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ファンタジーは面白い奴だけでいい 3

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俺は何度も分からない事を松山に聞いて、さらにその返答が共通のものなのかを森永さんに確認し、頼り無い俺の人生経験と今話にあった事の類似点を信じる事でようやく覚悟を決めた。
「俺、このバイト受けるよ」
「本当かい?ありがとう、じゃあお金の話しようか?」
「現実的過ぎませんか?その切り返し」
「仕事である以上、お金は付きまとうものだ、それに命がけということもある。はっきりした内容で君を少しでも安心させておきたいんだよ。」
「はぁ…分かりました。」
「一応月末に払うことにしているけど、週払いがいいなら切り替えるようにするよ。どっちがいいかな?」
「月末でいいです」
「そうか。じゃあ次に、これはもう固定なんだけどね、うちは手渡しで給料を払うシステムを取ってるからそのつもりでよろしく。」
「え?」
「この組織全体のことなんだけどさ、人の入れ替えが激しくて口座に振り込んだりとかするとなると面倒なんだよね。だから1つずつ仕事終わらせるごとに精算はするようにしているから。」
「分かりました。」
「他に質問はある?」
「ないです、今のところは。」
「あ!」
「どうしたんだね、森永君?」
「あの、霧島さんて殺人した事無いですよね?」
「人を怒らせたいんですか?」
俺はキレそうなところを引きつった笑みで踏み止まり、ツっこんだ。次は我慢ならない、もし俺が俺tueee系主人公だったら片腕が大砲になって気がついたら青ヘルメット着用で「ロックバスター!!」なんてイキってたかもしれないだろうが、気をつけろよな。
「ああ、そういえば、まだフィルターをどうするか考えてなかったね。これは一部の人に対する処置でさ、ショッキングな場面に遭遇した場合、パニックになって行動不能にならないようにするために流血やはらわたビヨーンなどを本人に認知させないよう視界にフィルターのような感じでパニックを防止しているんだよね。どう?フィルターかけたほうがいいかな?」
「ちょっとそれじゃ分かりづらいです。」
「例えば牛乳が嫌いな人は砂糖を入れて飲んだりすると飲みやすくなって受け入れられるじゃ無いですか?そんな感じです。」
「例えが牛乳過ぎて分かりません」
「例えば君が冒険者を殺そうとするとしよう。その際ナイフや毒を使うと思うんだけど、その…結構きついものがあるんだよ、平和なこの日本で育った君はさらにきつくなると思う。真っ赤な血が見たこともないくらいに広がって君はブルブル間違いなしだ。いや何、臆病な奴だと言っているわけじゃない、私はこの仕事をするにあたって、できるだけシリアスを省くことで心の安定を保つことがこの仕事を長く続けるコツだと思うんだ。そのために神官に神と交渉してもらい、フィルターのように、実際の生々しい惨劇をある程度抑えてショックを軽減させるような見え方になるように細工してある。このゲートをくぐるとフィルターも効くから特別な事は書類を少々書いてもらう程度だから。よろしこ!」
「もっと具体的に言ってください」
「だから牛乳はね」
「牛乳は今は要らない、松山さんお願いします」
「例えば君がミミズが苦手だったとしよう、そしてそれが君の精神にダメージを与えるようなショッキングな映像だと君の脳が受け止め方をした場合、フィルターをかけておくと君の目にはミミズは…あら不思議!動くキャンディケインに見えるのだぁ!」
「ヌルヌル感は感じないと思いますよ、視覚的にはですけど。」
「このフィルター機能を導入したら辞職率が下がってると神官も言ってたくらいだ、安心して殺したまえ。」
「物騒ですけど、あの、死体はどのように見えるのですか。」
「そうそう、そこなんだよ。この書類に好きな表示方法を書いて欲しいわけ。遠くの敵を何らかの手段で殺害した時、変なエフェクトだと死んでるか分かんなくて逆に殺されたことがあるから、わかりやすい表示で頼むよ」
渡された紙には俺がフィルターを使うことを申請する堅い感じの文章と、大きな空欄に説明で、貴方の受け入れやすい人物殺害完了表示を提示して下さいみたいなことが書いてある。あの説明ではイマイチだったが俺もトラウマで人と向き合えなくなるのはごめんなので申請欄に希望するに丸をして、殺害完了表示には吹き出しがピュっと出てきてdeadと出てきてくれ、内臓にはモザイクお願いしますと書いた。
「書けました、お願いします」
「うん、ありがとう。3日には申請完了だから初陣には間に合うよ。」
「いつからですか?」
「1週間後かな、それまでは顔出さなくて大丈夫だからそのつもりでいいよ。」
「分からないことがあったら聞きに来ます」
「ああ、そうしてくれ。電話でもいい、何でも答えられる範囲の事なら教えるよ。」
そして松山は俺に右手を差し出してきた。契約の握手ってやつだ。
「よろしく、霧島くん。未来は君にかかっているぞよ」
普通に言えよ
「よ、よろしくお願いします」
こうして、僕は殺人稼業に手を出すような輩になりました。

俺は来たる日の為に体を鍛えることにした。芸人だってアスリートだって登山家だって体が資本なんだというじゃないか。ならば命のやり取りをする俺は体を武器にするつもりで鍛えなければダメだ、と思う。
「1018、1019…1020!」俺は腹筋を鍛えることにした。なんか腹筋鍛えておけば何とかなると思ってる。だって強いやつみんな割れてんじゃんかぁ。
だからぁ、まぁ大袈裟にいえばぁ、服ペラってめくってさ、この腹筋が目に入らんかってやったら雑魚くらいは恐れて逃げてくれるんじゃないかな、て期待してます、はい。
だが、1週間でバッキバキのスーパーシェクシャルバデェになるとは思っていない、正直何かしておかないと不安で居ても立っても居られないのだ。
「もうお母さんの顔、みられないな」
100万で異世界で人殺し…高いのか安いのか分からんな。

1週間後、俺はあの事務所に向かった。
「おはようございます」
事務所に入り、誰かいないかと牽制代わりに挨拶をしたのだが、返事が無い。
俺はしばらく突っ立っていたのだが、誰も玄関に来ないので中に入ることにした。
「失礼します」
「はーい、どうぞ」
「おるやないか!」
返事しろよ、気分悪いぞチクショウがよ。
「おお、おはよう霧島くん。ご機嫌いかがかな」
「気持ちがいい朝ですねと言ったら貴方はうれしいですか?」
「少なくとも君と会話のキャッチボールはできることに私は充実感を味わうことができる。まぁ、座りなさい。」
言われるがままに俺は席につく。
「はい、朝の分です」
「牛乳!?」
すかさず森永さんが牛乳をジョッキ一杯差し出してくる。更に今日はビスコを皿に盛ってきてくれた。牛乳だけではきつい、そう思ったのだろうか。なら量から考えてくれないだろうか、ジョッキはきついよ。
「大きくなれないぞ」
うるさいな、成長期は終わったんだよ、ちょっとキャリアがあると姉キャラぶるんだから困るわ社会人女子、乙!
「今日から仕事に取り掛かってもらうよ、準備はいいかな霧嶋君?」
「着替えとかはいらないんですよね?」
「君がパジャマじゃなきゃ眠れないとか、違う枕だと調子出ないよぉとかなら準備したほうがいいよ」
「ちゃかさないでください。」
「着替えとかは異世界で霧嶋君が装う設定に基づいたものを用意してあるからそれで大丈夫だよ。」
「ならあそこにある装備品を装着した後、すぐ転移してもらいましょうか?」
「そうしようかな」
「では霧島さん、こちらの机に来てください」
「わかりました」
俺は森永さんに案内された机の前に行くと、この間説明を受けたデタラメな品々が並べられていた。その品はいくつかの入れ物にまとめるようでその確認を俺とすることが彼女の目的らしい。
「検品作業は終了したので、装備していいですよ。」
すまない、俺としたことがぼーっとしておりました。目の前には、あら不思議だこと、先程まであった道具の数々が3つの革製の袋にまとめてあるじゃあーりませんかぁ、さぷらーいず。
どうしよう、みてなかったからどの袋に何が入ってあるからわからないぉ。いや、1個は、無線機的なあれでしょ、で次は…きびだんごとかビニールシートでしょわかりますぅ。
俺はせくせくと袋にベルトを通して装備した。自前の服とベルトを使うなんて俺、有能。
「出来ましたよ。」
「じゃあ、いってみようか」
「え」
すでにプロジェクターが例の魔法陣をスクリーンに映し出していて俺待ちだったようだ。2メートル程の正方形のスクリーンに映し出された直径1.5メートル程の魔法陣とおぼしきそれはキラキラと色を止めることなく輝いてスピリチュアル全開だ。これに飛び込むのか?俺が?
今更になってまた馬鹿馬鹿しくなってきた、悪い大人にだまされてるじゃないか?出し子や受け子やらされた方がまだ現実味があるとゆうのに飛躍しすぎだよ高杉くん、誰だよたかすぎくん。わからない人は携帯スペース、シーエムで検索だ!
「いけ!世界を救えるのは君だけだ、青年!」
「松山さん…ここにきてそれですか」
「いっけー!!」
「森永さんまで…」
うなだれそうな気持ちに拍車をかけるような2人の送り出しに俺は返って火がついた。
足取り軽く、タンタンタン、それで済む。正面に立った、誰?俺が。
白基調のオフィススペースにちぐはぐな理由を抱えた図形1つ前に大人が3人、マジな目をして向き合ってる。明るい時間から冗談にしても下手なものだ。それなら誰かが抜けださなきゃだよな。だろ、そうだよな。
捨て台詞は決まってる。俺は2人の前に出て振り返ることもなく。
「輪をくぐるのに、ドラムロールがないのは残念だよ。」
そういって走った。恥ずかしいこと半分、もう半分は光るそいつはスクリーンの都合上、70センチ程高さがあるからだ。勢いがないと、跳べない、というかかっこ悪すぎる!!
タンッと音とともに俺は水に飛び込むように手を前に揃えて前傾姿勢で真ん中めがけて突っ込んだ。
オパールのように光り輝く魔法陣はなんの触覚も無く、俺を飲み込んでいった。
これが俺の初めての異世界転移だ。

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