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第03話 海の操言士と不思議な塔
6.出航(下)
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ジャスパーはいかにも城主という風格がただようが、エミールはどちらかというと深窓の令嬢――男性なのに令嬢と形容するのもおかしいが――のように落ち着き払っており、潮風と日焼けがあまり似合わない細身の青年だ。
「おはようございます。全員おそろいでしょうか」
「ええ、こちらは操言士が二名、言従士が一名、護衛の騎士が二名、傭兵が一名、計六名です」
「ひーふー……確かに」
王黎の申告数が正しいか、エミールはきっちり自分の目でも確認をする。その細やかさは海の漁師たちを束ねるよりも、王都の商会で会計係でも任せた方が似合いそうだ。
「それでは、まず左手をご覧ください。こちらが今回用意させていただいた船です」
エミールが指をそろえて手のひらを向けた方向には、大きな三本マストに角型の帆の張られたジャンク船が、東の水平線からのぞく太陽の光を受けて誇らしげに佇んでいた。
「とびきり大きい船ではありませんが頑丈です。今回の船旅の目的地は到達者がいない未踏の地ですから、万が一トラブルが起きて引き返すことになっても安全にゼルヴァイスへ戻ってこられることを考慮いたしました」
「失敗が前提なのか」
「皆様の命あってこその旅路ですからね」
ユルゲンの呟きはしっかりエミールの耳に届いていたらしく、エミールは少し語気を強めた。
「船乗りは全員、経験豊富な者を選びました。船内の雑事をこなす船員には、体力自慢の若者を起用。また、目的地上陸後の戦力となる騎士も数名同行させます」
「操言士もいるのかな」
王黎がエミールに短く問いかけた。
「操言士は一名ですが、有能な者を同行させます」
エミールが手招きをすると、少し離れた位置にいた深い緑色の髪の少女が、おずおずと王黎たちの眼前に姿を現した。
「あの……よろしくお願いします」
「ヒルダさん!?」
紀更は驚きと嬉しさをはらんだ目で、操言士ヒルダを見つめた。
「へえ~……意外だね」
ヒルダが派遣されると想像していなかった王黎も、低いテンションで驚く。紀更たちが塔を目指すと知った時は、危険な場所だからと言ってむしろ反対していたのに。
「心境の変化でもあった?」
王黎が薄ら笑いを浮かべると、ヒルダはキリッとした表情で答えた。
「塔を目指すことは危険なことで、できればやめた方がいいという考えは変わっていません。あの塔に関わってもいいことなんかないと、個人的には今もそう思っています。でもどんな理由であれ、船に乗って海へ出る人を守るのが操言士としてのあたしの仕事ですから」
少し強い口調でそう主張するヒルダの胸元で、Ⅲの刻印が刻まれた操言ブローチが輝く。
「頼りにしてるよ。ごめんね、みくびって」
そのブローチを見つめた王黎はヒルダに視線を戻すと、小馬鹿にしたような自身の態度の非礼を詫びた。
「ヒルダは二ヶ月前に操言院を修了したばかりですが、ゼルヴァイス育ちで船にも海にも慣れています。一人でも十分、お力になれるかと」
「まあ、レイトやラフーアで怪魔襲撃事件が起きてるしね。そう何人も、操言士を街から連れ出せないよね」
エミールの静かだが自信を持った断言に、王黎は頷いた。
自称フォスニア王子からの、特別な操言士へ宛てられた手紙。そんな怪しいものに誘われて、人によって見えたり見えなかったりする不思議な塔を目指す。しかもそこは、いまだかつて誰もたどり着いたことのない、本当にそこにあるのか疑わしい、不確かな場所。おまけにたどり着けたところでその場所はおそらく異国サーディアの領土。国交も関わりもない、よその国だ。こんなにも胡乱で危険性に富んだ船旅に同行してくれる人材が集まっただけでも奇跡かもしれない。
顔合わせを終えたヒルダや、船乗りたちと騎士たちが陸地と船を行き来して出発準備をしている光景に、紀更は言いようのない感動と感謝が込み上げた。
「そういえば、カタリーナお嬢様はどうなったのでしょうか」
船旅メンバーにカタリーナの名前が入っていないことに気付いたルーカスが、疑問の眼差しを城主に向けた。するとジャスパーとエミールは互いに目配せをし合う。
「ああ……まあ、そうだな。うん」
「そうですね、妹は……」
「離しなさいよ! 私も行くったら行くわ! 行くからね!」
積み上げられていた木箱の陰から悲鳴に近い叫び声が聞こえてきて、エリックの眉間の皺が深くなった。
二人の侍女に両腕をがっちりと掴まれて身動きのできないカタリーナは、少年が履くような着古したズボンに、これまた使い込まれたようなグレーのジャケットを羽織り、城主の娘にあるまじき姿だった。
ゼルヴァイスの住民はカタリーナのお転婆に慣れているのか、彼女の主張など右から左へ流して出港準備を進めていく。船に荷物を運び込む船員も、海図と空を睨めっこしている航海士も、船に積まれた装備の確認をしている騎士も、誰一人カタリーナに見向きもしなかった。
「お父様、私も乗せて! 私も行きたいの!」
「駄目だ。お前が行くべき理由は何もない」
「あるわ! あの人のことが何かわかるかもしれないでしょ! 行かせてよ!」
「駄目だ」
きっとこれまでにもさんざん、同じやり取りをしたのだろう。ジャスパーはそれしか言わなかった。
父がそんな態度なので、カタリーナの兄、エミールが見かねてカタリーナを説得する。
「カタリーナ、何度も説明したよね? 危険な船旅なんだ。人に世話されながら城で生きてきた箱入り娘のお前には無理だ」
「自分の世話くらい自分でできるわ! 危険だと言うけど、乗る人みんな危険じゃない。みんなは行くのにどうして私は行けないの! 私だって知りたいのよ!」
カタリーナの瞳に涙が浮かぶ。
女子会の夜、最美を質問攻めにしていたカタリーナの目には期待と希望があった。何かわかるかもしれないという期待が。
もしも彼女が言従士で、手紙の使者がカタリーナにとってたった一人の操言士ならば、自分の操言士にもう一度会えるチャンスをつかみたいと、カタリーナは心の底から切望しているのだろう。他人にはその思いの強さと必死さが理解できないが、カタリーナの中では自分の操言士につながる唯一の希望が、この船に乗って謎の塔へ行くことなのだ。
(カタリーナさん……)
カタリーナの主張を聞いていた紀更の胸に、熱いものが込み上げた。
昨夜、最美が教えてくれたからだろうか。言従士にとっての操言士がどのような存在なのかを。自分の操言士を見つけられた言従士が、いかに深い思いを抱いているかを。
他人には理解されないその感覚。言従士だけが抱える、操言士への思い。
カタリーナの心はいま、その思いであふれている。熱くて重くて、もしかしたら自分を焼き焦がすかもしれないほど大量の感情で。そしてその思いはもがいても抜け出せない沼のようで、溺れてしまいそうな苦しさが彼女をとりまいているのかもしれない。
「あのっ、カタリーナさん!」
紀更はカタリーナに駆け寄った。侍女の腕を振りほどき、カタリーナの両手を自分の両手で強く握りしめる。
「約束します。私は必ず、〝塔〟へ行きます」
「え?」
「カタリーナさんの分も、何かを得てきます。塔へ行って何を得られるのか、それはわかりませんけど……でも何かきっと、カタリーナさんの知りたいこと……その人の手掛かりになるかどうかはわからないけど、でも何か……何かをきっと……カタリーナさんに持って帰ってきます。一緒に行くことはできないけど、信じて待っていてください。こんな見習い操言士の私じゃ……頼りない、かも……しれませんけど……」
自分で言っておいて、紀更は段々と自信をなくして語尾の声が小さくなった。
思わず啖呵を切ってしまったが、紀更一人の力でどうにかなる旅ではない。船を動かすこと、塔を目指すこと、その塔で起こること、そのどれも紀更一人では対処しようがない。立派な操言士の王黎なら一人でなんとかできそうだが、自分は所詮、見習い操言士だ。操言の力の使い方だって、まだまだ未熟としか言いようがない。
「でも……約束です。絶対です」
それでも言いきるしかなかった。
自信がなくても、見習いでも未熟でも。手紙の内容が真実ならば、きっと自分は塔にたどり着ける。必ずそこへ行ってみせる。カタリーナのためにも。
「本当に?」
カタリーナの腕から力が抜ける。カタリーナは呆然とした表情だったが、次第に目を大きく開いて、すがるような気持ちで紀更を見つめた。
「紀更、ほんと? 絶対? 必ず塔に行ってくれる? そこでわかったこと、私に教えてくれる?」
「約束します」
紀更はカタリーナの手を掴む手に力を込めた。
「だから、カタリーナさんはここで待っていてください。お願いします」
「え、ええ……そう、わかった……わかったわ」
カタリーナは少し鼻をすすった。
紀更はゆっくりとカタリーナの手を離す。二人の侍女は、船に乗ると騒いで走り出しかねないカタリーナを掴んで止めることは、もうしなかった。
「おい王黎。やるじゃないか、お前の弟子は」
カタリーナと紀更のやり取りを見ていたジャスパーは、小声で王黎に耳打ちした。
「女子会で親睦を深めた成果ですかね~」
王黎はジャスパーに相槌を打つ。
軽薄な笑顔を浮かべているのだろうと思って、ユルゲンはそんな王黎の表情を無言で確認したが、王黎は意外にも嬉しいような誇らしいような、晴れ晴れとした慈愛に満ちた目付きで紀更の横顔を見ていた。
そんなカタリーナのお転婆騒ぎがあったものの、船出の準備は整った。
上空は風が強く、午後は少し雲が出そうな天気だったが、今日の朝を逃したら数日は出発を遅らせた方がよくなるかもしれない。それなら今のうちに港を出て、雲の向こうへ少しでも進んだ方がいい。航海士と船乗りのその判断に基づき、ジャスパーが出港の許可を出す。
こうして紀更たちを乗せた船はゼルヴァイス城に背を向け、サキトス湾へ出発した。
「おはようございます。全員おそろいでしょうか」
「ええ、こちらは操言士が二名、言従士が一名、護衛の騎士が二名、傭兵が一名、計六名です」
「ひーふー……確かに」
王黎の申告数が正しいか、エミールはきっちり自分の目でも確認をする。その細やかさは海の漁師たちを束ねるよりも、王都の商会で会計係でも任せた方が似合いそうだ。
「それでは、まず左手をご覧ください。こちらが今回用意させていただいた船です」
エミールが指をそろえて手のひらを向けた方向には、大きな三本マストに角型の帆の張られたジャンク船が、東の水平線からのぞく太陽の光を受けて誇らしげに佇んでいた。
「とびきり大きい船ではありませんが頑丈です。今回の船旅の目的地は到達者がいない未踏の地ですから、万が一トラブルが起きて引き返すことになっても安全にゼルヴァイスへ戻ってこられることを考慮いたしました」
「失敗が前提なのか」
「皆様の命あってこその旅路ですからね」
ユルゲンの呟きはしっかりエミールの耳に届いていたらしく、エミールは少し語気を強めた。
「船乗りは全員、経験豊富な者を選びました。船内の雑事をこなす船員には、体力自慢の若者を起用。また、目的地上陸後の戦力となる騎士も数名同行させます」
「操言士もいるのかな」
王黎がエミールに短く問いかけた。
「操言士は一名ですが、有能な者を同行させます」
エミールが手招きをすると、少し離れた位置にいた深い緑色の髪の少女が、おずおずと王黎たちの眼前に姿を現した。
「あの……よろしくお願いします」
「ヒルダさん!?」
紀更は驚きと嬉しさをはらんだ目で、操言士ヒルダを見つめた。
「へえ~……意外だね」
ヒルダが派遣されると想像していなかった王黎も、低いテンションで驚く。紀更たちが塔を目指すと知った時は、危険な場所だからと言ってむしろ反対していたのに。
「心境の変化でもあった?」
王黎が薄ら笑いを浮かべると、ヒルダはキリッとした表情で答えた。
「塔を目指すことは危険なことで、できればやめた方がいいという考えは変わっていません。あの塔に関わってもいいことなんかないと、個人的には今もそう思っています。でもどんな理由であれ、船に乗って海へ出る人を守るのが操言士としてのあたしの仕事ですから」
少し強い口調でそう主張するヒルダの胸元で、Ⅲの刻印が刻まれた操言ブローチが輝く。
「頼りにしてるよ。ごめんね、みくびって」
そのブローチを見つめた王黎はヒルダに視線を戻すと、小馬鹿にしたような自身の態度の非礼を詫びた。
「ヒルダは二ヶ月前に操言院を修了したばかりですが、ゼルヴァイス育ちで船にも海にも慣れています。一人でも十分、お力になれるかと」
「まあ、レイトやラフーアで怪魔襲撃事件が起きてるしね。そう何人も、操言士を街から連れ出せないよね」
エミールの静かだが自信を持った断言に、王黎は頷いた。
自称フォスニア王子からの、特別な操言士へ宛てられた手紙。そんな怪しいものに誘われて、人によって見えたり見えなかったりする不思議な塔を目指す。しかもそこは、いまだかつて誰もたどり着いたことのない、本当にそこにあるのか疑わしい、不確かな場所。おまけにたどり着けたところでその場所はおそらく異国サーディアの領土。国交も関わりもない、よその国だ。こんなにも胡乱で危険性に富んだ船旅に同行してくれる人材が集まっただけでも奇跡かもしれない。
顔合わせを終えたヒルダや、船乗りたちと騎士たちが陸地と船を行き来して出発準備をしている光景に、紀更は言いようのない感動と感謝が込み上げた。
「そういえば、カタリーナお嬢様はどうなったのでしょうか」
船旅メンバーにカタリーナの名前が入っていないことに気付いたルーカスが、疑問の眼差しを城主に向けた。するとジャスパーとエミールは互いに目配せをし合う。
「ああ……まあ、そうだな。うん」
「そうですね、妹は……」
「離しなさいよ! 私も行くったら行くわ! 行くからね!」
積み上げられていた木箱の陰から悲鳴に近い叫び声が聞こえてきて、エリックの眉間の皺が深くなった。
二人の侍女に両腕をがっちりと掴まれて身動きのできないカタリーナは、少年が履くような着古したズボンに、これまた使い込まれたようなグレーのジャケットを羽織り、城主の娘にあるまじき姿だった。
ゼルヴァイスの住民はカタリーナのお転婆に慣れているのか、彼女の主張など右から左へ流して出港準備を進めていく。船に荷物を運び込む船員も、海図と空を睨めっこしている航海士も、船に積まれた装備の確認をしている騎士も、誰一人カタリーナに見向きもしなかった。
「お父様、私も乗せて! 私も行きたいの!」
「駄目だ。お前が行くべき理由は何もない」
「あるわ! あの人のことが何かわかるかもしれないでしょ! 行かせてよ!」
「駄目だ」
きっとこれまでにもさんざん、同じやり取りをしたのだろう。ジャスパーはそれしか言わなかった。
父がそんな態度なので、カタリーナの兄、エミールが見かねてカタリーナを説得する。
「カタリーナ、何度も説明したよね? 危険な船旅なんだ。人に世話されながら城で生きてきた箱入り娘のお前には無理だ」
「自分の世話くらい自分でできるわ! 危険だと言うけど、乗る人みんな危険じゃない。みんなは行くのにどうして私は行けないの! 私だって知りたいのよ!」
カタリーナの瞳に涙が浮かぶ。
女子会の夜、最美を質問攻めにしていたカタリーナの目には期待と希望があった。何かわかるかもしれないという期待が。
もしも彼女が言従士で、手紙の使者がカタリーナにとってたった一人の操言士ならば、自分の操言士にもう一度会えるチャンスをつかみたいと、カタリーナは心の底から切望しているのだろう。他人にはその思いの強さと必死さが理解できないが、カタリーナの中では自分の操言士につながる唯一の希望が、この船に乗って謎の塔へ行くことなのだ。
(カタリーナさん……)
カタリーナの主張を聞いていた紀更の胸に、熱いものが込み上げた。
昨夜、最美が教えてくれたからだろうか。言従士にとっての操言士がどのような存在なのかを。自分の操言士を見つけられた言従士が、いかに深い思いを抱いているかを。
他人には理解されないその感覚。言従士だけが抱える、操言士への思い。
カタリーナの心はいま、その思いであふれている。熱くて重くて、もしかしたら自分を焼き焦がすかもしれないほど大量の感情で。そしてその思いはもがいても抜け出せない沼のようで、溺れてしまいそうな苦しさが彼女をとりまいているのかもしれない。
「あのっ、カタリーナさん!」
紀更はカタリーナに駆け寄った。侍女の腕を振りほどき、カタリーナの両手を自分の両手で強く握りしめる。
「約束します。私は必ず、〝塔〟へ行きます」
「え?」
「カタリーナさんの分も、何かを得てきます。塔へ行って何を得られるのか、それはわかりませんけど……でも何かきっと、カタリーナさんの知りたいこと……その人の手掛かりになるかどうかはわからないけど、でも何か……何かをきっと……カタリーナさんに持って帰ってきます。一緒に行くことはできないけど、信じて待っていてください。こんな見習い操言士の私じゃ……頼りない、かも……しれませんけど……」
自分で言っておいて、紀更は段々と自信をなくして語尾の声が小さくなった。
思わず啖呵を切ってしまったが、紀更一人の力でどうにかなる旅ではない。船を動かすこと、塔を目指すこと、その塔で起こること、そのどれも紀更一人では対処しようがない。立派な操言士の王黎なら一人でなんとかできそうだが、自分は所詮、見習い操言士だ。操言の力の使い方だって、まだまだ未熟としか言いようがない。
「でも……約束です。絶対です」
それでも言いきるしかなかった。
自信がなくても、見習いでも未熟でも。手紙の内容が真実ならば、きっと自分は塔にたどり着ける。必ずそこへ行ってみせる。カタリーナのためにも。
「本当に?」
カタリーナの腕から力が抜ける。カタリーナは呆然とした表情だったが、次第に目を大きく開いて、すがるような気持ちで紀更を見つめた。
「紀更、ほんと? 絶対? 必ず塔に行ってくれる? そこでわかったこと、私に教えてくれる?」
「約束します」
紀更はカタリーナの手を掴む手に力を込めた。
「だから、カタリーナさんはここで待っていてください。お願いします」
「え、ええ……そう、わかった……わかったわ」
カタリーナは少し鼻をすすった。
紀更はゆっくりとカタリーナの手を離す。二人の侍女は、船に乗ると騒いで走り出しかねないカタリーナを掴んで止めることは、もうしなかった。
「おい王黎。やるじゃないか、お前の弟子は」
カタリーナと紀更のやり取りを見ていたジャスパーは、小声で王黎に耳打ちした。
「女子会で親睦を深めた成果ですかね~」
王黎はジャスパーに相槌を打つ。
軽薄な笑顔を浮かべているのだろうと思って、ユルゲンはそんな王黎の表情を無言で確認したが、王黎は意外にも嬉しいような誇らしいような、晴れ晴れとした慈愛に満ちた目付きで紀更の横顔を見ていた。
そんなカタリーナのお転婆騒ぎがあったものの、船出の準備は整った。
上空は風が強く、午後は少し雲が出そうな天気だったが、今日の朝を逃したら数日は出発を遅らせた方がよくなるかもしれない。それなら今のうちに港を出て、雲の向こうへ少しでも進んだ方がいい。航海士と船乗りのその判断に基づき、ジャスパーが出港の許可を出す。
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