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第03話 海の操言士と不思議な塔
4.手紙(下)
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ゼルヴァイス城を後にした紀更たちは、下層まで下りて港へ向かうことにした。次の目的地になった〝塔〟の情報を少しでも集めるためだ。
「エリックさん、あの……ごめんなさい」
エリックの隣に並んで歩く紀更は、しおれた声で謝った。
「何についてだ?」
エリックが問うと、紀更はしばし沈黙したのち覚悟を決めて口を開いた。
「塔へ行くのは、祈聖石とは関係がありません。私のわがままで、皆さんを安全でない道へ巻き込んでしまうから」
音の街ラフーアで、エリックは紀更に言った。安心して旅ができるように、互いに気を付けていこうと。
だが紀更は、祈聖石巡礼の旅の中心人物であるにもかかわらず、祈聖石とはまったく関係のない塔への道を望み、そのために海原へ出るというとんでもなく安心、安全から離れた選択をしてしまった。旅の本筋からそれるうえに、人によって見えたり見えなかったりするという不思議な塔を目指す進路は危険で、決して褒められた道ではないだろう。
「片手で数えるほどだが」
エリックは港へ向かう足を止めずに語った。
「船に乗って海へ出たことがある。訓練の一環だ。船体は波で簡単に揺れるし、天気が崩れて強風が吹いて波が荒れれば、転覆の危機を容易に感じる。おまけに、海にも怪魔は出現する」
「えっ、そ、そうなんですか!?」
「スミエルという、水中を縄張りとする怪魔だ。強さはカルーテほどだから、だいぶ凶暴な魚だと思って対処すれば、それほど脅威ではない。だが船の上という不安定な立地が、地上で戦うのとは別の戦闘技術を求めてくる。あれはなかなかいい訓練だった」
「船旅は、陸路を進むのとは違う危険がある、ということですね」
「そうだ」
エリックは少し冷たく、短く言いきった。紀更はその声の冷たさに背中が緊張する。
「我々の任務は、紀更殿の護衛だ。護衛対象に降りかかる危険性は排除せねばならない。護衛する側の正直な気持ちとしては、リスクの高い道を安直に選んでほしくはない」
「あの……ごめんなさ――」
「――だが、紀更殿はひとつ勘違いをしている」
紀更の再度の謝罪にかぶせるように、エリックは言った。
「紀更殿が自分に必要な道を選ぶということ。それはわがままではない。目的や思いがあって何かを選択し進むことは、人が成長するために必要なことだ。紀更殿は一人前の操言士になりたいのだろう? そのために王黎殿に教え導いてもらい、対怪魔戦の経験を積み、祈聖石を巡礼して、操言の力の使い方を身に付けようとしているのだろう?」
「そう……です」
「手紙の送り主、自称フォスニアの王子やそれをゼルヴァイス城の城主に託した使者は、いかにもうさんくさい。城主は信じていると言ったが、イタズラの可能性がなくなったわけではない。海原へ出て塔を目指すことは、紀更殿だけでなく我々全員の身を危険にさらすことだ。安全性だけを考えるなら、手紙など無視すべきだと思う」
「でもっ」
「そうだ。〝でも〟……それでもあなたには進みたい道がある。知りたいことがある。いいんだ、それで」
エリックは紀更の背中をぽんとたたいた。
「紀更殿がどんな道を進もうと、我々はあなたを護衛する。紀更殿は紀更殿の道を進めばいい」
「エリックさん……」
紀更はエリックを見上げた。
六人の中で最年長の彼は苦労が多いのか、よく見ると黒髪に白髪が混ざっている。常に職務に忠実で真面目であり、私利私欲を口にすることはめったにない。マイペースな王黎を諫めて駄目なことは駄目と言ったり、こうして紀更を励ましてくれたりもして、一家の大黒柱のような頼もしさがある。
「特別な操言士……勝手につけられたその呼び名を超える立派な操言士になれるよう、頑張れ」
エリックはそう言って、珍しく口元に笑みを浮かべた。
きっと本音は、怪しげな手紙に書かれた内容など無視して、安全に国内を旅してほしいことだろう。紀更の護衛が仕事とはいえ、海を渡って関わりのない他国の地を目指すことなど、回避できるなら回避したいに違いない。
だが、そうは言わない。見守って、応援してくれる。紀更が一人前の操言士になれるようにと。
(頑張ろう……頑張らなくちゃ)
紀更は拳を握った。
(王黎師匠の講義や言葉を憶えること。操言の力の使い方を内省することや、怪魔との戦闘。人と話すこと、考えること……。ひとつひとつを、もっと大切にしよう)
見るもの聞くものふれるもの、すべてを自分の養分にしていく。そうすればきっと、一人前の操言士になれるはずだ。
弟の俊が生きていれば、こんな風に思ったのは俊の方だったかもしれない。だが俊はもういない。死んでしまった者の時間は進まない。生きている自分が、しっかりと歩いていかなければならないのだ。
「ここから先が港だよー。地面が濡れてるから、足元に気を付けてね」
第一城壁の端が途切れ、下層なのに土の道ではなく石が敷き詰められた道に変わる。
そこは数え切れないほどの船が止まっている広い波止場、港だった。
漁に使われるのだろう、網が乗せられたままの小型の船もあれば、交易の品を詰め込んだ木箱が積みやすいように、広く大きく造られた船もある。どれも丈夫で、荒波にも負けないような力強さを感じる船体だった。
「さて、子供たちはどーこーかーなー」
王黎が鼻歌でも歌うような軽やかさで、きょろきょろとあたりを見渡す。紀更も積極的に視線をめぐらした。
「王黎師匠、あっちに」
「おや、いい感じにお子様の集団がいるね」
波止場の一角に、漁師から魚のおこぼれをいただく猫が数匹いるが、その猫をさわろうとして集まったらしい六、七歳くらいの男児が三人いた。
「猫、かわいいねー」
紀更はさりげなく近付くと、自分も猫に興味があるように腰を下ろして、猫の背に手を伸ばした。魚を食べるのに夢中な猫は、なでられても嫌がるそぶりはない。
「たべてるときはさわれるんだよ」
「そうなの?」
「たべてないときはにげちゃう」
二人の男児が、紀更と同じように猫をなでながら見知らぬ顔だろうに臆せず紀更に話しかけてくれた。会話ができそうだとふんで、紀更も積極的に話を振ってみる。
「ねえねえ、海の向こうに見える塔って知ってる? 見たことある?」
「とう? とうってなんだ?」
「海のむこうは、すいへーせんっていうんだよ。母ちゃんがいってた」
「こいつの母ちゃん、船にのるんだぜ! カッコいいよな!」
「そっかあ。カッコいいねえ。君も船に乗る? 空に向かって伸びる、細長いの……船に乗って、見たことないかな」
この子たちは不思議な塔が見えないのかもしれない。見えるかどうかは人によるらしいので、諦めて別の子供に話しかけた方がいいだろうか。紀更がそう思い始めたその時、ずっと黙っていた男児がぽつりと言った。
「イーサンが……みた、って」
「イーサン?」
「イーサンは船にのらないよ! でも、網をたたむのはうまいんだぜ!」
「そうなんだ。それはすごいね。イーサンくんは、どんなのを見たのかなあ」
「すごくとおくに、空までのびてるって……イーサンの父ちゃんはみえないって、おこってた」
「君も見えるの?」
「……みえない」
元気よく喋る男の子に笑顔を向けて頷きつつ紀更が尋ねると、静かな男児はどこか悔しげに答えた。
「ほかに誰か見える人を知ってる?」
魚を食べ終えた猫がのそりとその場を後にするのを見守りながら、紀更はなおも尋ねた。元気な男児二人は猫を追いかけて走っていく。
「ヒルダ……」
「ヒルダ?」
「ヒルダもみえる……そーげんし、だから」
「操言士だから?」
思いもよらない単語に、紀更は少しぎょっとした。
(塔が見えるか見えないかに、操言士が関わっているの?)
「イーサンはみならい……僕もなのに」
「君は見習い操言士なのかな」
「うん……そーげんしになれるって」
「そっかあ。ヒルダさんも操言士?」
「うん……船にのる」
「ヒルダさんは、君と同じくらいの年の子?」
「ううん……もう、白いのきてる」
(白いの……操言ローブ……ヒルダさんは一人前の操言士なのね)
幼い男児から聞ける話は継ぎ接ぎのようで理解に苦しむところはあるが、少なくともヒルダという一人前の操言士は塔の見える人物であるらしい。一人前ということはきっと若くても成人前後の年齢だろうし、この子よりはもう少し詳しい話が聞けるかもしれない。
「教えてくれてありがとう。またね」
紀更は男の子の頭をやさしくなでると、少し離れた位置で待っていた王黎たちの元へ戻った。
「どうだった?」
王黎が首尾を尋ねる。紀更が子供たちに近付いた時点で、話を聞き出すのは歳が近い紀更が適任だと判断した王黎たちは、成り行きを見守っていた。
紀更は、男の子たちから聞けた話をある程度頭の中で整理してから報告した。
「あそこにいた子供たちの知り合いで、イーサンという操言の力を持つ子がいるそうですが、彼は塔が見えるそうです。それと、ヒルダという一人前の操言士の方も見えるらしいです」
「操言士なら塔が見えるってことかな?」
「いえ……私も一瞬そう考えたんですけど、違うと思います。話してくれた子も見習い操言士ですが、見えないそうなので」
「うーん……塔が見える、見えないには本当に規則性がないのかあ」
王黎が呟くと、ユルゲンたちは水平線に目を凝らして口々に言った。
「現時点で俺には見えないな」
「自分もです。エリックさんはどうですか」
「見えないな」
「操言士じゃない俺らは見えないが、王黎たちはどうなんだ」
ユルゲンに問われて、紀更と王黎も大海原に目を凝らす。しかし、塔と思しきものは二人にも見えなかった。
「見えないです。王黎師匠はどうですか」
「残念ながら僕にも見えないねえ。少なくとも、ゼルヴァイスの住民じゃないと見えないのかなあ。そのヒルダって操言士に話を聞きたいね」
「王黎師匠がご存じの方ではないですか?」
「ゼルヴァイスの操言士は結構知ってるけど、ヒルダって名前は聞いたことがないなあ。もしかしたら、最近修了試験に合格した新人さんかもしれないね」
「そこにいるご婦人に訊いてみるか」
「え?」
きょとんとした表情の紀更の横で、エリックはルーカスに目配せをする。そのエリックの意をくみ取ったルーカスが頷くと、二人の騎士は同時に駆け出した。
「エリックさん、あの……ごめんなさい」
エリックの隣に並んで歩く紀更は、しおれた声で謝った。
「何についてだ?」
エリックが問うと、紀更はしばし沈黙したのち覚悟を決めて口を開いた。
「塔へ行くのは、祈聖石とは関係がありません。私のわがままで、皆さんを安全でない道へ巻き込んでしまうから」
音の街ラフーアで、エリックは紀更に言った。安心して旅ができるように、互いに気を付けていこうと。
だが紀更は、祈聖石巡礼の旅の中心人物であるにもかかわらず、祈聖石とはまったく関係のない塔への道を望み、そのために海原へ出るというとんでもなく安心、安全から離れた選択をしてしまった。旅の本筋からそれるうえに、人によって見えたり見えなかったりするという不思議な塔を目指す進路は危険で、決して褒められた道ではないだろう。
「片手で数えるほどだが」
エリックは港へ向かう足を止めずに語った。
「船に乗って海へ出たことがある。訓練の一環だ。船体は波で簡単に揺れるし、天気が崩れて強風が吹いて波が荒れれば、転覆の危機を容易に感じる。おまけに、海にも怪魔は出現する」
「えっ、そ、そうなんですか!?」
「スミエルという、水中を縄張りとする怪魔だ。強さはカルーテほどだから、だいぶ凶暴な魚だと思って対処すれば、それほど脅威ではない。だが船の上という不安定な立地が、地上で戦うのとは別の戦闘技術を求めてくる。あれはなかなかいい訓練だった」
「船旅は、陸路を進むのとは違う危険がある、ということですね」
「そうだ」
エリックは少し冷たく、短く言いきった。紀更はその声の冷たさに背中が緊張する。
「我々の任務は、紀更殿の護衛だ。護衛対象に降りかかる危険性は排除せねばならない。護衛する側の正直な気持ちとしては、リスクの高い道を安直に選んでほしくはない」
「あの……ごめんなさ――」
「――だが、紀更殿はひとつ勘違いをしている」
紀更の再度の謝罪にかぶせるように、エリックは言った。
「紀更殿が自分に必要な道を選ぶということ。それはわがままではない。目的や思いがあって何かを選択し進むことは、人が成長するために必要なことだ。紀更殿は一人前の操言士になりたいのだろう? そのために王黎殿に教え導いてもらい、対怪魔戦の経験を積み、祈聖石を巡礼して、操言の力の使い方を身に付けようとしているのだろう?」
「そう……です」
「手紙の送り主、自称フォスニアの王子やそれをゼルヴァイス城の城主に託した使者は、いかにもうさんくさい。城主は信じていると言ったが、イタズラの可能性がなくなったわけではない。海原へ出て塔を目指すことは、紀更殿だけでなく我々全員の身を危険にさらすことだ。安全性だけを考えるなら、手紙など無視すべきだと思う」
「でもっ」
「そうだ。〝でも〟……それでもあなたには進みたい道がある。知りたいことがある。いいんだ、それで」
エリックは紀更の背中をぽんとたたいた。
「紀更殿がどんな道を進もうと、我々はあなたを護衛する。紀更殿は紀更殿の道を進めばいい」
「エリックさん……」
紀更はエリックを見上げた。
六人の中で最年長の彼は苦労が多いのか、よく見ると黒髪に白髪が混ざっている。常に職務に忠実で真面目であり、私利私欲を口にすることはめったにない。マイペースな王黎を諫めて駄目なことは駄目と言ったり、こうして紀更を励ましてくれたりもして、一家の大黒柱のような頼もしさがある。
「特別な操言士……勝手につけられたその呼び名を超える立派な操言士になれるよう、頑張れ」
エリックはそう言って、珍しく口元に笑みを浮かべた。
きっと本音は、怪しげな手紙に書かれた内容など無視して、安全に国内を旅してほしいことだろう。紀更の護衛が仕事とはいえ、海を渡って関わりのない他国の地を目指すことなど、回避できるなら回避したいに違いない。
だが、そうは言わない。見守って、応援してくれる。紀更が一人前の操言士になれるようにと。
(頑張ろう……頑張らなくちゃ)
紀更は拳を握った。
(王黎師匠の講義や言葉を憶えること。操言の力の使い方を内省することや、怪魔との戦闘。人と話すこと、考えること……。ひとつひとつを、もっと大切にしよう)
見るもの聞くものふれるもの、すべてを自分の養分にしていく。そうすればきっと、一人前の操言士になれるはずだ。
弟の俊が生きていれば、こんな風に思ったのは俊の方だったかもしれない。だが俊はもういない。死んでしまった者の時間は進まない。生きている自分が、しっかりと歩いていかなければならないのだ。
「ここから先が港だよー。地面が濡れてるから、足元に気を付けてね」
第一城壁の端が途切れ、下層なのに土の道ではなく石が敷き詰められた道に変わる。
そこは数え切れないほどの船が止まっている広い波止場、港だった。
漁に使われるのだろう、網が乗せられたままの小型の船もあれば、交易の品を詰め込んだ木箱が積みやすいように、広く大きく造られた船もある。どれも丈夫で、荒波にも負けないような力強さを感じる船体だった。
「さて、子供たちはどーこーかーなー」
王黎が鼻歌でも歌うような軽やかさで、きょろきょろとあたりを見渡す。紀更も積極的に視線をめぐらした。
「王黎師匠、あっちに」
「おや、いい感じにお子様の集団がいるね」
波止場の一角に、漁師から魚のおこぼれをいただく猫が数匹いるが、その猫をさわろうとして集まったらしい六、七歳くらいの男児が三人いた。
「猫、かわいいねー」
紀更はさりげなく近付くと、自分も猫に興味があるように腰を下ろして、猫の背に手を伸ばした。魚を食べるのに夢中な猫は、なでられても嫌がるそぶりはない。
「たべてるときはさわれるんだよ」
「そうなの?」
「たべてないときはにげちゃう」
二人の男児が、紀更と同じように猫をなでながら見知らぬ顔だろうに臆せず紀更に話しかけてくれた。会話ができそうだとふんで、紀更も積極的に話を振ってみる。
「ねえねえ、海の向こうに見える塔って知ってる? 見たことある?」
「とう? とうってなんだ?」
「海のむこうは、すいへーせんっていうんだよ。母ちゃんがいってた」
「こいつの母ちゃん、船にのるんだぜ! カッコいいよな!」
「そっかあ。カッコいいねえ。君も船に乗る? 空に向かって伸びる、細長いの……船に乗って、見たことないかな」
この子たちは不思議な塔が見えないのかもしれない。見えるかどうかは人によるらしいので、諦めて別の子供に話しかけた方がいいだろうか。紀更がそう思い始めたその時、ずっと黙っていた男児がぽつりと言った。
「イーサンが……みた、って」
「イーサン?」
「イーサンは船にのらないよ! でも、網をたたむのはうまいんだぜ!」
「そうなんだ。それはすごいね。イーサンくんは、どんなのを見たのかなあ」
「すごくとおくに、空までのびてるって……イーサンの父ちゃんはみえないって、おこってた」
「君も見えるの?」
「……みえない」
元気よく喋る男の子に笑顔を向けて頷きつつ紀更が尋ねると、静かな男児はどこか悔しげに答えた。
「ほかに誰か見える人を知ってる?」
魚を食べ終えた猫がのそりとその場を後にするのを見守りながら、紀更はなおも尋ねた。元気な男児二人は猫を追いかけて走っていく。
「ヒルダ……」
「ヒルダ?」
「ヒルダもみえる……そーげんし、だから」
「操言士だから?」
思いもよらない単語に、紀更は少しぎょっとした。
(塔が見えるか見えないかに、操言士が関わっているの?)
「イーサンはみならい……僕もなのに」
「君は見習い操言士なのかな」
「うん……そーげんしになれるって」
「そっかあ。ヒルダさんも操言士?」
「うん……船にのる」
「ヒルダさんは、君と同じくらいの年の子?」
「ううん……もう、白いのきてる」
(白いの……操言ローブ……ヒルダさんは一人前の操言士なのね)
幼い男児から聞ける話は継ぎ接ぎのようで理解に苦しむところはあるが、少なくともヒルダという一人前の操言士は塔の見える人物であるらしい。一人前ということはきっと若くても成人前後の年齢だろうし、この子よりはもう少し詳しい話が聞けるかもしれない。
「教えてくれてありがとう。またね」
紀更は男の子の頭をやさしくなでると、少し離れた位置で待っていた王黎たちの元へ戻った。
「どうだった?」
王黎が首尾を尋ねる。紀更が子供たちに近付いた時点で、話を聞き出すのは歳が近い紀更が適任だと判断した王黎たちは、成り行きを見守っていた。
紀更は、男の子たちから聞けた話をある程度頭の中で整理してから報告した。
「あそこにいた子供たちの知り合いで、イーサンという操言の力を持つ子がいるそうですが、彼は塔が見えるそうです。それと、ヒルダという一人前の操言士の方も見えるらしいです」
「操言士なら塔が見えるってことかな?」
「いえ……私も一瞬そう考えたんですけど、違うと思います。話してくれた子も見習い操言士ですが、見えないそうなので」
「うーん……塔が見える、見えないには本当に規則性がないのかあ」
王黎が呟くと、ユルゲンたちは水平線に目を凝らして口々に言った。
「現時点で俺には見えないな」
「自分もです。エリックさんはどうですか」
「見えないな」
「操言士じゃない俺らは見えないが、王黎たちはどうなんだ」
ユルゲンに問われて、紀更と王黎も大海原に目を凝らす。しかし、塔と思しきものは二人にも見えなかった。
「見えないです。王黎師匠はどうですか」
「残念ながら僕にも見えないねえ。少なくとも、ゼルヴァイスの住民じゃないと見えないのかなあ。そのヒルダって操言士に話を聞きたいね」
「王黎師匠がご存じの方ではないですか?」
「ゼルヴァイスの操言士は結構知ってるけど、ヒルダって名前は聞いたことがないなあ。もしかしたら、最近修了試験に合格した新人さんかもしれないね」
「そこにいるご婦人に訊いてみるか」
「え?」
きょとんとした表情の紀更の横で、エリックはルーカスに目配せをする。そのエリックの意をくみ取ったルーカスが頷くと、二人の騎士は同時に駆け出した。
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