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光琉は道を歩いていた、いや登っていた。
「敷地内にこんな場所あったんだな~」
緑に囲まれた山道を登りながら、光琉は周りを見渡す。
今日は例の研修初日。研修場所に指定されたのは『実習用牧場』というところだった。
牧場?と不思議に思いながら、渡された地図を見たら校舎の奥の奥の更に奥、山の絵が書かれているところに実習用牧場と書かれてありそこに丸がされていた。
『まあ一部の人しか使用しないから知らなくても仕方ないね~』と、今回の話を通してくれた教授は呑気に笑っていた。
その山道はかなりの勾配があった。大抵の人なら数分歩いただけで音を上げるような道を、光琉は今にもスキップしだしそうな勢いで歩いていた。
見渡す限りの緑、うっそうと茂る木々たち、今にも野生の動物が飛び出してきそうな雰囲気は慣れない人間なら怖さを感じるレベルだろう。だけど。
(こんな場所があるなら早く知りたかった~~~)
キラキラと瞳を輝かせ、光琉は心の中で喜びの声を上げた。
光琉は田舎育ちで自然がとても好きだった。こっちに出てきてから自然と触れ合う機会が全くなく、毎晩実家の広大な景色を思い出してはホームシックに襲われていた身としては、思いもかけず出会えた自然にテンションが上がる。
そして坂道を登り切った先、そこには夢のような光景が広がっていた。
「わぁ......!」
目の前に広がったのは、光琉が昔から慣れ親しんでいる牧場だった。
光琉の実家に比べたらかなり小規模だが、それでも立派な牧場だった。その中に動く物を見つけて光琉はたまらず駆け出した。
「牛だーー‼」
そこには二頭の牛がいて、のんびりした様子で牧草を食べていた。
懐かしい光景に光琉は思わず牛に抱きつく。抱きついた光琉に、牛は少し身じろいだが構くことなく食事を続けていた。
「ああ......会いたかった!牛男~~」
初めて会った牛に抱きつき光琉はすりすりと頬ずりをする。牛男とは光琉の実家で飼っている牛の名前である。名付け親は光琉の父親だった。ちなみに他の動物も一様に同じような名前が付いている。
「はぁ......この感触......安心する」
生温かい牛肌を堪能し、うっとりと瞳をとろけさせていると。
「ワンワンッワン!」
どこから現れたのか犬が駆けてきて光琉の周りを元気に走り回る。するとその騒がしさに釣られたのか、どこからかコケコッコーと鶏の鳴く声も聞こえた。
「っ............」
既視感のある懐かしい光景に光琉は感動に襲われる。
自然の匂い、騒がしい動物たちの声。顔を上げれば、広がる緑と青い空。
光琉は数歩歩くと牧草の上にゴロンと寝転んだ。そして大きく息を吸い込む。緑特有の匂いと新鮮な空気が胸いっぱいに広る。
目を閉じれば実家の大自然が浮かんで、光琉の全身が安心に包まれる。
「さいこう~~!」
心の底からそう叫んで、光琉は体から力を抜いた。
光琉は道を歩いていた、いや登っていた。
「敷地内にこんな場所あったんだな~」
緑に囲まれた山道を登りながら、光琉は周りを見渡す。
今日は例の研修初日。研修場所に指定されたのは『実習用牧場』というところだった。
牧場?と不思議に思いながら、渡された地図を見たら校舎の奥の奥の更に奥、山の絵が書かれているところに実習用牧場と書かれてありそこに丸がされていた。
『まあ一部の人しか使用しないから知らなくても仕方ないね~』と、今回の話を通してくれた教授は呑気に笑っていた。
その山道はかなりの勾配があった。大抵の人なら数分歩いただけで音を上げるような道を、光琉は今にもスキップしだしそうな勢いで歩いていた。
見渡す限りの緑、うっそうと茂る木々たち、今にも野生の動物が飛び出してきそうな雰囲気は慣れない人間なら怖さを感じるレベルだろう。だけど。
(こんな場所があるなら早く知りたかった~~~)
キラキラと瞳を輝かせ、光琉は心の中で喜びの声を上げた。
光琉は田舎育ちで自然がとても好きだった。こっちに出てきてから自然と触れ合う機会が全くなく、毎晩実家の広大な景色を思い出してはホームシックに襲われていた身としては、思いもかけず出会えた自然にテンションが上がる。
そして坂道を登り切った先、そこには夢のような光景が広がっていた。
「わぁ......!」
目の前に広がったのは、光琉が昔から慣れ親しんでいる牧場だった。
光琉の実家に比べたらかなり小規模だが、それでも立派な牧場だった。その中に動く物を見つけて光琉はたまらず駆け出した。
「牛だーー‼」
そこには二頭の牛がいて、のんびりした様子で牧草を食べていた。
懐かしい光景に光琉は思わず牛に抱きつく。抱きついた光琉に、牛は少し身じろいだが構くことなく食事を続けていた。
「ああ......会いたかった!牛男~~」
初めて会った牛に抱きつき光琉はすりすりと頬ずりをする。牛男とは光琉の実家で飼っている牛の名前である。名付け親は光琉の父親だった。ちなみに他の動物も一様に同じような名前が付いている。
「はぁ......この感触......安心する」
生温かい牛肌を堪能し、うっとりと瞳をとろけさせていると。
「ワンワンッワン!」
どこから現れたのか犬が駆けてきて光琉の周りを元気に走り回る。するとその騒がしさに釣られたのか、どこからかコケコッコーと鶏の鳴く声も聞こえた。
「っ............」
既視感のある懐かしい光景に光琉は感動に襲われる。
自然の匂い、騒がしい動物たちの声。顔を上げれば、広がる緑と青い空。
光琉は数歩歩くと牧草の上にゴロンと寝転んだ。そして大きく息を吸い込む。緑特有の匂いと新鮮な空気が胸いっぱいに広る。
目を閉じれば実家の大自然が浮かんで、光琉の全身が安心に包まれる。
「さいこう~~!」
心の底からそう叫んで、光琉は体から力を抜いた。
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