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第03話 海の操言士と不思議な塔
2.職人操言士(上)
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「巡礼の旅は西回りかい?」
「そのつもりだけど、どうして?」
王黎は訊き返す。弥生は粛々と続けた。
「南に向かうなら、サーディアとの国境付近は気を付けな。風の噂だが、サーディアとフォスニアの間で何かあったらしいさね」
「何か?」
「何か、だ。それ以上はわからんね」
大陸にはオリジーアを含めて四つの国があるが、国同士の国交はどこも皆無に等しい。特にオリジーアと東の大国セカンディアは過去に幾度かの戦争を繰り返したこともあり、互いの国境を絶対に超えてはならないという暗黙のルールがある。それは操言士や騎士だけでなく、隊商など商業を営む一般市民もだ。
同じようにオリジーアは、大陸の西にあるサーディア、南西のフォスニアの領土にも、決して近付かない。両国へ行くためにはイスコ山地を越えなければならないという地理的制約があるのも関係しているが、特にフォスニアは、闇の神様ヤオディミスを信仰しているらしく、光の神様カオディリヒスと関わりの深いオリジーアとしては、関わることを忌避していた。
「他国とは関わらないにかぎるね。戦争なんてもってのほかだし、他国より怪魔の方が脅威だ」
「確かに怪魔は脅威だけど、他国と関わってみるのも面白そうじゃない?」
弥生の弁に、王黎は半分ほど賛同した。
オリジーアが最後に起こした戦争は、約五十年前の「報復戦争」だ。
当時の弥生は物心がついたぐらいの幼児で、それほど戦争の記憶がはっきりとあるわけではないだろうが、戦争未経験の王黎や紀更と違って、戦争の残した爪痕や混乱は多少なりとも記憶があるのだろう。そのうえで、守護部の操言士として人生の大半を過ごし、都市部を守ることを第一に考えてきた古参だからこそ、出てくる言葉には重みがあった。
「面白いことなんかないさね。よそはよそ、うちはうちでちょうどいいんだ」
弥生はすました顔でカップに口付けた。
ラフーアのゴンタスと違って、王黎は弥生のことを、操言士として信頼はしている。しかし弥生のその考えに、手放しで同調はできなかった。
(他国を知ることは、自分のこの国を知ることでもあると思うけどな)
互いに関わり合うということは、すべてがプラスにはたらくことではない。関わることでマイナスの関係になることもある。戦争がその最たるものだ。プラスの関係だけを築くということは、現実的に不可能なことではある。
しかし、たとえマイナスの関係が生じるとしても、そのリスクを負ってでも関わり合う必要性はあるのではないだろうか。たとえばオリジーア国内の都市部と都市部が、それぞれが産地となっている製品を交易して栄えているように、国と国も、お互いの持っているものをうまく交換できたらより発展するのではないだろうか。
他国と一切関わらないことで一種の平和を得ている今の時代、この大陸のすべての国にとっての最大の脅威は怪魔という存在だ。そこには同意する。怪魔がいる限り、誰もが安心して安全に暮らせる世界とは言いがたいだろう。
だからこそ、その怪魔に対しても国同士が協力し、お互いが知っていることを開示し合ったら、もっと有効な対抗手段が生まれるのではないか。一人ではできないことがあるように、一国では限界がある怪魔への対策も、国と国が協力すれば良案が生まれるのではないか。何より、他国を知ることで自分たちの国の成長を促進できるのではないか。
他国と関わらないということは、実は有益な何かを失っている。必ずしも不干渉が正解とは言えない。王黎はそう考えていた。
「あの……弥生支部長のお弟子さんは、何人くらいいるんですか」
王黎が何か言いたそうなのを我慢したまま黙っているのを察して、紀更は弥生に話を振ってみた。すると弥生は眉間に皺を寄せて訂正した。
「そんな呼び方はよしとくれ。あたしのことは〝弥生ちゃん〟と呼びな。いいね?」
「あ、はい。すみません」
「弟子は……ちょっと待ちな。いま思い出して数えるさね」
紀更と弥生が対話する横で、王黎は沈黙したまま茶をすすった。
一筋縄でいかないのは、国と国だけではない。操言士団ひとつとってもそうだ。
ゴンタスのように自分の保身だけを考える者もいれば、弥生のように都市部全体のことを考えて組織を動かせる者もいる。好き勝手に放蕩したい王黎のような操言士もいれば、王黎の同期のように真面目で堅物すぎる操言士もいる。
怪魔についても、「怪魔が出現する原理は不明で、その存在はもはやどうしようもない」と半ば諦めている国民が大半を占める中で、「怪魔という存在を根本的になんとかしたい」と考えている操言士もいる。また、それらの思いや考えを素直に口にできる者もいれば、考えはしてみるものの決して口に出せない者もいる。常に三者三様だ。
自分がどのような思想を持っているのか、明確に表示する者は少ない。けれども会話を重ねてその言動を観察すれば、多少なりともわかることはある。
(弥生ちゃんも、他国との交流には消極的、か)
それならそれでいい。ゼルヴァイス城とその城下町を守るために全力を尽くすなら、それに越したことはない。それが弥生の役割だ。オリジーアの今後だとか他国との関係改善だとか、弥生が考える必要はない。
「とまあ、そんなもんかねえ」
「何人も教えるなんて、たいへんですね」
なかなかに盛り上がる紀更と弥生。
(はあ……なかなか仲間は増えないなあ)
その様子を眺めつつ、王黎は胸中でため息をついた。
「そうでもないさね。あたしゃ教える弟子を選り好みしたからね。ひょろ坊みたいに面倒くさい弟子じゃなくて、もともと優秀な弟子が勝手に育ったようなもんさ」
「え~、ひどいなあ、弥生ちゃん。僕も優秀だよ?」
「あんたはその優秀さを帳消しするほどに面倒くさいんだよ。自覚があるだろう」
王黎は思案していることを悟られないように、へらへらと笑った。それから、ため息をつく弥生に別の用件を切り出す。
「弥生ちゃん、ぜひ城主にも挨拶したいんだけど、できそうかな?」
「城主は忙しくてね。今日は無理だが明日の午後なら時間をくれるそうだよ。それとね」
弥生は立ち上がるとデスクに向かい、引き出しから何かを取り出した。ソファに戻り、それを紀更に手渡す。
それは太い布で編まれた手のひらサイズの長方形のペナントだった。周囲は黄色い布で縁取られ、中央にはゼルヴァイス城を示す緻密な城の絵が刺繍されている。
「そのペナントを、第三城壁中央門の騎士に見せな。城の中は無理だが、上層の敷地内には入れてもらえるさね。祈聖石を回るのに必要だろぃ」
「あ、ありがとうございます」
紀更は礼を述べると、まじまじとペナントを見つめた。
「さすが弥生支部長、仕事が早くて頼りになるね。助かるよ、ありがとう」
最美から一行到着の伝言を聞いて、おそらく昨日のうちに入手してくれたのだろう。
王黎は真面目ぶって礼を言ったが、弥生はふん、と鼻を鳴らした。
「〝弥生ちゃん〟だよ、ばかもん。それ以外の呼び方はやめとくれ。それとね、ひょろ坊のことだ。お嬢ちゃんに職人操言士を見せたいんだろう。ヒューか皐月を使うといい。会館か工房にいるさね」
「わかった。ありがとう、弥生ちゃん」
なおも王黎の行動を先読みしてくれる弥生に、王黎はもう一度礼を言ってから支部長室を後にした。
◆◇◆◇◆
紀更たちが操言支部会館にいた頃、エリックとルーカスは中層の、国道通りを挟んで操言支部会館と反対側にあるゼルヴァイス騎士団本部に来ていた。王黎たちと同じように、ゼルヴァイス騎士団の長である総隊長へ挨拶と報告をするためだ。
「――以上が途中経過です。当初想定していた様子は見受けられません」
「ふん」
エリックとルーカスが対峙しているのは、ゼルヴァイス騎士団の総隊長、アダム・ロスコフ公騎士のほか、一等騎士が二人の合計三名だ。
「護衛対象に対しても、不審な素振りは認められません」
「だが水の村レイトで目的を変えただろう」
「それについては操言士団の許可が下りており、正当なものと判断します」
「操言士団が奴に踊らされているとは思わんのか。その自覚が操言士団にあるからこその、今回の特別任務ではないのか」
アダムの厳しい目線に、エリックは声を詰まらせた。思わないか、と問われれば答えは是だ。ただ、一事が万事、彼の思惑どおりとも思わない。
ラフーアでの怪魔襲撃事件については、起きるかもしれないと危惧はしていたようだが予知していたとは断言しづらいし、音楽堂前での戦闘でも不審な点はなく、操言士として正しい行動をとった。あの騒動が彼の描いたシナリオだとは思えない。もしもラフーアに着いてからの言動がすべて嘘や演技なのだとしたら、彼は操言士など辞めて、役者にでもなった方がいいくらいだ。
「特別な操言士はどうだ」
「最初の報告通り、いたって普通です。操言士という存在そのものに興味が出てきたようで、教えを着実に吸収しています。対怪魔戦の経験も積み始めました。抑うつ症状が出ているとのことでしたが、徐々に回復していると思われます。王都を出てからの時間が、彼女にとって癒しとなっているのでしょう」
「本当に普通の女の子……いえ、成人していますから女性ですね。普通の女性です。誰かが裏で糸を引いている様子も、本人に何かの企みがあるようにも見えません」
エリックだけでなく、ルーカスも懸命にアダムに主張した。
騎士団や操言士団が考えているような事態は起きていないし、これからも起きない。エリックとルーカスの今回の仕事は、空振りで終わるはずだと。
「最終的な判断は、王都騎士団の団長が下す。わたしではない。お前たちはあらゆる可能性を想定してその目を凝らし続けろ。奴が尻尾を出すまで食らいつけ。それがお前たち王都騎士団第七大隊の役割だ。いいな」
アダムの声に油断する気持ちはない。
返事の代わりに、エリックとルーカスは右手拳を左の鎖骨下に置く騎士流の礼をとった。
◆◇◆◇◆
「そのつもりだけど、どうして?」
王黎は訊き返す。弥生は粛々と続けた。
「南に向かうなら、サーディアとの国境付近は気を付けな。風の噂だが、サーディアとフォスニアの間で何かあったらしいさね」
「何か?」
「何か、だ。それ以上はわからんね」
大陸にはオリジーアを含めて四つの国があるが、国同士の国交はどこも皆無に等しい。特にオリジーアと東の大国セカンディアは過去に幾度かの戦争を繰り返したこともあり、互いの国境を絶対に超えてはならないという暗黙のルールがある。それは操言士や騎士だけでなく、隊商など商業を営む一般市民もだ。
同じようにオリジーアは、大陸の西にあるサーディア、南西のフォスニアの領土にも、決して近付かない。両国へ行くためにはイスコ山地を越えなければならないという地理的制約があるのも関係しているが、特にフォスニアは、闇の神様ヤオディミスを信仰しているらしく、光の神様カオディリヒスと関わりの深いオリジーアとしては、関わることを忌避していた。
「他国とは関わらないにかぎるね。戦争なんてもってのほかだし、他国より怪魔の方が脅威だ」
「確かに怪魔は脅威だけど、他国と関わってみるのも面白そうじゃない?」
弥生の弁に、王黎は半分ほど賛同した。
オリジーアが最後に起こした戦争は、約五十年前の「報復戦争」だ。
当時の弥生は物心がついたぐらいの幼児で、それほど戦争の記憶がはっきりとあるわけではないだろうが、戦争未経験の王黎や紀更と違って、戦争の残した爪痕や混乱は多少なりとも記憶があるのだろう。そのうえで、守護部の操言士として人生の大半を過ごし、都市部を守ることを第一に考えてきた古参だからこそ、出てくる言葉には重みがあった。
「面白いことなんかないさね。よそはよそ、うちはうちでちょうどいいんだ」
弥生はすました顔でカップに口付けた。
ラフーアのゴンタスと違って、王黎は弥生のことを、操言士として信頼はしている。しかし弥生のその考えに、手放しで同調はできなかった。
(他国を知ることは、自分のこの国を知ることでもあると思うけどな)
互いに関わり合うということは、すべてがプラスにはたらくことではない。関わることでマイナスの関係になることもある。戦争がその最たるものだ。プラスの関係だけを築くということは、現実的に不可能なことではある。
しかし、たとえマイナスの関係が生じるとしても、そのリスクを負ってでも関わり合う必要性はあるのではないだろうか。たとえばオリジーア国内の都市部と都市部が、それぞれが産地となっている製品を交易して栄えているように、国と国も、お互いの持っているものをうまく交換できたらより発展するのではないだろうか。
他国と一切関わらないことで一種の平和を得ている今の時代、この大陸のすべての国にとっての最大の脅威は怪魔という存在だ。そこには同意する。怪魔がいる限り、誰もが安心して安全に暮らせる世界とは言いがたいだろう。
だからこそ、その怪魔に対しても国同士が協力し、お互いが知っていることを開示し合ったら、もっと有効な対抗手段が生まれるのではないか。一人ではできないことがあるように、一国では限界がある怪魔への対策も、国と国が協力すれば良案が生まれるのではないか。何より、他国を知ることで自分たちの国の成長を促進できるのではないか。
他国と関わらないということは、実は有益な何かを失っている。必ずしも不干渉が正解とは言えない。王黎はそう考えていた。
「あの……弥生支部長のお弟子さんは、何人くらいいるんですか」
王黎が何か言いたそうなのを我慢したまま黙っているのを察して、紀更は弥生に話を振ってみた。すると弥生は眉間に皺を寄せて訂正した。
「そんな呼び方はよしとくれ。あたしのことは〝弥生ちゃん〟と呼びな。いいね?」
「あ、はい。すみません」
「弟子は……ちょっと待ちな。いま思い出して数えるさね」
紀更と弥生が対話する横で、王黎は沈黙したまま茶をすすった。
一筋縄でいかないのは、国と国だけではない。操言士団ひとつとってもそうだ。
ゴンタスのように自分の保身だけを考える者もいれば、弥生のように都市部全体のことを考えて組織を動かせる者もいる。好き勝手に放蕩したい王黎のような操言士もいれば、王黎の同期のように真面目で堅物すぎる操言士もいる。
怪魔についても、「怪魔が出現する原理は不明で、その存在はもはやどうしようもない」と半ば諦めている国民が大半を占める中で、「怪魔という存在を根本的になんとかしたい」と考えている操言士もいる。また、それらの思いや考えを素直に口にできる者もいれば、考えはしてみるものの決して口に出せない者もいる。常に三者三様だ。
自分がどのような思想を持っているのか、明確に表示する者は少ない。けれども会話を重ねてその言動を観察すれば、多少なりともわかることはある。
(弥生ちゃんも、他国との交流には消極的、か)
それならそれでいい。ゼルヴァイス城とその城下町を守るために全力を尽くすなら、それに越したことはない。それが弥生の役割だ。オリジーアの今後だとか他国との関係改善だとか、弥生が考える必要はない。
「とまあ、そんなもんかねえ」
「何人も教えるなんて、たいへんですね」
なかなかに盛り上がる紀更と弥生。
(はあ……なかなか仲間は増えないなあ)
その様子を眺めつつ、王黎は胸中でため息をついた。
「そうでもないさね。あたしゃ教える弟子を選り好みしたからね。ひょろ坊みたいに面倒くさい弟子じゃなくて、もともと優秀な弟子が勝手に育ったようなもんさ」
「え~、ひどいなあ、弥生ちゃん。僕も優秀だよ?」
「あんたはその優秀さを帳消しするほどに面倒くさいんだよ。自覚があるだろう」
王黎は思案していることを悟られないように、へらへらと笑った。それから、ため息をつく弥生に別の用件を切り出す。
「弥生ちゃん、ぜひ城主にも挨拶したいんだけど、できそうかな?」
「城主は忙しくてね。今日は無理だが明日の午後なら時間をくれるそうだよ。それとね」
弥生は立ち上がるとデスクに向かい、引き出しから何かを取り出した。ソファに戻り、それを紀更に手渡す。
それは太い布で編まれた手のひらサイズの長方形のペナントだった。周囲は黄色い布で縁取られ、中央にはゼルヴァイス城を示す緻密な城の絵が刺繍されている。
「そのペナントを、第三城壁中央門の騎士に見せな。城の中は無理だが、上層の敷地内には入れてもらえるさね。祈聖石を回るのに必要だろぃ」
「あ、ありがとうございます」
紀更は礼を述べると、まじまじとペナントを見つめた。
「さすが弥生支部長、仕事が早くて頼りになるね。助かるよ、ありがとう」
最美から一行到着の伝言を聞いて、おそらく昨日のうちに入手してくれたのだろう。
王黎は真面目ぶって礼を言ったが、弥生はふん、と鼻を鳴らした。
「〝弥生ちゃん〟だよ、ばかもん。それ以外の呼び方はやめとくれ。それとね、ひょろ坊のことだ。お嬢ちゃんに職人操言士を見せたいんだろう。ヒューか皐月を使うといい。会館か工房にいるさね」
「わかった。ありがとう、弥生ちゃん」
なおも王黎の行動を先読みしてくれる弥生に、王黎はもう一度礼を言ってから支部長室を後にした。
◆◇◆◇◆
紀更たちが操言支部会館にいた頃、エリックとルーカスは中層の、国道通りを挟んで操言支部会館と反対側にあるゼルヴァイス騎士団本部に来ていた。王黎たちと同じように、ゼルヴァイス騎士団の長である総隊長へ挨拶と報告をするためだ。
「――以上が途中経過です。当初想定していた様子は見受けられません」
「ふん」
エリックとルーカスが対峙しているのは、ゼルヴァイス騎士団の総隊長、アダム・ロスコフ公騎士のほか、一等騎士が二人の合計三名だ。
「護衛対象に対しても、不審な素振りは認められません」
「だが水の村レイトで目的を変えただろう」
「それについては操言士団の許可が下りており、正当なものと判断します」
「操言士団が奴に踊らされているとは思わんのか。その自覚が操言士団にあるからこその、今回の特別任務ではないのか」
アダムの厳しい目線に、エリックは声を詰まらせた。思わないか、と問われれば答えは是だ。ただ、一事が万事、彼の思惑どおりとも思わない。
ラフーアでの怪魔襲撃事件については、起きるかもしれないと危惧はしていたようだが予知していたとは断言しづらいし、音楽堂前での戦闘でも不審な点はなく、操言士として正しい行動をとった。あの騒動が彼の描いたシナリオだとは思えない。もしもラフーアに着いてからの言動がすべて嘘や演技なのだとしたら、彼は操言士など辞めて、役者にでもなった方がいいくらいだ。
「特別な操言士はどうだ」
「最初の報告通り、いたって普通です。操言士という存在そのものに興味が出てきたようで、教えを着実に吸収しています。対怪魔戦の経験も積み始めました。抑うつ症状が出ているとのことでしたが、徐々に回復していると思われます。王都を出てからの時間が、彼女にとって癒しとなっているのでしょう」
「本当に普通の女の子……いえ、成人していますから女性ですね。普通の女性です。誰かが裏で糸を引いている様子も、本人に何かの企みがあるようにも見えません」
エリックだけでなく、ルーカスも懸命にアダムに主張した。
騎士団や操言士団が考えているような事態は起きていないし、これからも起きない。エリックとルーカスの今回の仕事は、空振りで終わるはずだと。
「最終的な判断は、王都騎士団の団長が下す。わたしではない。お前たちはあらゆる可能性を想定してその目を凝らし続けろ。奴が尻尾を出すまで食らいつけ。それがお前たち王都騎士団第七大隊の役割だ。いいな」
アダムの声に油断する気持ちはない。
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