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第一章 自覚のきっかけはキス

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たっぷりと間を開けて、大河が首を傾げる。
「あー確かにお前の名前の漢字、はるかとも読めるな」
手を握り合いながら見つめあう二人に、佐々木がスマホを見ながらのんびりとそう言った。
「.........」
「.........」
しばし無言で見つめあう二人。
「青木遼(あおきはるか)じゃないの?」
「青木遼(あおきりょう)だよ」
「あ......そうなんだ」
遼の言葉に大河が照れた顔になった。
「青木遼......か」
遼の名前を噛み締めるように大河が呟く。大河は遼を見て、ふわりと笑った。
「いい名前だね」
そう言って嬉しそうに大河は遼の手を握り直した。そのあまりにも嬉しそうな顔に。
「ぷっ......」
遼は堪えられずに吹き出した。
(神崎ってこんなにかっこいいのに......炎天下で空を見て熱中症になったり、何のお酒か確認もせず飲んで潰れたり、俺の名前を読み間違えたり......もしかしたらかなりの天然なのかもしれない)
くくくと遼が声を出して笑っていると、不意に遼を見つめている大河と目が合った。
大河の手が伸びてきて遼の頬に触れる。指先が遼の頬を優しく撫でた。
「やっぱり笑顔、可愛い」
「っ......!」
そう言って大河は満面の笑顔で笑った。
(こんなのもう......キュンとしない方が無理だ)
遼は頬に触れる大河の手に自分の手を重ねた。その手から見つめる視線から、大河の気持ちが伝わってきて。
嬉しくて遼の瞳が潤む。
「ほら、ちゃんと言い直せよ」
滲む瞳を隠すようにぶっきらぼうに遼はそう言う。だけど口調とは反対に、遼は甘えるように大河の掌に頬を寄せた。
「言いなおす......あっ」
遼の言葉に少し考えた大河が、ハッとした顔をする。大河はもう片方の手も遼の頬に伸ばすと両手で包み込んだ。
優しく遼を見つめる大河の綺麗な瞳に、遼はうっとりと見惚れる。
「青木遼さん、大好きです。俺と付き合ってもらえますか?」
「うん、いいよ」
大河の言葉に頷いて、遼も両手で大河の手を包み込んだ。
目の前で大河の口角がものすごく嬉しそうに弧を描いて、遼の胸が甘く震える。
「俺も......す、わぁ......!」
好きと言い終わる前に、大河が遼を思いっきり抱きしめた。
「ちょっ、好きぐらいちゃんと言わせろよ」
「だって嬉しくて」
長い腕で抱きしめてくる大河を遼は突っぱねる。だけど甘えるように大河が髪に顔を埋めてきて、すぐに抵抗できなくなった。
大河の腕の中に抱きしめられて自然と体から力が抜けていく。無意識ですりと胸元にすり寄ると、遼は安心するように息を吐いて大河に体を預けた。
瞬間。
教室に拍手の音が響き渡った。
「え......」
聞こえたその音に、遼はハッして顔を上げた。
そう言えばここ......教室だった。遼はおそるおそる周りを見渡す。そこにはけっこうな数の学生達がいた。
「神崎くんの生告白かっこいい......」
「なんかドラマみたい!」
「末永くお幸せにな~~」
ヒューヒューと周りが大河と遼を盛り上げる。
「人前で神崎に好きって言わせるなんて......明日から有名人だな遼!」
にやにやと面白そうにこちらを見る佐々木。
遼は今更ながら恥ずかしさに襲われて、真っ赤に染まった。
「ち、ちが......」
(いや確かに神崎に好きだと言わせたけど!それはちゃんと名前を呼んで欲しかっただけだし。ていうか俺の方が好きだし......ってそんなことじゃなくて!)
どうにかこの場をうまく切り抜ける方法はないかと遼が考えていると。
「みんな、ありがとう」
そう言って遼の肩を抱きながら、大河がにっこりと周りに笑いかけた。まるで婚約を発表した王子が、国民の祝福に答えるような爽やかな笑顔に、その場にいた全員が感嘆の息を零す。
「おめでとうだって、嬉しいね」
「......」
大河が遼に微笑みかける。その笑顔にもちろん遼も、もれなくキュンとして。
その穏やかで幸せそうな大河の笑顔を見ていると、照れや恥ずかしさより嬉しくて甘い気持ちが心に広がっていく。
きっと明日から大騒ぎになるだろうけど。
(まあいっか)
遼の顔に大河と同じように幸せな笑顔が広がっていった。
(神崎と一緒なら大丈夫)
遼は自分を見つめる大河に微笑み返すと、その胸に甘えるようにもたれかかった。そんな遼を大河は嬉しそうに自分の腕の中に閉じ込めた。

盛り上がる教室の中。
「あの~そろそろ講義初めてもいいかな......?」
という教授の言葉は、届くことはなかった。
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