6 / 11
6
しおりを挟む(はあ……どうして何も言わずにいなくなってしまったのかしら……起きたら侍女長に頼んで朝食を用意させようと思っていたのに……)
何も言わずにいなくなってしまった鷹を想い、憂いを帯びた溜め息をアンネロッタがこぼした時、隣から「おい」とシルバレットの不機嫌な声が聞こえた。その声にハッとなったアンネロッタが意識を戻すと目の前には今日社交界デビューを迎えた少女が淑女の礼を保ったまま、王妃である自分の言葉を待っていた。
「あっ……コ、コホンッ……ええ、王妃として貴女の社交界入りを心より歓迎いたしますわ」
「お気遣い痛み入ります、王妃様。これから淑女の一人として王妃様をお支えすると共に貴族の一員として王国の発展に尽くして行きたいと思います」
社交界デビューの決まり文句を口にした少女はそのまま深々と頭を下げて緊張した足取りで後ろに下がっていく。そのどこか初々しい少女の姿にアンネロッタは自分が社交界デビューした時の事を思い出し、暖かい気持ちになったが、
「……フン、王妃の自覚があるならさっさと僕に許しを乞いて王妃の務めを果たして欲しいがな……」
というシルバレットの呟きに暖かい気持ちが消え失せると同時に「貴方がそれを言うのか」という気持ちが芽生えてくる。元々、喧嘩の原因を作ったのはシルバレットの方なのにそれを棚に上げた発言にアンネロッタはついムッと来てしまい、昨日の後悔を忘れて「謝るべきなのは陛下の方ですわ」と強い口調で言い返してしまった。まあ、勿論、強く言い返せば返ってくる言葉も当然強いわけで……
「……はあ? 何故、王妃として一番大事な務めを果たしてないお前に私が謝らなければならないんだ?」
「……元々、一年前の初夜の席で陛下が私以外の女性を抱いたことがあると仰ったのが、今回の喧嘩の発端でしょう?だから原因である陛下が責任を取って謝るべきですわ」
「いや、夜枷の練習で他の女を抱いただけでそんな目くじらを立ててコトを長引かせているお前が謝るべきだろう」
「いえ、陛下が謝って下さい」
「いや、お前が謝れ」
お互い一歩も譲らずバチバチと視線をぶつけあう国王夫妻にまだ社交界デビューの挨拶を済ませていない貴族子女達は「このままじゃ一生挨拶が出来ないんじゃ……」と焦りを感じたが、近くに控えていた宰相が国王夫妻の間に入った事により、国王夫妻の言い争いは一旦止み…………その後は互いに視線は合わせないものの、滞り無く社交界デビューの挨拶は進んでいった。
26
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
あなたが私を捨てた夏
豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。
幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。
ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。
──彼は今、恋に落ちたのです。
なろう様でも公開中です。
バッドエンド
豆狸
恋愛
エロイナがオリビオ殿下を選ぶのは当然のことだ。
殿下は私の初恋の人で、とても素敵な方なのだもの。
でも……バッドエンドになってしまったことを歓迎するのは無理だ。自室のベッドに横たわって、私は夜会が終わるまで泣き続けた。
本当の勝者は正直者
夕鈴
恋愛
侯爵令嬢ナンシーの婚約者は友人の伯爵令嬢に恋をしている。ナンシーが幼馴染の婚約者の恋を応援しても動かない。不毛な恋愛相談に呆れながらも、ナンシーはヘタレな幼馴染の恋を叶えるために動き出す。
幼馴染の恋を応援したい少女が選んだ結末は。
※小説家になろう様にも投稿しています。
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
その日がくるまでは
キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。
私は彼の事が好き。
今だけでいい。
彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。
この想いを余す事なく伝えたい。
いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。
わたしは、彼に想いを伝え続ける。
故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。
ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。
確実に訪れる、別れのその日がくるまで。
完全ご都合、ノーリアリティです。
誤字脱字、お許しくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる