オオカミさんは子犬を愛でたい

金色葵

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「はぁ......はぁっ......」
山道を駆け登ったせいで息が切れる。休みなく走り続けているから足が限界を訴える。
(あともう少し......!)
だけど光琉は止まることなく走った。
登り切った先、視界が開ける。目の前に牧場の風景が広がって懐かしさと愛しさに襲われた。
その中に、会いたくて会いたくて堪らなかった、光琉の大好きな姿を見つけ一気に瞳が潤んだ。
近衛は牛斗を抱きしめ体を撫でていた。近衛の背中は項垂れていて、とても寂しそうだ。
「近衛先輩‼」
堪らなくなって光琉は名前を呼んだ。ピクッと近衛の肩が揺れる。
「近衛先輩――!」
叫んだ声に答えるよう、近衛が顔を上げ振り向いた。
「っ......」
光琉を見て近衛が息を飲む。
「ひかる......」
驚くようにそう呟いて、そしてすぐに光琉に向かって駆け出した。同じように光琉も近衛に向かって速度を上げる。
「光琉!」
二人の距離が近づいて、近衛が光琉に向かって両手を広げた。向けられる嬉しそうな笑顔に、光琉は迷うことなくその腕の中に飛び込んだ。
「光琉......!」
飛び込んで来た光琉を近衛が強く抱きしめる。抱えあげるように抱きしめられ、光琉の体が中に浮いて光琉は近衛にしがみついた。しっかりと光琉を支え、近衛は光琉の体に顔を埋めた。
「本物の光琉だ......会いたかった」
甘えるように鼻を擦り付ける近衛に、きゅうと胸が甘く締め付けられた。光琉も答えるように大きな体にしがみつく。
久しぶりに感じる近衛の体温はやっぱりとても温かく、それを感じるだけで心に安心が広がる。もっともっと欲しくて、光琉はぎゅうぎゅうと近衛に抱きつく。
「ふふ、かわいい......光琉も寂しかった?」
甘い声で聞かれて、うんうんと何度も頷く。そんな光琉に嬉しそうな吐息を零すと、近衛が光琉を地面に降ろした。大きな両手が頬を包み込む。
「ああ......光琉だ......今日も可愛くて......美味しそうだ」
ふにふにと感触を確かめるように優しく頬を撫でる。優しさと愛しさが溢れた瞳が、上から真っ直ぐに光琉だけを見つめていた。
「目の下クマができてる。レポート頑張ったんだな。えらいぞ」
親指が優しく目の下をなぞった。その仕草があまりに優しくて、胸がツキンと痛んだ。
いくら傷ついたとはいえ、こんな優しい人に嘘をついて避けていたなんて、光琉は胸の奥から苦しさが沸き上がるのを感じた。
「近衛せんぱい......」
目の前が滲む、語尾が震えたと思ったら、光琉の目から涙が零れ落ちた。
「光琉......!」
慌てるように近衛が息を飲んだ。その間もポロポロと涙が溢れ出す。
「どした......」
すぐに手が背中にまわされ、あやすように撫でてくれる。近衛の優しさに、光琉はキュッと口を引き結ぶと、意を決したように話し出した。
「ごめんなさい......レポートほんとはなくて......俺......先輩に嘘、ついた」
「え......?」
言いながら心がズキズキと痛む。近衛の反応が怖くて光琉は俯いた。
「俺......おれ、近衛先輩に会うのが怖くて......それで嘘ついて......ここに来ないようにして、た......」
撫でていた手が止める。気配で近衛が驚いているのが分かった。数秒の沈黙の後、背中にあった近衛の手が離れていく。
(あ......)
寂しさを感じると同時に、嘘をついていたことに呆れられたのではないかと、怖くて光琉は体をビクッと震えさせ目を閉じる。
次の瞬間、頭にふわりと優しい感触を感じる。温かいそれが、落ち着かせるように頭を撫でた。
見なくても分かる、こんな優しい感触を光琉は一つしか知らない。
おそるおそる顔を上げ目を開ける。そこにはびっくりするぐらい温かく光琉を見つめる近衛の瞳があった。
近衛の手が光琉の頭をゆっくりと撫でる。
「光琉はさ、何もないのに嘘なんかつく子じゃないだろ? きっと俺が光琉が嫌がること何かしたんだよな......ごめんな」
「近衛先輩......?」
光琉の涙を見て、近衛が自嘲気味に笑う。
「俺は光琉が受け入れてくれてるって思ってたんだけど......本当はこうやって触られるの嫌だった? 先輩だしガタイもデカいし、怖かった......よな......ごめんな......」
珍しく言葉を濁し視線を伏せると、近衛は悲しそうな表情を浮かべ光琉から手を離そうとした。
「違う!」
それを光琉は強く否定する。そして自分から近衛の体に抱きついた。
(こんな時でも自分が悪いなんて......! いつも自分で全部しようとするし......近衛先輩は優しすぎる)
「近衛先輩に触られるの嫌だなんて思ってない! むしろ嬉しいし大好き! もっともっと触って欲しい!」
「お、おう......そうかよかった」
必死にしがみつきながらそう叫ぶ光琉に、近衛が思わず頬を染める。また背中にまわされた腕に満足そうに息を吐く光琉は、そんな近衛の様子に気付いていない。
「じゃあ......何でそんな嘘ついたんだ?」
近衛が不思議そうに首を傾げる。近衛の体にしがみついて胸に顔を埋めていた光琉は、視線だけを近衛に向ける。もっと強く抱きしめて欲しいと瞳で訴えると、すぐに近衛が光琉を引き寄せてくれた。それに勇気を得て、光琉は口を開く。

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