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第一章 自覚のきっかけはキス

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「............」
大河が自分を見つめているのが分かる。だけど遼は顔を上げられなかった。勝手に大河のいる方を意識してしまう、大河からは遼の反応に困っている雰囲気が伝わってきていたたまれなくなる。
思わず遼が口を開きそうになった、その時。
「ごめん!!」
大河が遼に向かって思いっきり頭を下げた。
「昨日、あんなことしちゃって......」
どうやら大河は昨日のことを謝りに来たみたいだ。遼に謝るために、こんなに息を切らせるまで走ってきて。
それを嬉しいと感じる、できることならすぐにでも許してあげたい。
けれどどんなに謝られても、この先大河と仲良くなれても、もう遼の気持ちが届くことはないんだ。
だったら、もう関わらない方がいい。
「佐々木......俺帰るわ」
「おい......!」
佐々木が止めようとするが、遼は鞄を持って立ち上がる。遼は大河の方を見ないように、前を通り過ぎようとした。
「待って......」
「っ......」
その手を大河が掴んだ。
「青木、待って......」
大河が強く遼の手を握り締める。だけど遼は振り返らない。
「お願い......」
切なげな声に、遼は大河の手をどうしても振り解けなくて、大河の方を向いてしまった。
「青木ごめんね、酔ってたとはいえあんなことして」
「.........」
やっぱり大河の顔は見れなくて、遼は俯いた。
「......俺なんかにキスされて......嫌......だったよね」
何故か大河が自分が言った言葉に自分で傷ついた様子を見せる。
(違う、神崎にキスされたのは嫌なんかじゃなかった。俺が嫌だったのはもっと別のことだ)
だけどそれを大河に言うことはできない。
「俺ね......青木のこと前から知ってたんだ」
大河の言葉に遼の肩がピクリと動く。その言葉に無意識で顔を上げると、大河が真剣な顔で遼を見つめていた。そのあまりに真摯な眼差しに、遼は目を逸らせなくなってしまう。
顔を上げた遼に、大河が嬉しそうにはにかんだ。
「前に中庭で熱中症になっちゃって、青木が助けてくれたよね」
青木は覚えてないかも知れないけど、そう大河が呟いた。
覚えてるよ、忘れる訳ない。だってあの時遼は大河に恋に落ちたんだ。
意識が朦朧としていた大河が、まさか遼を覚えていたなんて。
「あれからずっとお礼が言いたかったんだ。青木を見かけるたびいつも声をかけようとしてたんだけど、気付いたら俺が声をかけるより先にいなくなっちゃってて」
「.........」
(それは俺がお前を見ると動悸が止まらなくて逃げてたからだよ)
遼は心の中で恥ずかしくなった。
「俺、俺ね、ずっとあの時見た、は......青木の笑顔が忘れられなくて」
変な間を開けてそう言うと、大河が遼の両手を握った。
「この手で俺の事ずっと撫でてくれてたよね。はるっ......青木は本当に優しくて可愛い人だなって思ったんだ」
今度は大河が、完全に途中で何かを言いかけて止めたのが分かった。
ちょっと待てよ、そう思う遼とは裏腹に大河はギュッと強く遼の両手を握りしめた。
「俺、はるかちゃんのことが好きなんだ!」
ものすごく真剣な顔で大河は遼にそう言った。
「.........」
「だからキスしたのも軽い気持ちじゃなくて、したいと思ってたのがお酒で箍が外れちゃって」
「.........」
「はるかちゃんのこと本気だから、俺と付き......」
「ちょ、ちょっと!」
どんどん気持ちがヒートアップしていく様子の大河を遼が止めた。
「はるかちゃん?」
遼は大河に聞き返す。
「あっごめん勝手に。俺、普段心の中でそう呼んでて」
つい出ちゃった......大河が恥ずかしそうに頬を染める。その姿を遼は、目を瞬かせながら見た。
「......はるかちゃんって誰?」
「..............................」
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