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③
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体が何かに包まれている。温かくてなんだかいい匂いがする、陽だまりのようなその香り。触れる温もりが心地よくて、光琉はもっととそれに顔を埋めた。
「ん......、......め、どした......?」
声が聞こえたと思ったら、その温もりが強く光琉を引き寄せた。逞しい腕が光琉の背中に回される。大きな掌が背中を撫でて、光琉は心地よくてほうと息を吐いた。
あまりに心地よくて自分から体を寄せると、嬉しそうな吐息を零して、その手がギュッと光琉を抱きしめた。
(あれ....おれ抱きしめられてる......?)
そうかこの心地のいい温もりは人間のものだったのだ。すっぽりと光琉を包み込むその体に、安心感が沸き上がって、光琉はまたまどろみの中に戻っていこうとして、ハッとした。
(抱きしめられてる?って誰に⁉)
光琉は飛び起きる、そして息を飲んだ。
光琉の横には、ゆうに180cmは超えているだろうことが一目で分かる、がたいのいい男が横たわっていた。
まるで添い寝をするように、起き上がった光琉の体に彼の腕が回されていた。
「え......えっ?ええっっ⁉」
状況が分からず光琉は慌てる。
確か自分は動物の医療知識を学ぶため、研修の担当がいるという『実習用牧場』にきていたはず。
それがどうなってこんな大きな男性と添い寝をすることになったのだろうか。
半ばパニックになりながら光琉は状況を整理する。
「えっと......牛男に抱きついて......それで芝生に寝転がって気持ちよくて......ああ俺寝ちゃったのか!」
光琉はポンと手を叩く。
(って!そこからどうやったらこんな状況になるんだよ‼)
光琉はマジマジと横にいる男性を見つめた。センターで分けられ、後ろに流れるようにセットされた長めの前髪が、横になっていることで顔にかかっている。そして目を閉じているのではっきりとした表情は分からないが、それでも彼の顔が整っていることが分かった。
髪と同じ綺麗な漆黒の長い睫が瞼の下に影を作り、彫の深い鼻梁は鼻先までとても形がいい。顔のラインもシャープで精悍な印象を放ち、肘までまくり上げた白衣から見える腕は日に焼けていて、そしてとても逞しかった。
堂々としたその男らしい姿は、どこか野生の動物のような雰囲気を醸し出している。
トクンと光琉の胸が跳ねた。そんな自分に光琉は戸惑う。
彼が何故光琉のことを抱きしめて、その上横で添い寝することになったのか。
考えても分かるわけがなくて光琉が動けずにいると。
「ん.........まめ......?」
ピクンと瞼を揺らし、目の前の彼がそっと瞳を開けた。
(う、わ............)
顔を上げた彼と、真正面から目が合う。
意志の強い瞳が真っ直ぐに光琉を見つめた。目を開けた彼は、眠っている時が非ではないくらい精悍で綺麗に整った顔立ちをしていた。
「ふわぁ~~いけね、お前があまりに気持ちよさそうに寝てるから釣られて俺も一緒に寝っちゃったわ」
大きなあくびをすると、彼が光琉を見てカラカラと笑う。
「はぁ......一緒に......」
まあ釣られるのは分かる。それがどうなったら寝てる光琉を抱きしめ、添い寝状態になるのだろうか。
「よく眠れたか?」
彼が光琉の頭を撫でた。大きい手が優しく触れる。
ん?と微笑みかけられ、ドキッと鼓動が高鳴った。光琉は慌ててその手を振り払う。
「あっあなた誰ですか?なんで俺の横で寝て.....俺のことだ、抱きっ抱きしめてましたよね!」
思い出して光琉は思わず赤くなる。
「ふふ、急にキャンキャン吠えてどうした?」
慌てる光琉に反して、彼は動じることもなく、その上また光琉の頭を撫でてくる。
「ちょっ.........」
何なのかよく分からないまま、でも撫でる手の感触が心地よくて光琉は大人しくなってしまった。
すると彼がとても嬉しそうに微笑んだ。
「かわいいな」
「なっ!」
愛し気に瞳を細める目の前の男に、光琉は我慢できずに真っ赤になる。
「お前...美味しそうだな......」
だけど、次に呟かれた彼の言葉に、光琉は凍り付いた。
そう言って彼が瞳を細める。
視線が光琉の全身を下から上に這う。狙いを定めるように、彼の瞳の奥がキラリと光った。
まるで獲物を品定めするような肉食獣の瞳。それに体が無意識でフルッと震える。
「俺は狼上近衛だ。今回の研修の担当をすることになってる」
「え......」
「お前は......名前何だったっけ?」
「犬塚光琉です......」
答えた光琉に、近衛はニッと快活な笑顔を浮かべた。
「ひかる、か。名前もかわいいな」
「..................」
嬉しそうに瞳を細め、光琉の頭を撫で続ける近衛。まるでとてもおいしい御馳走が手に入ったというように、今にも舌舐めずりしそうな彼に光琉は後ずさる。
(この人が今回の研修の担当者~~!ていうか...かわいいって何?それに美味しそうって......?お、俺!食べられちゃうの⁉)
距離を詰めてくる近衛に、光琉はただただ怯えることしかできなかった。
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