1 / 2
紙やすり
しおりを挟むヒロインちゃんと王子様はきっと二人で東屋へ行くだろう。スキップ出来ないイベントとして。
ハート飛んでないかな? って思うくらい、ヒロインちゃんはうっとりとした視線でラファエル様を見つめている。ラファエル様は優しげな眼差しでヒロインちゃんを見つめ返している。
私の脳裏には(イエス、フォーリンラブ)というワンフレーズが何度も再生されていた……。
それよりも、私はコラリィをどうしようかと思っていた。さっき、何故か私が突き飛ばしたと思い込んで、いきなり手をはたきやがった。伝聞だけなら、完全に私が悪役。コラリィは私を睨みつけた後はずっとこちらを無視している。
だから、私はコラリィの肩に手を置いて言った。
「何か誤解なさってるようだけど、私は彼女を突き飛ばしてなどいないわ」
コラリィは私の手を振り払ってやはり無視した。取り付く島もない。
めんどくさい。……もういいか。めんどうになってきた。
そう思い始めた時、背後から「お待ちください」という凛とした声が聞こえた。
振り返らなくてもわかる。エリアスの声だ。
「アリス様は、誰かを突き飛ばすようなことはなさいません」
よく通る声だなと思って聞いていた。ああ、『クラスメイト』はやっぱりアリスを庇ってくれる。振り返ったら泣いてしまって何もかも台無しにしそうで、そのまま前を向いていた。
コラリィが私達の方を見て忌々しそうに言った。
「でも、現にソフィアは怪我してるじゃない。平民だから気にくわないの?酷くない?」
「突き飛ばす現場を見たのですか?」
「え?」
コラリィがひるんだ。私は確かに手は出していたけど、それは助け起こそうとしただけだし、事実、突き飛ばしてはいない。
「それは……」
言い淀んだコラリィが視線をさまよわせていると、隣にいたラファエル様が口を開いた。
「アリスはずっと僕の隣にいたよ。突き飛ばすなんてことはしていない。それより、怪我人を放っておけないよ。誰か彼女を医務室へ運んでやってくれ。足を痛めたようなので」
「え、ラファエル様がついていくのでは?」
私が思わずそう言うと、ラファエル様が笑いながら返答した。
「僕は君のそばにいるよ」
えーーーーー行っていいんですよ?王太子妃が別の人になるのは全然構わないんです。むしろ、そうして頂きたいのに。
その時、ふと気づいた。コラリィが私に絡んだこの件、ソフィアは何も言わなかった。
突き飛ばされたかどうか、なんて本人が一番わかっていただろうに。意図的なのか単に口を開くタイミングが掴めなかったのかわからないけど、なんだか嫌な感じがした。気のせいかもしれないけど。
そして、私にとっては一番関わって欲しくない人が、ソフィアを医務室へ連れて行くことになった。
エリアスがソフィアをお姫様抱っこしてる……。
こんなの見たくなかった……。このパターンは想定していなかった。ゲームでは悪役令嬢側として、ヒロインとの好感度に左右されないはずの『クラスメイト』エリアス。でもその彼は、高等部入学前にメインキャラクターである私の幼馴染達に出会ってしまっている。私はフランドル伯と父との約束で会うことが出来なかったけど、幼馴染達はエリアスと仲良くしていたようだから、どこかでシナリオがずれてもおかしくない。
ソフィアは可愛い。誰の目にも可愛いだろう。私のことなんか好きじゃないエリアスが、可愛いソフィアに惹かれてしまったらどうしよう。エリアスまでもが敵になってしまったら、私は耐えられない……。それこそ悪魔を召喚して国ごと滅ぼしたくなってしまうかもしれない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?

若月骨董店若旦那の事件簿~満開の櫻の下に立つ~
七瀬京
ミステリー
梅も終わりに近付いたある日、若月骨董店に一人の客が訪れた。
彼女は香住真理。
東京で一人暮らしをして居た娘が遺したアンティークを引き取って欲しいという。
その中の美しい小箱には、謎の物体があり、若月骨董店の若旦那、春宵は調査をすることに。
その夜、春宵の母校、聖ウルスラ女学館の同級生が春宵を訪ねてくる。
「君の悪いノートを手に入れたんだけど、なんだかわかる……?」
同時期に持ち込まれた二件の品物。
その背後におぞましい物語があることなど、この時、誰も知るものはいなかった……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる