オオカミさんは子犬を愛でたい

金色葵

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「オオカミ......!」
(名前までそんな食べそうな名前‼)
近衛の野生的な雰囲気に光琉はヒェェッと心の中で叫び声を上げた。
「おおがみ、だ。けど、オオカミってのも悪くねえな」
怯える光琉に近衛が目を細める。
(だから!美味しそ~みたいな目で見るな!)
にこにこと上機嫌な近衛に、本能的な危機感が込み上げた。
「俺が狼ならお前は芝犬だな!それも小さくて可愛い豆柴だ!」
嬉しそうに言い放つと、近衛はなでなでと光琉の頭を撫でる。
「俺の一番好きなやつだ」
(いや何の動物が一番好きかなんて知らないし!ていうか...ま、まめしばぁ~~)
光琉は眉を寄せた。ただでさえ小さい豆柴に、さらに『小さい』をつけるなんて。
確かに光琉は身長が小さい。平均より少し、いやだいぶ小さい。その上昔から鍛えても筋肉が付きにくく、いっぱい食べても太らない体質なので体形も細い方だ。きっとこの目の前にいる光琉より一回りも二回りも大きい男なら、軽々と持ち上げられるかもしれない。
(それ俺のサイズ感を見て言ってるだろぉぉぉ)
光琉は瞳を尖らせた。
「昼寝も終わったし。初日のオリエンテーションでもするか」
光琉の頭をひとしきり撫でて満足したのか、最後にポンと優しく叩くと近衛は立ち上がった。
「光琉」
「............」
当たり前のように下の名前を呼ばれドキッとする。立ち上がりやすいように光琉に向かって手を差し出す。その手をドギマギしながら握ると近衛がグイッと引っ張った。
「わわっ......」
その力が強くて立ち上がった光琉はよろけ、そのままポスンと近衛の腕の中に納まった。
すぐに近衛の長い腕が光琉を支えるように体に回される。
「ほらやっぱり小さくて可愛いだろ」
「っ~~~」
すっぽりと近衛の腕の中に納まった光琉に、可愛いなぁと思っているのも隠しもせず、切れ長の綺麗な瞳を近衛はにやけさせた。
回した腕でギュッと自分を引き寄せ抱きしめる近衛の腕の中で、光琉はムカつきと恥ずかしさと、そして高鳴る胸の鼓動を抱えながら真っ赤に染まった。

こうして光琉の研修は幕を開けた。



 * * *



「可愛いな光琉。抱きしめてもいいか?」
「すでに抱きしめてから聞くな!」
光琉を腕の中に抱きしめそう聞いてくる近衛に、光琉は噛みつくように叫んだ。
今日の研修は実際の牛で体調チェックの仕方を教えてもらう。その前に牛舎の掃除をかってでた光琉は作業着に着替えていた。その姿を見て近衛は顔をにやけさせると光琉を抱きしめたのだ。
大きいとは思っていたが、近衛の身長はどうやら190㎝以上あるらしく、小さい光琉は大きな体に埋もれるようにすっぽりと包み込まれる。
「ちょっ......!」
返事をする前に勝手に抱きしめられジタバタと暴れるが、目が合った近衛に優しく微笑まれて光琉はピタリと動きを止めた。
(その......可愛いなって目で見るのやめろ‼)
暴れる光琉も可愛いと思っているのを隠しもしない近衛の表情に頬がじわっと熱くなる。あっという間に光琉は大人しくなってしまった。
すると近衛に腕を取られる。
「ちょっと大きいな。袖捲ってやるからジッとして」
袖から半分しか出ていない光琉の手を見てそう言うと、近衛は後ろから光琉を抱きしめ直した。
そして作業着の袖を丁寧に捲ってくれる。
「............」
背中に温かい体温が触れた。
大きな体に包み込まれ、その温もりに無意識で光琉は近衛の体に背中を預けてしまう。気付いた近衛がフッと笑みを零した。
「ほら!できた」
仕上げとばかりに光琉の頭を撫でて、上から近衛が覗き込む。
「あ、りがとうございます......」
優しい目に、赤くなる頬を隠して光琉が律儀に礼を言う。
「ん」
大きく頭を撫ぜてから近衛は体を離した。
「準備できたな」
「うん」
赤くなる光琉とは裏腹に、近衛は至極楽しそうに外に向かう。
納まらない頬の熱を抱えながら光琉は近衛の背中をジッと見つめた。

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