オオカミさんは子犬を愛でたい

金色葵

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「あー疲れた!」
ぐったりと遼が椅子に座る。
「ここまでくるのめちゃくちゃ大変だったんだけど。軽い登山じゃん」
「確かに、勾配が10から15パーセントぐらいはあったね」
「いや、パーセントとか言われても分かんねーし。お前全然しんどくなさそうだな」
「確かに......なんでだろ?」
「お前って......つくづくチートだよな」
にこにこと笑顔の大河に遼が呆れと感心が混じったつっこみを入れる。光琉は二人にキッチンで入れてきた麦茶を差し出した。
「さんきゅ」
礼を言うと遼はグラスの麦茶を一気に飲み干す。
「生き返る~~」
そうとう坂道がきつかったのか、しみじみといった風に遼は息を吐いた。
「慣れない人には、あの道は大変ですよね」
都会にはほぼ坂がない。遼は見るからに都会育ちだろうし、かなりきつかったようだ。
「慣れないって......犬飼は平気なのか? 道っていうよりも、もはや山だぞあれ」
「俺田舎育ちなんで、近くに山も川もあるし。あのぐらい平気です」
「そうか犬飼の実家、牧場兼農場だもんな。すごく広そう......もしかしてその山も犬飼んちとか?」
ハハッと遼が笑う。光琉はぱちくりと目を瞬かせた。
「何で分かったんですか?」
「え......マジ?」
光琉の返答に、何故か遼から驚きの声が漏れた。
「冗談のつもりだったんだけど......お前んちめちゃくちゃ立派なんだな」
「へへっ、ありがとうございます。自然しかないですけどね」
自分の愛する実家を褒められて、光琉は嬉しくて笑顔になる。
「猫顔、お前はこれも飲んどけ」
そこに近衛がやってきて、遼の前にコップをもう一つ置く。
「なんだよこれ!」
途端に警戒心をあらわにする遼に、近衛は苦笑を零した。
「ただの経口補水液だ。夏じゃないとはいえ熱中症対策、念のためにな」
ポンと遼の頭に手をのせてから、近衛は光琉の横に座った。
「........................ありがと」
かなりを間を開け、迷った結果、遼は素直にお礼を口にした。
「お、おお......」
遼からの感謝の言葉に、困るよう近衛はぶっきらぼうに返事を返す。どこか微妙な空気が流れているのを感じて、光琉はにこにこと二人のやりとりを見つめる大河に顔を寄せた。
「......青木先輩と近衛先輩って仲悪いんですか?」
普段優しい遼が、やたらと近衛には噛みついている気がするし、近衛も光琉に対する時と態度が全然違う。
「ううん、大丈夫だよ。遼は慣れない相手には警戒心が強いし、近衛はツンツンされるとどうしたらいいか分からなくて困ってるだけだから。俺は二人似た者同士だと思ってるんだけどね」
「ああ......なるほど......」
そう言われるとしっくりくる。口は悪いが優しくて世話焼きの遼と、見た目は怖いが同じく優しくて面倒見のいい近衛。とても似た者同士なのに、似すぎるとそれはそれで打ち解けるのに時間がかかるものらしい。光琉は納得する。
「で、近衛はどう?優しいでしょ?」
声を潜めてこっそりと大河に聞かれ、大きく頷いた。
「めちゃくちゃ優しいです。神崎先輩の言った通りでした」
「ね、心配いらなかったでしょ?」
「はい!」
友人を褒められて、大河は嬉しそうだ。最初に不安になっていたことなんて、忘れてしまいそうなぐらい近衛はとても優しい。光琉のペースに合わせて勉強も進めてくれるし、困っているとすぐに助けてくれる。
なんだかんだで、まだ出会ってそれほど時間が経っていないのに、近衛にすっかり懐いている自分を光琉は感じていた
(それに......近衛先輩ってあったかいんだよなぁ.....)
実際に体温も人より高めだと思うが、それだけじゃなく近衛のすべてが温かい。
光琉は近衛と一緒にいると安心感を感じるようになっていた。まるで牧草の上に寝転がって、ポカポカと温かい太陽に照らされ、まどろんでいるような心地よさが近衛の側にはある。
居心地がよくて、光琉はすっかり時間があると、ここにくるようになっていた。
そっと近衛の方を見ると、どこかジトッとした目でこちらを見つめていた。
「近衛せんぱ......」
「光琉、もっとこっちおいで」
どうしたんだろうと思ったら、いきなりグイッと引っ張られた。あっという間に近衛の腕の中に引き込まれる。
「大河、近すぎ。光琉が可愛いからって、ちょっかい出すなよ」
そう言って、まるでマーキングするように、近衛は抱きしめた光琉の髪の毛に頬をすりすりと寄せた。
「ちょっ、近衛先輩! 髪の毛ぐしゃぐしゃになるから......!」
髪の毛は気にするが、光琉は近衛の腕から抜け出そうとはしない。
その様子に、驚くように遼と大河は目を合わせた。
「まあでも、犬飼って確かに可愛いよな。子犬みたいで構いたくなるっていうか」
どことなく甘い雰囲気が漂う二人に、首を傾げながら遼が言うと、近衛が笑顔になった。
「そうそう光琉は小さくて可愛い豆柴だよな~」
よしよしと光琉を撫でて、近衛が上から光琉を覗き込む。相変わらず愛しさのこもったその瞳に、光琉は照れてしまう。それを隠すようにぷうと頬を膨らませた。
「だから~小さいって言うな!」
「ふっ、すまんすまん。あーもーほんと可愛いなぁ~光琉は」
光琉を後ろから抱きすくめ、膨らました頬に近衛がデレデレと目尻を下げる。それでもやはり、光琉は近衛の腕の中から出ようとはしない。
光琉の様子に、遼は目を白黒させた。
「豆柴って......近衛が一番好きな子だ......」
「えぇ......まさか......いつの間にかそういうことに......」
「そうみたいだね」
甘さの漂う二人に、驚きの声を上げる遼に、大河はうんと頷いた。

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