天魔騎士と悪役転生モノ

西瓜甜瓜

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前世の再会

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5歳になった俺は、この世界を理解した。

それは2歳違いで生まれた妹の発言にあった。

母に似て清楚な美人に生まれた妹は、今後輝かしい未来が待っているのだろう。
俺はまだ分からないとはいえ、父に顔が似てきたように見えた。

眼鏡を掛けた冴えない顔の父は、俺達兄妹と遊んでくれるいい父親だ。
その度に、母に怒られて連れていかれてしまう。

母は俺が生まれた時以降、目すら合わせてくれない。
まるで子供なんていないかのように、声を掛けても返事をしてくれない。

もうこの歳になれば、寂しいと思う事はなかった。
妹の世話と自分の事で精一杯でそれどころじゃない。

妹が3歳になって、変な事を言い始めて気付いた。
この妹は俺と同じなのか?そして俺はまだ前世の記憶が残っている。

「そんな、私は聖女になりたかったのに…」

「ベアトリス?」

「まさか悪役令嬢とか…」

俺が前世の妹の名前を呟くと、さっきまで聞いていなかった妹が勢いよく振り返った。

やっぱりそうだったのか、まさか転生してまた兄妹になるとは思わなかった。

妹は事故死した俺とは違い、何年か後に病気で亡くなったと教えてくれた。
俺より後に死んだ筈の妹が、2年しかずれないんだな。

妹と本当の意味で再会出来て、嬉しいのと驚きでぐちゃぐちゃになる。
前世の知る人というだけで孤独ではなく心強い。

また変な黒魔術に巻き込まれないならいいけど。
まだ聖女の話をしているから諦めてはいなさそうだ。

俺の気持ちとは違い、妹は真剣な顔をしていた。

今はベアトリスという名前だからそう呼んだ方がいいか。

ふかふかのソファーに座り、いろいろと話す事にした。

「お兄ちゃん、この世界がなんなのか分かる?」

「世界は知らないけどこの国は、エルデンブルーメ王国だろ?」

「そう、そうなのよ…略してエルブル国」

ベアトリスは変な略し方をしていて、一人で騒いでいた。
それがどうしたんだ?なにか不満でもあるのか?

俺達はまだ幼いから乳母のシャシャさんに外に出る事を止められている。
もう少し大きくなるまで、家の中で過ごしている。

自分の家なのに、家の中も入れないところがあり自由が少ない。
そこはちょっと不満だけど、家の事だから国は関係ない。

赤ん坊の時以外、窓からしか外を見ていないが危なくは感じなかった。
他の家の子供達は元気よく走り回っているから、この家が特殊なんだろう。

「まだ3歳なのにもうこの世界を知ってるのか?」

「分かってるわよ、この先なにが起こるのかも」

「超能力?」

「そうかもしれない、だっておまじないが効いたんだもの」

これは、真面目に聞いた方がいい内容なのか?

おまじないって、漫画の世界に転生したいってやつだよな。
ベアトリスというキャラクターでもいたのか?
そこまで珍しい名前じゃないなら、偶然の可能性が高い。

でも、ベアトリスは俺と同じ真っ黒な髪だ。
漫画の表紙の女の子と髪色が違う、染めているなら何とも言えないが。

ベアトリスは「悪役令嬢になりたくないのに!」と上を向いて叫んでいた。
令嬢はそうだろう、金持ちの家の長女だからな。

悪役って事は悪い人なんだよな、確かに悪い人にはなりたくないよな。

「こうなったら悪役令嬢モノのヒロインになるしか…」

「ベアトリスがいる漫画なら俺もいるのか?」

「当然よ」

真実はどうか知らないが、俺も自分の事が気になった。
ラルフが俺の名前だけど、漫画ではどういう立ち位置なんだろう。

ベアトリスは急に深刻そうな顔になっていた。

俺はヒロインに惚れて、ヒーローにやられるベアトリスの金魚のフンらしい。
いろいろと最悪なキャラクターだとベアトリスに熱弁していた。

自分と同じ名前なだけだと信じたい、ヒロインの犬より嫌だ。

確かにヒロインは表紙からして可愛いとは思うが、ストーカーはしない。

ベアトリスは国の名前も合っているから間違いないと言っていた。

「でも、好きにならなきゃいいんだし…ベアトリスも気にしなければ」

「甘いわね、この世界は漫画通りに動いてしまうの!私もお兄ちゃんも死んじゃうの!」

俺の方を掴んで、3歳だと思えない力で揺さぶられた。

この家そのものが悪名高い一族だと言っていた。

少しだけ、シャシャさんと最初に会った時の言葉を理解できた。
悪名高い一族に生まれて「可哀想に…」という意味だったのか。

俺とベアトリスが騒いでいたから、シャシャさんが心配してやって来た。
ベアトリスは外面に早変わりして、誤魔化していた。
俺も多少顔が引きつってしまったが、大丈夫だと安心させるように笑った。

ベアトリスが見ていた漫画の内容までは分からない。

気を付ける事だけを聞けば、何となくいける気がした。

ヒーローとヒロインに関わらなければいい。
漫画通りに動く心配もしなくていい、だって関わってないんだから漫画の俺の物語は始まっていない。

悪役一族だとしても悪い事をしないだけでいい、簡単だ。

シャシャさんが部屋から出ていき、俺とベアトリスは再び向き直る。

「ヒーローとヒロインを教えてくれ、関わらなきゃいいからな」

「うーん、私も別物の漫画にしようと思ってるから悪役からモブにはなれるのかも」

「……もぶ?」

「とりあえず、頑張ってね!お兄ちゃんが死ぬのは目覚めが悪いからね!」、

ベアトリスはヒーローとヒロインの事を話してくれた。

ヒーローの名前はセレスティス、茶髪の美男子だ。

この世界で希少と呼ばれる特殊な力を秘めた魔導種という種族の最高ランクの騎士。
天魔騎士と呼ばれていて、副団長として団長との派閥の争いをしている。

青い炎をまとうと、人格が変化すると熱弁していた。

ヒロインのシャルロットは金髪の美少女だ。

シャルロットも魔導種だが、あまり力が強くない。
それでも希少な魔導種だから聖女と呼ばれている。

騎士団の寄宿舎のメイドとして働いている。

シャルロットとセレスティスは幼少期の頃からの幼馴染みで両片思いだった。
悪役により、だんだん距離が縮まり愛し合う仲になったとベアトリスは騒いでいた。

俺も恋愛のスパイスか、しかもキューピッドではないタイプの。

「有名人みたいだし、避けるのは簡単そうだな」

「まぁそうね、天魔騎士と聖女だし……私が奪うけど」

ベアトリスは3歳児とは思えない悪巧みした顔で笑っていた。
さっそく悪役になりつつあるように見えるけど大丈夫なのか?

窓の外を眺めると、街の中心の広場が見える。

なにかのお祭りなのか、人がいつもより多く見える。

もしかしたら、漫画通りの名前は俺達だけなのかもしれない。
だとしたら、全身の気が抜けるけど安心もする。

魔導種とか完全にファンタジーな話があるわけない。

俺が家庭教師の授業で魔導種の歴史を学ぶまで、半分くらいしか信じていなかった。
その半分は俺達の名前と国の名前が一致した事だけだ。

授業を受けたその日に見た、ベアトリスのどや顔は忘れないだろう。

「やっぱり言った通りでしょ、お兄ちゃん」

「うん……漫画の世界なんだな」

さすがにここまでだと、信じるしかないな。

とりあえず、俺は漫画の物語に関わらないようにしようと誓った。
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