上 下
25 / 45
第三章 初デートと二度目のキス、その後は......

しおりを挟む
「俺ちょっとトイレ」
そう言って青木が席を外す。あれからずっと青木は大河の方を見てくれない。
席を立つ青木の背中を見送って、大河は焦りを感じる。こんなに感情がコントロールできないのは初めてだ。青木に背中を向けられるだけで寂しくて仕方なかった。
だけど弱気になっている場合ではない。今日こそは青木に連絡先を聞いて食事に誘うと大河は心に決めたのだ。決意も新たに、大河は気合を入れるため、目の前にあった瓶からアルコールをコップに注ぐと一気に飲み干した。
「神崎!それ......!!」
後ろで佐々木の慌てる声が聞こえる。それに振り返ろうとして、大河は振り返れなかった。
急にぐるぐると視界が回りだす。
「あーあー、こりゃ遼に怒られるな......」
かすかに聞こえた声が遠くなり、大河は目の前の机に突っ伏した。


「大丈夫か......」
ぐるぐると回る世界の中、優しい優しい掌が背中を撫でてくれていた。
(ああ......この手は......)
大河はこれが誰の手か知っているし、その手に撫でられるのがとても好きだ。
その優しい手の主を見るために、酔いが回る頭を振り切って、大河は目を開ける。目の前に優しい手の主、青木の顔が広がった。それだけで安心して大河はホッと息を吐いた。
「ほら水」
「あ、りがと......」
とても心配そうな瞳で青木が大河を見つめる。不謹慎だと思いながらも、さっきまで背けられていた視線が大河に向いていることに嬉しさを感じた。水を受け取るが、数口飲んだところで手に力が入らなくなり溢してしまう。濡れるのも構わず青木は大河の服を拭いて背中を撫でてくれた。
それが、あまりにも優しくて、愛しさを押さえきれなくなる。
(おれも......触れたい......)
大河は青木の手を握りしめた。簡単に包み込めるその華奢な手に、言いようのない熱を覚える。
その頬に触れて大河は青木を見つめた。大河の視線に青木が頬を染める。赤くなった青木が可愛くて、抑えきれない気持ちのまま大河はその唇に口付けた。
「っ......」
青木が息を飲む。触れた唇が柔らかくて、もっとと思った。
耳を撫でるとその口から息が零れる、開かれた口の間に舌を差し入れ大河はキスを深くした。青木の唇も舌もとても甘い。大河はもっとと思う気持ちのまま何度も口付けた。
徐々に青木の体から力が抜けていく、大河は満足いくまで堪能するとそっと顔を離した。とろんと蕩けた瞳で青木が大河を見つめている。上気した頬が可愛くて、目の前の頬を両手で包み込む。こんな顔を彼にさせたのが自分だと思うと嬉しくて大河は微笑んだ。
すると青木が大河の服を掴む。
(ああもう......どの仕草も可愛い......)
堪らなくて大河は青木の名前を呼んだ。
瞬間。
「最低っっ!!」
頬に強い衝撃を受けたと想ったら、突然青木が駆けだした。去っていく青木の横顔が見える、その顔はどこか悲しそうな表情をしていた。
突然のことに驚くが、瞬間的に青木を引き留めないとと感じて大河も立ち上がろうとする。
「っ、~~~~」
だけど視界がぐらりと歪んで大河はその場に蹲った。
「まって......はるかちゃ......」
それでも青木を追いかけようと大河は必死で立ち上がろうとする。すると余計にぐるぐると視界が回って大河の意識がそこで途切れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

可愛くない僕は愛されない…はず

おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。 押しが強いスパダリα ‪✕‬‪‪ 逃げるツンツンデレΩ ハッピーエンドです! 病んでる受けが好みです。 闇描写大好きです(*´`) ※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております! また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)

悪役令息の兄には全てが視えている

翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」 駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。 大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。 そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?! 絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。 僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。 けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?! これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

チョコをあげなかったら彼氏の無表情が崩れた

ぽぽ
BL
 冴えない風紀委員の琴森は生徒会書記の超絶美形な葉桐と付き合って一年が経つ。  喧嘩もせず良い関係を築いていると思っていたが、ふと葉桐が他の男が好きかもしれないという情報が琴森の耳に入った。更に「今年はチョコはいらない」と話しているところを聞いてしまい、琴森はバレンタインにチョコを渡すことをやめた。  しかしバレンタイン当日、普段無表情で動じない葉桐の様子は何かおかしい。   ━━━━━━━ 寡黙美形書記×平凡鈍感年上 王道学園を意識してます。普通にバレンタイン遅れちゃいました。 表紙はくま様からお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/84075145 R18には☆を付けてます。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...