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第二話 幻影の八紘一宇
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1945年9月19日、満州南部。
電車は爆破され、道も舗装されず、辺りは焼け野原の街。俺は3歳の次女野上アキ(のがみ あき)を片手に13歳の長男、野上英治郎(のがみ えいじろう)を先頭に、9歳の長女野上幸(のがみ ゆき)背後にただひたすらなんかし続けてきた。衛生環境もロクに整っていない、荒廃した街で4人共に衣食住を共にして2週間、後10キロほどで朝鮮に着ける。一歩、一歩、また一歩。ボロボロの、ズレズレの靴で歩いている。
少々このまま歩いていると、屋台らしきものがあった。
[円二、ーュチシ]
闇市だ。現地の人々がああやって非合法的手段で金を稼いでいる。
闇市の物売りがいきなりこちらを睨むと、青く錆びた包丁片手に追いかけてきた。
「逃げろ!」
みんな泣かずにひたすらボロ靴擦り減らして走る。
しかし相手は成人。敵うはずなく、相手の範囲内に入ってしまった。
「うわぁぁぁぁぁ!」
ナイフを振り回してこちらに近づく。もうどうしようもないのか…
「ガンッ!」
物売りはそのまま立ち続けて、パタッと倒れた。痩せ細った男のお腹には大量の血があった。何が起こったのかわからない俺は一歩、前に動くと左脚ふくらはぎに赤銅色の液体がポタポタと流れていた。
あの物売りは、自殺したのだ。
終戦後、満州の人々は移住してきた日本人と真っ向から対立し、日本人を襲ったのだ。あの物売りもその一例に漏れない。痩せ細った身体にもう、嫌にでもなったのだろうか。
俺はそこらへんにあった草をふくらはぎに巻いて、もう片方だけで、またひたすらに歩いた。
一歩歩く、血が漏れ出す。また一歩歩くと、ドバッと一気に流れる。赤銅色の、おぞましい液体が。
幸「お兄ちゃん、怖いよぅ。」
初めて恐怖を妹が口にした。あの戦争で両親を亡くし、家を失くし、金を無くし。気持ちの居場所すらも無かったのだ。きっと今も気持ちの住居は決まってない。だけど口にしたのだ。
「大丈夫だ。もうちょっとしたら、もう寝よう。」
道中で買った少量の食糧を平らげ、この日は終わった。この日は寝れなかったさ。代わりに涙が一気に流れた。透明な、儚い液体が。
翌日、この日もひたすら南を求めて行く。まだ血は滲み出るけど、気持ちの居場所もないから、この感情を理解できないから歩くしかないんだ。
一歩、一歩、また一歩。そうしていたら、看板が一つ、ぽつんと立っていた。
日本國、朝鮮。朝鮮にようやく到達したのだ。このまま朝鮮を縦断して南の港で日本行の船に乗り込み、日本へ。
朝鮮は、朝鮮は満州と変わらず荒れ果てていた。この世のどこにも平和など存在しないのだ。平和という文字自体ある意味が矛盾しているから、平和なんて字は必要ないのに。
電車は爆破され、道も舗装されず、辺りは焼け野原の街。俺は3歳の次女野上アキ(のがみ あき)を片手に13歳の長男、野上英治郎(のがみ えいじろう)を先頭に、9歳の長女野上幸(のがみ ゆき)背後にただひたすらなんかし続けてきた。衛生環境もロクに整っていない、荒廃した街で4人共に衣食住を共にして2週間、後10キロほどで朝鮮に着ける。一歩、一歩、また一歩。ボロボロの、ズレズレの靴で歩いている。
少々このまま歩いていると、屋台らしきものがあった。
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闇市だ。現地の人々がああやって非合法的手段で金を稼いでいる。
闇市の物売りがいきなりこちらを睨むと、青く錆びた包丁片手に追いかけてきた。
「逃げろ!」
みんな泣かずにひたすらボロ靴擦り減らして走る。
しかし相手は成人。敵うはずなく、相手の範囲内に入ってしまった。
「うわぁぁぁぁぁ!」
ナイフを振り回してこちらに近づく。もうどうしようもないのか…
「ガンッ!」
物売りはそのまま立ち続けて、パタッと倒れた。痩せ細った男のお腹には大量の血があった。何が起こったのかわからない俺は一歩、前に動くと左脚ふくらはぎに赤銅色の液体がポタポタと流れていた。
あの物売りは、自殺したのだ。
終戦後、満州の人々は移住してきた日本人と真っ向から対立し、日本人を襲ったのだ。あの物売りもその一例に漏れない。痩せ細った身体にもう、嫌にでもなったのだろうか。
俺はそこらへんにあった草をふくらはぎに巻いて、もう片方だけで、またひたすらに歩いた。
一歩歩く、血が漏れ出す。また一歩歩くと、ドバッと一気に流れる。赤銅色の、おぞましい液体が。
幸「お兄ちゃん、怖いよぅ。」
初めて恐怖を妹が口にした。あの戦争で両親を亡くし、家を失くし、金を無くし。気持ちの居場所すらも無かったのだ。きっと今も気持ちの住居は決まってない。だけど口にしたのだ。
「大丈夫だ。もうちょっとしたら、もう寝よう。」
道中で買った少量の食糧を平らげ、この日は終わった。この日は寝れなかったさ。代わりに涙が一気に流れた。透明な、儚い液体が。
翌日、この日もひたすら南を求めて行く。まだ血は滲み出るけど、気持ちの居場所もないから、この感情を理解できないから歩くしかないんだ。
一歩、一歩、また一歩。そうしていたら、看板が一つ、ぽつんと立っていた。
日本國、朝鮮。朝鮮にようやく到達したのだ。このまま朝鮮を縦断して南の港で日本行の船に乗り込み、日本へ。
朝鮮は、朝鮮は満州と変わらず荒れ果てていた。この世のどこにも平和など存在しないのだ。平和という文字自体ある意味が矛盾しているから、平和なんて字は必要ないのに。
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