城内別居中の国王夫妻の話

小野

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(はあ……どうして何も言わずにいなくなってしまったのかしら……起きたら侍女長に頼んで朝食を用意させようと思っていたのに……)


 何も言わずにいなくなってしまった鷹を想い、憂いを帯びた溜め息をアンネロッタがこぼした時、隣から「おい」とシルバレットの不機嫌な声が聞こえた。その声にハッとなったアンネロッタが意識を戻すと目の前には今日社交界デビューを迎えた少女が淑女の礼を保ったまま、王妃である自分の言葉を待っていた。


「あっ……コ、コホンッ……ええ、王妃として貴女の社交界入りを心より歓迎いたしますわ」

「お気遣い痛み入ります、王妃様。これから淑女の一人として王妃様をお支えすると共に貴族の一員として王国の発展に尽くして行きたいと思います」


 社交界デビューの決まり文句を口にした少女はそのまま深々と頭を下げて緊張した足取りで後ろに下がっていく。そのどこか初々しい少女の姿にアンネロッタは自分が社交界デビューした時の事を思い出し、暖かい気持ちになったが、


「……フン、王妃の自覚があるならさっさと僕に許しを乞いて王妃の務めを果たして欲しいがな……」


 というシルバレットの呟きに暖かい気持ちが消え失せると同時に「貴方がそれを言うのか」という気持ちが芽生えてくる。元々、喧嘩の原因を作ったのはシルバレットの方なのにそれを棚に上げた発言にアンネロッタはついムッと来てしまい、昨日の後悔を忘れて「謝るべきなのは陛下の方ですわ」と強い口調で言い返してしまった。まあ、勿論、強く言い返せば返ってくる言葉も当然強いわけで……


「……はあ? 何故、王妃として一番大事な務めを果たしてないお前に私が謝らなければならないんだ?」

「……元々、一年前の初夜の席で陛下が私以外の女性を抱いたことがあると仰ったのが、今回の喧嘩の発端でしょう?だから原因である陛下が責任を取って謝るべきですわ」

「いや、夜枷の練習で他の女を抱いただけでそんな目くじらを立ててコトを長引かせているお前が謝るべきだろう」

「いえ、陛下が謝って下さい」

「いや、お前が謝れ」


 お互い一歩も譲らずバチバチと視線をぶつけあう国王夫妻にまだ社交界デビューの挨拶を済ませていない貴族子女達は「このままじゃ一生挨拶が出来ないんじゃ……」と焦りを感じたが、近くに控えていた宰相が国王夫妻の間に入った事により、国王夫妻の言い争いは一旦止み…………その後は互いに視線は合わせないものの、滞り無く社交界デビューの挨拶は進んでいった。





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