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無意識に湧き上がった気持ちに、遼は信じられなくて口を押えた。
そんな遼を見て、彼が小鳥を手から空に放つ。そして遼の方を伺うように覗き込んだ。
「どうしたの?」
優しい問いかけの声に、遼は慌てて平然を装う。
「な、なんでもない」
早くここを立ち去らないと、何故か分からないが強くそう思って、遼は落とした教科書を急いで拾い上げた。
「ねえ君、名前は?」
湧き上がる気持ちに遼が戸惑っていると、彼がそう聞いてきた。
「俺は神崎大河。君は?」
「......」
早く行かないとそう思うのに、問いかけられた言葉に貼り付けられたように動けなくなる。トクントクンと先程から胸がうるさく鳴り響いていた。
問いかけられたことに、なぜか頭がボーッとしてくる。
答えかけて、でも遼は自分の名前を教えるのをためらった。
すると大河の瞳が捕えるように真っ直ぐに遼を見つめた。
大河が口を開くのが、まるでスローモーションのように見えた。
「教えて?」
「っ......」
言われた瞬間、本当に何も考えられなくなった。
本能が彼の言葉に従わなければ、いや従いたいと遼に告げる。
「青木...遼......」
「あおきりょう」
大河が確認するように遼の名前を囁く。
優しく響くその声に、遼の胸が締め付けられるほど強く高鳴った。
「教えてくれてありがとう」
伸びてきた大河の手が遼の体に触れる。
「いい子......」
「っ...、ふぁ....」
そう言って大河が遼の頭を撫でた。
瞬間、身体中に初めての感覚が走る。
喜びに似た高揚感。
体がふわっと浮遊するような心地を覚えて、思考が溶けていきそうになる。
そんな遼を大河がジッと伺うように見つめていた。
弱い力で遼が大河の服を掴む。
それがまるで大河に助けを求めているように見えて、大河はその遼の手を包み込むとギュッと握り返した。温かい手の感触に、途端に安心感が広がっていく。
頭を撫でていた大河の手が頬を優しく包み込むと親指が頬をなぞる。それにビリビリと電流が流れるような心地よさが広がって遼の瞳が蕩けた。
「ふふ、かわいい」
「あ......」
(もっと褒めてほしい......)
この手にもっと撫でられたい、この声にもっと褒められたい。
それだけが頭を支配する。
求める言葉がこぼれ落ちそうになって遼はハッとした。
(おれ、いま.......)
「ねぇ、青木......フェロモンが漏れてる。このままじゃ心配だから俺と」
「触んなっ!」
大河の言葉に遼の頭がカッとなる。遼は大河の腕を振り払った。
(ダメだ......!)
遼は立ち上がる。
(このままじゃ俺こいつに......‼︎)
そんな遼に大河が慌てた顔になった。そして遼に向かって手を伸ばす。
「あ......ごめん俺つい......無理にとかそんなつもりじゃないんだ!青木があまりにも......」
「その先は言うな!」
気を抜くと伸ばされた腕に自分から身を寄せそうで、怖くて、遼は大河に背を向ける。
「このことは誰にも言うなよ」
「青木......」
遼はそれだけ言うと歩き出す。
「青木!」
呼ばれる名前に反応しそうになって遼は耳を塞ぐ。
「待って!そんな状態で......」
大河が何かを叫んでいるようだが、遼は振り返らない。
鼓動がトクトクと音を刻む、大河に触られて温かくなった胸がもっと欲しいと叫ぶ。
(そんな俺......いやだ......!怖い......!!)
そう思う自分が怖くて、遼は大河の感覚を振り払う。
そしてその場から逃げるように走り出した。
そんな遼を見て、彼が小鳥を手から空に放つ。そして遼の方を伺うように覗き込んだ。
「どうしたの?」
優しい問いかけの声に、遼は慌てて平然を装う。
「な、なんでもない」
早くここを立ち去らないと、何故か分からないが強くそう思って、遼は落とした教科書を急いで拾い上げた。
「ねえ君、名前は?」
湧き上がる気持ちに遼が戸惑っていると、彼がそう聞いてきた。
「俺は神崎大河。君は?」
「......」
早く行かないとそう思うのに、問いかけられた言葉に貼り付けられたように動けなくなる。トクントクンと先程から胸がうるさく鳴り響いていた。
問いかけられたことに、なぜか頭がボーッとしてくる。
答えかけて、でも遼は自分の名前を教えるのをためらった。
すると大河の瞳が捕えるように真っ直ぐに遼を見つめた。
大河が口を開くのが、まるでスローモーションのように見えた。
「教えて?」
「っ......」
言われた瞬間、本当に何も考えられなくなった。
本能が彼の言葉に従わなければ、いや従いたいと遼に告げる。
「青木...遼......」
「あおきりょう」
大河が確認するように遼の名前を囁く。
優しく響くその声に、遼の胸が締め付けられるほど強く高鳴った。
「教えてくれてありがとう」
伸びてきた大河の手が遼の体に触れる。
「いい子......」
「っ...、ふぁ....」
そう言って大河が遼の頭を撫でた。
瞬間、身体中に初めての感覚が走る。
喜びに似た高揚感。
体がふわっと浮遊するような心地を覚えて、思考が溶けていきそうになる。
そんな遼を大河がジッと伺うように見つめていた。
弱い力で遼が大河の服を掴む。
それがまるで大河に助けを求めているように見えて、大河はその遼の手を包み込むとギュッと握り返した。温かい手の感触に、途端に安心感が広がっていく。
頭を撫でていた大河の手が頬を優しく包み込むと親指が頬をなぞる。それにビリビリと電流が流れるような心地よさが広がって遼の瞳が蕩けた。
「ふふ、かわいい」
「あ......」
(もっと褒めてほしい......)
この手にもっと撫でられたい、この声にもっと褒められたい。
それだけが頭を支配する。
求める言葉がこぼれ落ちそうになって遼はハッとした。
(おれ、いま.......)
「ねぇ、青木......フェロモンが漏れてる。このままじゃ心配だから俺と」
「触んなっ!」
大河の言葉に遼の頭がカッとなる。遼は大河の腕を振り払った。
(ダメだ......!)
遼は立ち上がる。
(このままじゃ俺こいつに......‼︎)
そんな遼に大河が慌てた顔になった。そして遼に向かって手を伸ばす。
「あ......ごめん俺つい......無理にとかそんなつもりじゃないんだ!青木があまりにも......」
「その先は言うな!」
気を抜くと伸ばされた腕に自分から身を寄せそうで、怖くて、遼は大河に背を向ける。
「このことは誰にも言うなよ」
「青木......」
遼はそれだけ言うと歩き出す。
「青木!」
呼ばれる名前に反応しそうになって遼は耳を塞ぐ。
「待って!そんな状態で......」
大河が何かを叫んでいるようだが、遼は振り返らない。
鼓動がトクトクと音を刻む、大河に触られて温かくなった胸がもっと欲しいと叫ぶ。
(そんな俺......いやだ......!怖い......!!)
そう思う自分が怖くて、遼は大河の感覚を振り払う。
そしてその場から逃げるように走り出した。
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