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⑬
しおりを挟む「近衛先輩、牛乳買い忘れてる!」
「ああ、そうだった。ありがとうな光琉」
買い物のメモを見ながら声をかけると、近衛はにこにこと笑って光琉の頭を撫でた。優しい感触に自然と光琉にも笑顔が浮かぶ。
今日は駅前のスーパーに来ていた。
いつものように授業終わり、牧場に向かうと軽トラが停まっていた。
誰か来たのか?と聞くと「買い物行くけど一緒に行くか?」と聞かれ二つ返事で頷いたら、軽トラに乗るように促された。そのまま近衛の運転でふもとにある駅の方までやってきた。運転できることに驚いていると「高校卒業してすぐ免許取った」と、光琉の驚き顔を見て、近衛が嬉しそうに答えた。
どうやらこの車も大学の支給品らしい。牧場の奥を進んでいくと、門があり車道に繋がっていた。そこから街の方まで降りてくることができた。逆に動物たちのエサや牧草など専門的な品物は、大学が手配した業者がこの道を使って、街から牧場まで運んでくれるらしい。我が大学ながら、なんて上手に設計されているのだろうと光琉は感心した。多種多様の学科があるマンモス校らしい配慮の行き届いた環境に、この大学に入って正解だったな~と思う。
買ったものを袋に詰めていると、近衛が顔を近づけじっと光琉を覗き込む。
「光琉がいてくれるだけで、いつもの買い物もめちゃくちゃ楽しいな~これからも一緒に買い物したいな~」
瞳を細め、どこか甘えた口調の近衛に鼓動が跳ねる。
「っ......、............いいよ」
頬を赤く染め小さい声で返事をすると近衛は嬉しそうに破顔した。
「じゃあ帰るか」
二つある袋を両方とも持ち近衛が歩き出す。
「先輩っ俺も持つ!」
「そうか、ありがとな」
光琉に近衛が荷物を渡す。さりげなく軽い方を光琉に渡すと、空いた手で光琉の手を握った。
「あ......近衛先輩!」
恥ずかしくて咎めるように名前を呼ぶが、優しい目で見つめ返され光琉は大人しくなった。
「ふっ......ほんとかわいいな」
光琉の反応に表情を崩して愛し気に近衛が、にぎにぎと光琉の手を握る。始終甘い雰囲気の近衛に、光琉はさらに頬を赤く染めた。
「光琉、ほらこっち」
その後も、車を停めたパーキングまでの道すがら当たり前のように車道を歩き、車体の高い車の座席に座る時には体を支えてくれて、終いには運転席からシートベルトまで締めてくれた。
ここまで甘やかされていいのかと思わなくもないが、近衛の表情も態度も温かく優しくて、ついつい素直に受け入れてしまう。
ちらっと運転する近衛の横顔を盗み見る。いつもの白衣姿ではなく、暗めの青色のデニムに黒のセーターを着た近衛。ラフな着こなしが、精悍な顔の近衛の魅力をさらに引き立てている。
ハンドルを握るその姿はとても素敵で。
(近衛先輩かっこいい......)
光琉はポーッとその姿に見惚れた。
「今度レンタカーでも借りて遠出しようか?犬斗も連れてさ」
さすがに動物たち全員は無理だからさと、近衛が笑う。
「うん!」
素敵すぎるお誘いに、光琉は目を輝かせ大きく頷いた。そんな光琉を近衛はやっぱりとても愛しそうな瞳で見つめて目を細めた。
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