オオカミさんは子犬を愛でたい

金色葵

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「よーし、よし......大丈夫だからな」
光琉が牛舎に着くと、近衛は牛斗を抱きしめて体を撫でていた。穏やかな声と優しい撫で方に、牛斗は安心するように近衛に体を寄せている。その足元には牧場で飼っている犬の犬矢(もちろん近衛の命名)が引っ付いていた。他の動物たちも一応に近衛の近くに集まっている。その光景に光琉の顔に笑みが浮かんだ。
(動物たちも近衛先輩の側にいると安心するんだな......)
近衛はここにいるみんなのことをとても大事にしている。懐いている動物たちを見ると、近衛の気持ちがちゃんと伝わっているのがよく分かる。
やはり動物たちも光琉と一緒で、太陽のような近衛と一緒にいるととても安心するんだろう。
にこにことその様子を見ていると、光琉の気配に気づいた近衛が顔を上げた。
「光琉」
光琉に気付いた途端、近衛は顔を綻ばせた。
「服、持って来た......」
向けられる優しい笑みにキュンと胸がときめく。近衛は牛斗と足元にいる犬矢を一撫でして、光琉の方に歩いてきた。
「サンキュ」
光琉の手から服を受け取ると、流れるような仕草で近衛は光琉の頭を撫でた。あまりに当たり前のような自然な動作に、光琉の頬がじんわりと赤くなる。それと同時にやっぱり近衛の体温はとても光琉を安心させた。
光琉の姿を下から上にマジマジと見つめると、近衛は盛大に顔をにやけさせた。
「光琉可愛い」
「え?」
にやけた近衛を不思議に思い見上げると、近衛はデレッと口元を緩めた。
「俺の服、大きかったな」
「なっ......」
急いで牛舎にいくことしか頭になかった光琉は、言われて自分の姿を確認する。
下に履いたスウェットはだぼだぼに裾があまり、上に着たトレーナーは萌え袖を通り越して袖から手が出ていない。極めつけはオバーサイズ過ぎてずり落ちた首元から片方の肩が見えそうになっていた。
「やっべ......かわいすぎて......やばい」
にやけるのを止められないのか、近衛が手で口元を抑える。彼シャツならぬ彼スウェット状態の自分に気付いた光琉は、ぷしゅーと真っ赤になった。
「近衛先輩が大きすぎるんだろ! 別に俺が小さいわけじゃないから!」
キャンキャンと噛みつくと、近衛は相変わらずデレデレと頬を緩ませる。
「うんうんごめん。俺が大きすぎたな」
くくくと笑みを噛み殺しながら、近衛は着替えを柵にかけると、グッと光琉を引き寄せる。
後ろから光琉を抱き込むと、前に作業着の袖を直してくれた時と同じように、光琉のサイズに合わせて袖を捲ってくれた。チラッと近衛を見上げると、優しい顔で光琉を見つめ微笑み返す。見つめる瞳も、袖を捲る近衛の手も優しくて、光琉はされるまま大人しく近衛の腕の中に納まった。
(あったかい......近衛先輩に触られるの気持ちいい......)
体温と触れる手が心地よくて、思わずとろんと背中を近衛の体に預けると、近衛が笑みを零すように息を吐いた。ギュッと後ろから近衛に抱きしめられる。
「俺の服着たひかる......いつも以上においしそー」
「ふ、ぁ......」
腕の中に抱き込まれて、耳元で囁かれる。聞いたことのない低く甘い声とともに、耳に吐息がかかって光琉から思わず声が零れた。
「~~~! ちょっ先輩! 変なこと言ってる暇あったら、早く濡れた服着替えて!」
そこから熱が広がっていくのを感じて、光琉はそれを誤魔化すようにジタバタと暴れる。
「ふふ、分かったよ」
可愛いなぁと言うように目を細め、近衛は光琉を抱きしめる腕を解いた。
(なにっ......今の⁉)
光琉は耳元を押さえる。囁かれた声の余韻が耳元に残る。そこから蕩けるような甘さが体を襲って、光琉は慌ててそれを振り払うように頭を振った。
(おいしそうって! どういう意味でだよ~~⁉)
ドキドキと鼓動が激しく音を刻む。光琉は落ち着かせるように深く深呼吸をした。
近衛はいつも優しいし、光琉を手放しに甘やかしてくるが、いつもに増してなんだか雰囲気が甘い気がする。いつもより深く愛しいという顔で見つめられ、光琉はドギマギとしてしまう。
前にも美味しそうと言われたことがあったが、今のはその時と言い方も近衛の雰囲気も全然違った。初めていわれた時はただ怖いと思ったのに、今はドキドキと胸が高鳴って光琉は戸惑う。
戸惑う光琉の横で、おもむろに近衛が上着を脱ぎ捨てた。急に現れた近衛の裸体に、光琉は心の中でひぇぇと悲鳴を上げた。
(なんでいきなり脱いで! ......って着替えろって言ったの俺だった)
あんなことを言われた後に服を脱がれ、一瞬変なことを考えてしまった自分に慌てる。赤くなる頬を光琉は両手で押えた。
チラッと近衛の方に視線を走らせる。見てはいけないと思いつつも、目は勝手に近衛の方に向いてしまう。
「..................」
広い肩幅に太い腕、そこにはしっかりと筋肉がついていて、腹筋はかすかに六つに割れていた。日に焼けた肌が、精悍な顔つきの近衛の魅力をさらに引き立てている。光琉とは比べものにならないぐらい男らしいその体に、こくんと光琉の喉が鳴る。濡れて乱れた髪を頭を振って直す姿から、いつも以上に野生的な雰囲気が漂い、男の色気が醸し出されていた。濡れた髪を近衛がかき上げる。その仕草がかっこよくて光琉はポーッと近衛に見惚れてしまう。
近衛が下も脱ぎだして、慌てて光琉は目を逸らした。
(え......何これ? ドキドキが止まらない......!)
背中を近衛に向けながら、跳ね続ける鼓動を光琉は持て余す。
「光琉」
「っ......」
声が聞こえたと思ったら、体に腕が回され後ろから抱きしめられる。
「バスタオルまで持ってきてくれたんだな。ありがと」
近衛が光琉を包み込んで、光琉の頬にすりと自分の頬を寄せた。
「ほんと光琉は優しくて気が利くいい子だな。かわいい」
言葉とともにギュッと引き寄せられ、大きい体に光琉はすっぽりと包まれた。顔を横に向けると、優しい目で見つめ返される。愛し気に瞳を細められて、胸がきゅうと甘く縮んだ。
「もう......いい子って、子ども扱いしてるでしょ」
抱きしめる腕にそっと手を重ね、光琉は拗ねるように言う。甘えた声が出て自分でもびっくりするが、いつも光琉を甘やかす近衛のせいだと思う。
「へぇ......じゃあもっと大人がするようなことしていいってこと......?」
「んっ......」
耳元に唇を寄せ低い声で近衛が問いかける。抱きしめる掌が体を撫でて、光琉はふるっと体を震えさせた。
「それも......だめっ......」
微かに近衛の唇が耳元に触れて力が抜ける。光琉は近衛に背中を預けた。すぐに近衛が支えてくれる。
「耳、弱いんだな......ひかるは」
「もう......このえせんぱいっ......!」
光琉の分かりやすい反応に、近衛がわざと耳元で囁いてくる。吐息交じりに名前を呼ばれて、ぞくりと体に甘い痺れが走った。
「牛斗たちが見てるからっ......!」
「............」
ふるふると頭を振り、蕩けそうになる意識を振り払う。光琉の言葉に近衛が瞳を瞬かせた。
「ふっ......、そうだな、みんな見てるな」
可愛らしい言葉に、近衛は吹き出すと口元を抑える。そのまま楽しそうに笑うと、光琉を抱きしめる腕を解いた。
解放されて光琉はホッと胸を撫でおろす。二人の間に流れる空気がいつもより甘い。近衛の雰囲気もどこかいつもと違って、安心するはずの近衛の体温に触れるとドキドキが止まらない。
ずっと熱を持つ頬と体を持て余し、そんな自分に光琉は戸惑う。
「牛斗たちが心配だから、今日はここで夜を明かそうと思ってたんだけど......」
そんな光琉を気にすることなく、事前に準備していたようで近衛が毛布と荷物を運んでくる。キャンプ用の焚火台まである準備のよさに光琉は眉を寄せた。
(ほんとに全部一人で台風に備えるつもりだったんだな)
唇を尖らせあからさまに不機嫌そうになる光琉に、近衛は嬉しそうに笑った。
「一緒に動物たち守ってくれるか?」
「っ! うん!」
近衛の言葉に、光琉は大きく頷いた。

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