていた。その部屋の中心には魔法陣のような物が描かれているだけで、他には何も置いてなく、向こう側にある扉が見えるだけだった。

「とうさま、あのとびらは?」

僕は、扉を指差して父様に聞いてみた。

「あれは、外に出るためだけの扉だよ」

「あぶなくないの?」

前に、何故僕の部屋とかが玄関から遠いのか、フェリコ先生に聞いた事がある。人の多い出入り口では、警備が大変で守り難いから、大切な場所ほど遠くなる事が多いと言っていた。ここも大切な場所だと聞いたのに、外に行ける扉がすぐそこにあるのは危ないのでは?

「大丈夫だよ。あれは、内側からしか開かない仕組みになっているんだ。扉の外に馬車を止める場所もあるから、帰る時はもう歩かなくても大丈夫だよ」

帰りにまた、あの長い廊下を歩かなくていいのは良かったけど、なんでこの部屋の中に出口があるんだろう?

「でも、なんでこっちにもでくちが…」

「リュカ儀式の方法は知っているね?」

「は、はい!??」

質問の途中で、言葉を遮ることが今までなかったので、驚いて少し変な声が出てしまった。

「なら、行っておいで」

父様は、魔法陣の方へと促すように、僕の背中をそっと押した。

何時もなら僕の質問攻めにも、最後まで付き合ってくれていた。ここまで来る間は、答えてくれていたのに、今の父様は僕からの質問を避けているような気がした。なんで?と疑問に思うものの、帰りにでも聞けばいいやと、僕は魔法陣の上に立った。

フェリコ先生の授業では、魔法陣に自分の魔力を流し込めば、異世界の扉が開いて卵が現れるという事だった。何が現れたかは産まれるまでは分からない。気に入らなかったからといって、やり直そうとしても、扉は一生のうちに一回しか開く事が出来ないそうだ。

僕は、どんな子が来ても大事にするつもりだから、何も問題はないけど。

僕は、授業で練習したように、魔法陣にゆっくりと魔力を注いでいく。するとしだいに、魔法陣が淡い光を放ちながら輝き始めた。

僕は、ドキドキしながら卵が現れるのを待ったが、しばらくたっても何も現れる気配がない。不思議に思っていると、魔法陣の光が徐々に弱くなっていき、最後には消えてしまった。

僕は、何が起こったのか分からずに父様の方を見ると、何時も笑顔を浮かべている父様の顔から笑顔が消えているのが見えた。笑わないと兄様に似てるなと、何処か現実逃避のような事を僕は考えていた。

そんな事を考えている間に、僕の近くに来ていた父様は、優しく僕を抱き上げてくれた。

「リュカ、屋敷に帰ろうか」

「とうさま、ぎしきは?」

僕の質問に、父様は何故か悲しそうな目をしていた。

「リュカ…儀式はもういいんだよ……」

「なんで?まだ、ぼくのたまごきてないよ?」

「リュカ…卵は……もう…来ないんだよ……」

父様は、絞り出すような声で僕に言った。

最初、父様が何を言っているのか、僕は理解する事が出来なかった。ただ、フェリコ先生のアルバみたいな子は、僕の所には来ないんだという事が分かって、僕の意識は闇に落ちていった。
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