夢氷

エンドクルス

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夢氷

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しかしながら、現実は甘くないというか平等にして順序や、足し引きが先々を決めているようだった。え、どうゆうことかって?イケメンではなかった俺に自分から話しかけようとする女は1人たりともおらず、こっちはこっちで冤罪の怖さにかこつけて本当は何でおれからなんだよという小さなプライドがあったからである。もちろん合わないことには何も始まらないから何の引っかかりもなくこれまでこれたのでした、おわり。
「そうだ、買い物に行こう」
振り返るのはやめて京都に行くようなスタンスで俺は近くのスーパーに行くことにした。

外に出てみると薄曇りで風はそよ風程度の少し冷たいくらいだった。俺は原付に乗ってヘルメットの顎紐をしめるとスロットルを少しずつひねり、アパートを後にした。

国道に出てみるとやはり祝日10時なのもあってかなかなか交通量が多い。こうゆう時に原付が真の力とか言ってガキンカギンシャキーンて元の体積と合わないごついモンスターマシンになって滑空できたらいいのにな。
俺はボタンを押すことにした。方向指示器のスライドボタンだが。

軽いエンジン音で颯爽と件のスーパーに着陸するとぼちぼちの人の量だった。ここがホームセンターならもっとガヤガヤしているんだろう。ホームセンターは暇つぶしにもってこいである、使う縁なんて微塵もない農耕具や、車のグッズを見ているだけで飽きることがない。 きっとこれをホームマジックっていうんだ、あれなんかインドア向けだなぁ。

どっこいしょとセンタースタンドを立ててスーパーに入ろうとするといつもは入り口の端にある焼き鳥やさんの屋台しかないのに、今日はとても派手な屋台?のような出し物が隣にかまえてある。
なんだろうとよく見ると白い看板には「夢氷」と書かれてあった。そもそも屋台はフルーツソースが乗ったパフェが盛大に溶けたのをサーカスみたいなトンガリ円錐状の屋根にぶちまけた屋台なのに看板は無地の白に黒字で夢氷って、変わってんな。
俺は夢氷なるものを聞いて狐の藍染の話を思い出した。タイトルは思い出せないんだけど確か猟師に人間に化けた狐の藍染屋に入り、狐が言うには二度と見えないものや景色を見ることができるとかなんとかいって手に藍染をしたのだ。手で輪を作りそこを覗くとそこにはもう会えない両親の優しい顔や思い出が映り、とても喜んだそうだ。しかし猟師はその日帰ったあと手をいつものように洗ってしまいせっかくみえていたものがなくなってしまったという話だ。現代と違い、写真がない時代だから俺たちには計り知れない喪失感だったんだろうなと読んだとき子どもながらにしみじみしたものだ。
夢とつく商品なんてロクでもないと俺は思った。バンドマンや漫画家、アイドルが夢を言うなら傍観していられるが、口を持たぬ商品、物が夢を語るなら話は違う。夢心地の枕、夢可愛いぬいぐるみ、夢を夢で終わらせない学校。マジで期待ハズレのベクトル違いである。どうせ夢食感のかき氷だろ、シロップか?シロップが他のやつのとは違うのか、ミキプ○ーン使ってルンスカ!?
俺はそいつを後にしてスーパーに入った。くだらない物に金は落とせない、落ちていいのは素材アイテムと恋だけ。
カゴを、片手に持ちいつものように馴染みの野菜たちをカゴにぶち込んでいく。玉ねぎ、ピーマン、もやし、人参、エノキ、エリンギ、キャベツ。炒めればそれでokなやつしか最近は買ってない。そりゃあ俺だって料理男子なる者に憧れを持つことはあったさ。けどな、一人暮らしは時間が無いんだよね。
帰ったら家事にすぐ取り組めれば良いけど、まぁー無理だわ。すぐソファに座ってゲームしたり、YouTube見たりしちゃう。気づいたら1時間2時間なんてザラにある。そこから家事すると
終わるころには22時過ぎて風呂とかだもん。あと、干したり米研いだり内心まだあんの?まだあんの?とか思いながらやってるよぉ。ってそれソファに座らずに始めれば済むんじゃねで正論やめてくれである。

なんて思いながら買い物をしてようやくスーパーを出る。両手に抱えたビニール袋には3日、4日分くらいの食材と冷食が少々入っている。原チャリに積むとバランスが取りづらいと思い、座席のトランクに入れてあったショルダーバッグを広げてそこに詰めた、これで良し。バッグを背負ってさぁいこうというときにあの屋台がまた視界に入った。気になるといえば気になる。他の屋台とは毛色が違うのだ。こんな奇抜で攻めた屋台テレビでしか見た事無い。もしかしたらもう会えないしなぁ。

散々迷ったが冷食のことを思い出して、俺はその氷を買って心のモヤモヤを晴らすことを優先した。

「すいません」
「はい」
店の人は30代くらいの女の人だった。声はあまり高くない、どちらかと言うと肝っ玉母ちゃんに当てられそうな声の人だ。見た目も主婦が副業でやってますよみたいな感じで、派手な外観を忘れさせるような身近な感じがした。
「夢氷を一つください」
すると女の人は変なことを言う人と接してますみたいな顔をした。まてよ、俺はブスかもしれないが接客は仕事だろ。
「あなた、買うのは初めてなの?」
「え?」
「うちは1粒から売ってるんだよ、買う人は大体ケースで買ってるから。どうする?」
「ケースはいくらするんですか?」
「690円」
690円なら刺身のブロックとか国産のモモ肉2枚入りがこのスーパーで買える値段である。
「どんな味がするんですか?」
「多くはいえないの、というより私も食べたことないから」
ふぁ?そんなことあるのか?売り物を売り手が把握してないなんて滅茶苦茶怪しい。
「1ケースでおねがいします」
「はい、わかりました。」俺は1000円札を出し、お釣りをもらい待つ事になった。
女の人はカウンターの下でゴソゴソし出して商品を出してくれた。
見た目は、なんというかそのまんまだ。
梅干しとかがつけてあるのがよく入っているケースに、ドラッグストアなどでよくみかけるかち割り氷がギッシリ入っている。そんな感じだった。
「あの、これですか。」
「なんだい、うちの商品にケチつけんのかい?」
うわ怖、何この人やばい人なの。
「いえ、なんでもないです。」
「あんたは初めてだから注告しておくけど、これするときは時間に余裕があるときにしな。迷惑かかるから。」
「え、あの」
「早く持って行きな!」
女の人にそんなに強く言われたことがなくて正直泣きそうになりながら俺は瓶に入ったかち割り氷を抱えて原付に乗ると急ぎで帰った。帰ったら…思いっきり泣こうって決めた。
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