オオカミさんは子犬を愛でたい

金色葵

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「何でこんな山の上にあるんだよ......あっ! あれ、犬飼じゃないかって......あいつ~~!」
「ちょ......遼、邪魔したらだめだって......」
その時、不意に牛舎の入り口から声が聞こえた。ハッとして光琉は近衛の胸から顔を上げる。
「こら! このガサツ大男~~お前犬飼に何してんだよ!」
「青木先輩......!」
そこには肩で息をしながら、瞳を尖らせてこちらを見る遼と、それを宥める大河が立っていた。
「何って? 可愛いから抱きしめてるだけだ。見て分からないのかこのツンツン猫顔」
めんどくさい奴がきたと言うように溜息を吐いた後、近衛は悪びれもせずにそう告げる。
「はぁぁ~~!」
売り言葉に買い言葉を返され遼は更に目を尖らせた。
目の前でバチバチと火花を散らす二人に驚きながら、光琉は自分の状況を思い出す。
光琉は今、近衛の腕の中に抱きしめられている。それを人に見られるなんて。気づいた光琉は一瞬で真っ赤になった。
「こ、近衛先輩」
光琉は離してと近衛に目で訴える。だけど離れたくないのか、近衛は全然腕を緩めてくれない。
「近衛先輩!」
もう一度、今度は強く名前を呼ぶと、近衛はしぶしぶというように光琉を解放した。
「青木先輩......! どうしたんですか?」
光琉は遼に向かって走って行く。駆け寄ってきた光琉の頭を遼はよしよしと撫でた。
「犬飼が心配で様子を見に来たんだ。あんなガサツで失礼な奴と一緒でつらくないか? 大丈夫か?」
「がさつ......しつれい............?」
一瞬、誰のことを言っているのか分からなくて、頭の中にハテナマークが浮かぶ。でもすぐに近衛のことかと思い直した。
近衛は教え方も丁寧だし、とても優しい。遼がどこら辺を指して言っているのか分からないが、きっとここにくる前に相談をしたから、気にかけてくれていたんだろう。
近衛もだが、遼もとても優しい人なのだ。
「大丈夫ですよ。近衛先輩すごくよくしてくれてるし! わざわざありがとうございます!」
自然と光琉の顔に笑顔が浮かぶ。
そんな光琉に遼は目を瞬かせ、近衛の方にうろんな瞳を向けた。
「お前......騙されてるんじゃないか?」
「えぇ......?」
「あーはいはい」
遼の態度に光琉は戸惑った声を出した。すると近衛が頭の後ろを掻きながら近づいてくる。
光琉の腰に腕をまわすと、頭を撫でる遼の手から奪うように引き寄せた。
「毛、逆立ててシャーシャーうるさいんだよ。そんな警戒しなくても、ちゃんと仲良くやってるぜ」
なぁ?と近衛はこちらを見て首を傾げる。
「ちょっ、もう人前では引っ付かないで!」
「ふふ、分かったよ」
無意識で人前ではと言う光琉に、気を良くするように優しく瞳を溶けさせ、頭を撫でてから近衛は体を離した。
「ちょうどいい、休憩するか」
額に汗を浮かべている遼を見やりながら、近衛は住居のある研修室の方に歩き出した。
「ほら猫顔、大河いくぞ。光琉、おいで」
最後に光琉に優しい声をかけて近衛が手を伸ばしてくる。
「............」
近衛の方に歩いていくと、ギュッと手を握られた。
「迷ったらいけないからな」
上から覗き込むように言って、近衛が口元を綻ばせた。
「......すぐそこなんだから迷わないし」
言いながらも光琉は手を振り解かない。素直に近衛の横に並んで歩き出した。
「なんだ......あれ......」
その姿を、遼が信じられないという表情で見つめる。思っていることがすぐに顔に出る分かりやすい遼に、大河はふっと笑みを零した。
「俺たちも行こ?」
視線を合わせて大河が微笑むと、遼はぽわっと赤く頬を染めた。
「おお......」
遼は赤くなった顔を隠しそっぽを向いて返事を返す。大河が手をつなぐと、何の抵抗もなく、すぐに遼は指を絡めて握り返した。そのまま大河と手を繋いで、近衛たちの後をついていく。
まるでそれが自然だというような遼の姿に、大河は整った容貌に浮かべていた笑みをさらに深めた。

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