2 / 6
2
しおりを挟む「!!?」
初めて見る……いや、180度違うロベルグの姿にミシェラは声も出せないほど驚愕し、唖然とするが、傍にいるユーリはいつもの感情を全て削ぎ落とした顔とは違うロベルグのキラキラとした爽やかな笑顔に「ヒイィイイ!!」とまるで悍ましい物を見たかの様な悲鳴を上げて、腰を抜かし、後退る。本音を言うのならばミシェラも今すぐ悲鳴を上げて、こちらに駆けてくるロベルグから逃げたかったが、次期女王としてのプライドが敵前逃亡を許さず、引き攣りそうになる表情筋を無理矢理押さえて、駆け寄ってきたロベルグをぎこちない微笑みで迎えた。
「ロ、ロベルグ……ご、機嫌よう……」
「おはようございます、王女殿下!……あっ、ユーリ君も一緒にいたんだね!ユーリ君もおはよう!今日も清々しい朝だね!」
見た目のみならず口調まで爽やかになっているロベルグにミシェラは「ヒッ」と短い悲鳴を上げて後退りするが、ドン引きしているミシェラに気付いてないロベルグは腰を抜かしているユーリに近付き、ハシッとユーリの手を握ると眉尻を下げて本当に申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「……ユーリ君、今まで君を『気に食わない男爵令息』というだけで虐めてしまってすまなかったね。謝って済まされる事ではないけど、本当にすまなかった。どうか許して欲しい……」
「えっ、アッ、いや、貧困街の連中の虐めに比べたらあんなの全然虐めの内に入らないと言うか……」
「本当かい!?あんな……制服をわざと汚したり、教科書を破ったり、階段から突き落とそうとしたり……酷い事をしたのに……許してくれるというのかい……!?」
「は、はい……それは別に気にしてないので……」
「ちょ、ちょっと!?そんな事までしていたの!?」
ミシェラが知らない余罪を自白したロベルグはユーリの言葉に「君はなんて優しい男なんだ!ユーリ君!!」と感極まった様に叫び、グスンと鼻を鳴らして涙ぐむ。自分の母親が死んだ時でさえ泣かなかったあのロベルグが涙ぐんでいる事にミシェラは驚きが隠せなかったが、これだけはどうしても聞いておかなければならないと思い、ユーリの手を握り涙ぐむロベルグに向かって怪訝そうな顔で尋ねた。
「……ロベルグ。これは一体何の真似かしら?こんな、お前らしくない……下手な演技をして……」
「あははは、演技じゃありません。……と、言いたいところだけど……ははは、急に変わったから信じて貰えないのも無理はないか。でも、王女殿下どうか僕を信じて欲しい。昨日の王女殿下のお言葉で僕は生まれ変わったのだと……」
「生まれ変わった……ですって?」
一体この男は何を言っているんだとミシェラは思った。少なくともこの十年間、ずっと無愛想で感情の起伏が殆ど無かった男が一晩でこんな爽やかな好青年に生まれ変わるなんて頭を打ったか、気が狂ったか……それこそ演技でもない限りありえない。そう思ったミシェラはロベルグの言葉に怪訝そうな顔を更に顰めて冷ややかにロベルグを嘲笑った。
「はっ、人間が一晩で変わるわけないじゃないの。嘘をつくならもっとマシな嘘をつきなさい」
「……そうだよね。十年間もあんな……婚約者として相応しくない態度ばかり取っていた僕を信じられないのも分かる。でも、王女殿下。貴女が信じてくれるまで僕は頑張るよ」
「ふ、ふんっ!そんな口から出任せを信じられるものですか!ワタクシは絶対にお前の戯言になんか惑わされたりしないわよ!!さっ、ユーリ!こんな男を放ってさっさと行きましょう!」
「え?あ、はい」
フンッ!とロベルグから顔を背け、肩を怒らせてズンズンと歩き出したミシェラにユーリは何か言いたそうな顔をしていたが、やがて諦めた様に大人しくミシェラの後を追い、学舎の中に入って行ったのだった。
10
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説


悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?

その悪役令息、私が幸せにします!
雪嶺さとり
恋愛
公爵令嬢と男爵令息、そんな身分違いの恋に燃える二人は周囲からまるで恋愛小説のようだと応援されており、公爵令嬢の婚約者であるサディアス公爵令息は邪魔者の「悪役令息」として噂されていた。
そんな悪役令息が遂に学園のパーティーで公爵令嬢から婚約破棄を宣言されてしまう。
しかし、その悪役令息にずっと片想いしていた令嬢が一人、そこはいて───────。
*他サイトでも公開しております。

気付いたら悪役令嬢に転生していたけれど、直後嫁いだ相手も気付いたら転生していた悪役令息でした。
下菊みこと
恋愛
タイトルの通りのお話。
ファビエンヌは悪役令嬢であることを思い出した。しかし思い出したのが悪虐の限りを尽くした後、悪役令息に嫁ぐ直前だった。悪役令息であるエルヴェと婚姻して、二人きりになると彼は…。
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】婚約破棄されるはずが、婚約破棄してしまいました
チンアナゴ🐬
恋愛
「お前みたいなビッチとは結婚できない!!お前とは婚約を破棄する!!」
私の婚約者であるマドラー・アドリード様は、両家の家族全員が集まった部屋でそう叫びました。自分の横に令嬢を従えて。

悪役令嬢なのに、ヒロインに協力を求められました
霜月零
恋愛
わたくし、クーデリア・タイタニックはいわゆる悪役令嬢です。
破滅の運命を逃れるべく、前世を思い出した十歳の時から婚約者である王子から逃げ回り、学園に通うようになってからは、ヒロインからも逃げまくりましたわ。
ですが……。
なぜそのわたくしが、ヒロインに土下座されて協力を求められていますの?
※他サイトでも掲載中です

婚約破棄します? あの、人違いです
真咲
恋愛
「ロザリー、お前とこれ以上一緒にいるのはもう無理だ! 婚約破棄させてもらう!」
ごめんなさい、ロザリーはわたしの双子の姉なんです。
人違いですね。
さらっと読めるショートストーリーですです!

婚約破棄させようと王子の婚約者を罠に嵌めるのに失敗した男爵令嬢のその後
春野こもも
恋愛
王子に婚約破棄をしてもらおうと、婚約者の侯爵令嬢を罠に嵌めようとして失敗し、実家から勘当されたうえに追放された、とある男爵令嬢のその後のお話です。
『婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~』(全2話)の男爵令嬢のその後のお話……かもしれません。ですがこの短編のみでお読みいただいてもまったく問題ありません。
コメディ色が強いので、上記短編の世界観を壊したくない方はご覧にならないほうが賢明です(>_<)
なろうラジオ大賞用に1000文字以内のルールで執筆したものです。
ふわりとお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる