悪役令嬢「実家から追放されたくないのでお兄様と結婚しようと思いますわ!」

小野

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 だから、正直に言うと……めちゃくちゃ食べたい!だけどダメ!!ここで欲望に負けて食べてしまったら絶対に眠くなって『お兄様を寝室に誘い込んで寝入った隙を突いてアレコレして既成事実を作る』という計画が実行出来なくなってしまう!ここは我慢せねば……!我慢せねば……!そう思った私は内心めちゃくちゃ葛藤しつつ断腸の思いで首を横に振った。


「ふ、ふん……せっかくのお兄様のお誘いですが……結構ですわ。庶民の食べ物なんてワタクシ食べたくありませんもの」

「そう?従者の話によるとこのカップラーメンは庶民の間で人気が高くて中々手に入らないものらしいんだけど……でも庶民の食べ物が苦手なら仕方ないね。じゃあ僕がカップラーメンを食べる終わるまで待っていてくれるかい?カップラーメンを食べ終わったら綾香の話をちゃんと聞くからね」

「え、ええ……」


 まるで私の答えが分かっていたのかの様にあっさり引いたお兄様は「そろそろ出来たかな?」と独り言を呟きながらぺりぺりとカップラーメンの蓋を開ける。瞬間、ぶわりと食欲を刺激する良い香りが部屋中に充満して私は思わず口を塞いだ。


(うわあああああ!!ナニコレめちゃくちゃ美味しそうな匂いするぅうううう!しかもこの匂いって前世の私が死ぬ前によく食べてたカップラーメンじゃないの!?うわああああ!懐かしい!滅茶苦茶食べたいいいい……って違う違う!!落ち着け私!!!ここで誘惑に負けちゃダメよっ!!! )


 ぐっと拳を握ってそんな風に必死に自分に言い聞かせている私を他所にお兄様は「いただきます」と礼儀正しく手を合わせると事前に用意してあっただろう箸を手に取った。そしてホカホカと湯気を立てる琥珀色のスープに浮かぶ金色に輝く麺に箸を潜らせ…………ようとはせずなぜか箸を手に持ったまま困った様に苦笑いして私を見た。


「ふふふ、そんなに情熱的に見られていたら恥ずかしくて食べられないよ彩華」

「へ?あっ!?べ、別に見ていませんわ!」

「あはは、彩華は素直じゃないね。食べたいなら食べたいと言ってくれれば良いのに……」

「ちがっ!本当に庶民の食べ物なんか食べたくなんかありませんわ!」

「本当に?本当に食べたくないのかい?」

「ほ、本当に……う、うう~っ……食べたくなんか……」


 お兄様の言葉に私の心はぐらつく。本音を言えばめちゃくちゃ食べたい。だけど、こんな夜遅くにカップラーメンなんか食ったらお腹がいっぱいになって眠くなってしまう事を前世の経験から知っている私は断固とした意志を持って首を横に振ろうとしたが……


「はい、彩華。あーん」

「むぐっ!?」


 そんな私の無駄な抵抗を見抜いていたお兄様は美しい箸使いで私の口の中に少量のラーメンを押し込んだ。



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