アルファな主人とオメガの従者

すの

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初めての発情期 前編

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「あ、れ…?」

いつもと同じように楓様のベッドメイキングを行なっていると、不自然な動悸が走った。

首を傾げつつ、作業する手は緩めない。もう少しで楓様が帰ってくる時間だからと、急いで手を動かすうちに、なんだか息も上がってきた。

「…っはぁ、はぁ。」

周囲のものが滲んで見えるようにもなり、息苦しさからベッドに手を着く。顔を項垂れると、その手の側にあった枕の匂いに気がつく。シトラスのような柑橘系の爽やかな香りが動悸を激しくする。

「いい匂い…。」

うっとりとその枕に鼻を近づける。すると、自分の中の疼きが強くなっていくのを感じた。

刹那、自分を襲っている症状がオメガの発情期と呼ばれるものであると気がつく。

急いでこの場を離れなければと思う心の一方で、もう少しだけこの匂いを嗅いでいたいと思う自分がいる。そしてその衝動に抗えず、思いっきり枕に顔を突っ込む。

普段の自分であれば主人のものにこんな堂々と触れることはなかったが、今はその判断もつかなくなっていた。

「っあ…。」

さっぱりとした香りが胸いっぱいに広がり、下半身がずくっと重くなる。

もっともっと、と吸い込むうちに頭がふわふわしてくる。匂いに逆らえなくなってベッドの上に乗り上げると、お尻からトロリと何かが溢れる感じがした。

それが何かを知識では知っていたが、実際に体験するのは初めてであった。

くっついてしまったズボンが気持ち悪い。もはや、いつもの冷静沈着な類ではなく、色欲に浮かされたオメガの表情になっていた。

「ぁ、…はぁ。」

後ろだけでなく、前の逸物も張り詰めているのが分かる。火照った体から解放されるために、タキシードとズボンを脱ぎ捨て、白いシャツと下着だけの姿になる。

普段お支えしている楓様のベッドの上でこのようにいけないことをしているという意識がさらに体の疼きを強くする。

赤く腫れ上がった自身に触れるだけで、身体がありえないくらい反応する。一度、二度と擦ってみるとすぐに迫り上がってくるものがあり、声が漏れる。

「は、っ、あぁ…はぁ……あ"、」

すぐに果ててしまったが、手の中のそれは既にまた立ち上がっていた。いつもは一度出してしまえば治るそれに混乱しながらも、手は快楽を求めて動き出していた。

「ん、んっ…は…ぁ、あ、だめ…っ」

また上り詰めてしまい、ベッドに横たわる。少し落ち着いてみると、広い部屋にただ一人で寝転んでいることに寂しさを感じた。

「…もっと…っ、ほしい…。」

熱に浮かされたようにふらふらと立ち上がり、足は勝手に楓様のクローゼットに向かっていた。

先ほど綺麗にしまったはずの洋服たちを引き摺り出し、ベッドへと運んでいく。その間にも何度か達してしまい服を駄目にする。いつもであればあり得ない行動だが、体の中に燻る熱さが常識を塗り替えていた。

「っはぁー、…あぁ、あ"!…」

いわゆる巣作りと呼ばれる行為を終え、ベッドに戻るとそれだけで体の疼きが強くなる。近くにおいたいつも楓様が着ているシャツを握りしめ、抱きしめるとまた、こぷっと孔から溢れ出た液体が足をつたっていくのを感じる。その感覚にまた高められ、思わずこの場にいるはずのない人を想って名前を呼ぶ。

「かえで、さま…。はぁ、…ん。」

今は大学にいるはずの俺の敬愛する主人。初めて出会った10歳の時から俺は彼の虜になった。

間違いがないようにアルファの主人にオメガの従者は普通雇われることはない。だが、俺はどうしても側にいたいという思いから、12歳でオメガと診断されてからもベータと偽って彼の従者を続けている。

幸い俺はオメガの特性が出にくいらしく、18歳になっても発情期を迎えたことはなかった。このままベータとして楓様の側にいられるだけでいいと願っていたのに。

それも今日で終わりだ、と頭の片隅で声がする。この惨状を見られた俺はきっと解雇されるだろう。

もちろん、結ばれることはないと分かっていてた。楓様もいつかは綺麗なオメガと結婚するのだと。それでも…

「す、き…。」

一度声に出してしまえばもう止まらなかった。初めて出会った時のアメジストのような瞳と優しい笑顔に俺は一目惚れだった。先月高校を卒業して、俺は専業従者となったが、その喜びに浮かれていたから、こんなことになったのだろうか。マイナスな考えからどんどん視界がぐらつき、涙がぽろぽろと落ちていく。それでも、口をつく言葉は止まらない。

「すき、すき、楓様…。はぁ、あ、好き…。」

へこへこと彼の衣類に腰を押し付けながら、ぐちょぐちょになったシャツに顔を埋める。そして無我夢中の俺は背後から迫る足音に気が付かなかった。

「ふふ、随分可愛いことしてるね、類。」

聞き心地のよいテノールの声を受け入れた瞬間、さぁーと血の気が引いていった。

「か、えでさま。」

シャツから顔を上げると、にこりと微笑む美しい顔がそこにあった。そしてその瞳にはあられも無い姿の俺が写っていた。

「類?」

ぼやけた視界の中で楓様が俺の顔を覗き込んでいるのが分かる。

「っちが、くて、…その、ぉれオメガで、…だましていて、すみません……。」

ぽろぽろと不恰好に言葉がこぼれ落ちる。

しかし、それを見た楓様は咎めることもなくただじっと俺を見つめ、微笑んだ。

「うん、知ってたよ。俺のこと、好きなんでしょ。あーいい匂い。」

「ぇ…。」

「いつ発情期に入るか待ち侘びてたよ。もう十分待ったし、類の言質も取れたし…いいよね?」

唖然とした俺の唇に柔らかいものが触れる。

なんで知ってるのかとか、いつから気づいていたのかとか聞きたいことは色々あったけれども、ぐちゅぐちゅと口を掻き混ぜられ何も考えられなくなってしまう。

「あー、かわい。」

長い長いキスを終えて唇が離れても、お互いを結ぶどちらの唾液ともつかない糸が垂れ、俺は赤面した。

「ね、好きって言ってよ。」

ちゅ、と音を立てて唇にキスされる。ちゅっちゅっと子供のようなキスが額に、瞼に、頬に落とされる。

「っっすき、…楓様好きです…。」

「良かった、俺たち両思いだね。」

「っ本当に…?」

「本当に。類、愛してるよ。」

その言葉を皮切りにまた楓様のキスは容赦のないものになっていく。

「ほら、鼻で息して」

そう言われるけど上手く呼吸ができない。びちゃびちゃと音を立てながら唇を貪り合う。

「ん"、ぅ、ん、ふぅっ…」

気がつくと、俺の着ていたシャツも下着もいつのまにか脱がされていた。

くちゅ、くちゅ、とどちらとも分からない口元から響く音を立てながら、舌を絡め合う。またそれだけで達してしまいそうだった。

外気に触れた俺の肌を楓様の舌が伝う。ツーと首を滑られ、小さく鈍い痛みが走るたび、んっと声を漏らしてしまう。

そして彼の頭が俺の真っ平らな胸に到達した瞬間。いきなり、ジュルルル、と音を立てて乳首を吸われ、頭の中が真っ白になる。

「っな、そんなとこ」

「ちゃんとここも育ててあげないとね。」

恍惚と微笑んだ楓様に俺はただうなづくだけだった。
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