69 / 136
第二部 二章
第十三話 飲んだ後始末
しおりを挟む
※ 丁度いい文字数で切れなかったので今日は少し短めです。
―――――――――
「二人とも大丈夫?」
「……」「……」
アヤメはパークスとアベルに声をかけるが、反応が薄い。
「ぐー」
「ミーミル様、着きましたよ」
レガリアに背負われたミーミルは完全に寝ている。
アヤメ達はどうにかパークスの家まで到着していた。
動かない大人三人をどうやって子供一人と大人一人で運ぶのか。
悩むアヤメに答えを出してくれたのは、意外にもバーのマスターであった。
「表に馬車を手配してあります。そちらへどうぞ」
普通に馬車を使えばよかったのである。
この世界にはタクシーが存在しないという先入観に囚われていた。
タクシーの代わりを用意すればいいだけの事であった。
しかも女性店員が店の外まで運ぶのを手伝ってくれたのである。
あの地下への階段を手伝い無く、レガリアとアヤメだけで何度も往復するのは、相当の骨だったに違いない。
「あのマスターさん、よく気が利くね。料理も美味しかった」
「あの人は実は、昔ジェイド家の厨房で働いていた人でしてね。今は独立して食堂をしているのです。昼に行けば様々な料理を出してくれますよ。あの地下への階段から人がはみ出るくらいの行列が出来る人気店です」
「そんなに! あんまりお客さんいなかったから、知られてない店なのかなって思ってた」
「昼は看板を出していますが、夜は看板を出していませんからね。見た目は閉店していますが、知る人ぞ知る隠れ家的なバーに変わるのですよ。私やパークス、アベル殿のような面倒な地位にいる人間の為の店ですね」
「はー、なんか凄いね」
芸能人は外食しても落ち着いて食事なんかできないのだろう……と思っていたが、きっと有名な人は誰にも邪魔されない店を知っているのだ。
そしてそういう人の為にある店も、どこかに存在しているのだろう。
余り普段は思わないが、そう考えるとアベルとパークスも本当はすごい人間なのかもしれない、とアヤメは思った。
ただ家の壁を背にして、ぐったりと横たわる様子からは、とてもそう見えないが。
「ほら、立って」
アヤメは二人の手をぐーっと引っ張って起こそうとする。
「……申し訳……ぐっ」「申し訳……ありません」
閃皇に――しかも幼女にこう言われては立たない訳にはいかない。
二人は気力を振り絞りどうにか立ち上がる。
アベルはややふらつきながら立つ。
だがパークスは壁に手をついていた。
どうやらまだ地面が柔らかいようだ。
「とりあえずアベルとパークスは何とかなりそうですね。ミーミル様は、部屋まで私が運んでいくのでご安心下さい」
「……」
アヤメはレガリアを疑惑の眼差しで見る。
「酒に酔った女性に手を出す程、私は下種ではありませんよ。何より皇帝に手を出せば、首が飛ぶどころでは済みませんし」
「でも自分の家に運ぶつもりだったでしょう」
「気のせいです」
「アベル、ちょっとレガリアと一緒にミーミル運んであげて」
パークスに比べると、まだしっかりしているアベルに指示する。
「分かりました……レガリア様、ミーミル様を降ろして下さい。二人で肩を支えて連れていきましょう」
「そうか……そうだな……」
レガリアはとても名残惜しそうにしながら、ミーミルを背中から降ろす。
「胸の感触を味わえるのもここまでか」
「何て?」
「何でもありませんよアヤメ様。さあ、アベル殿、二人で肩を持つぞ」
「分かりました……」
ミーミルはアベルとレガリアに連れられ、家の中へと入って行く。
物凄く不安なので、後でちゃんと様子を見に行こう。
アヤメはその後姿を見送ると、パークスに話しかける。
「歩ける?」
「何か支えがあれば……申し訳……申し訳ありま……うっ」
「んー、じゃあ私が手を持てば行けそう?」
アヤメはパークスの手を取る。
身長は足りないがパワーだけならあるので、体重をかけられた所でビクともしない。
杖の代わりくらいにはなるはずだ。
「そんな恐れ多い」
「お金ない時に終電逃して、一駅ミーミル背負って歩いたのに比べたら全然余裕だから」
「シュ……シュウ、デン?」
「あー、ええと。昔は馬車の事をそういう風に呼ぶこともあったような無かったような」
アヤメは適当に誤魔化す。
「なるほど……凄いですね」
恐らく何も分かっていないだろうが、パークスは納得したように頷いていた。
酔っ払いは、こういう所だけは扱いやすくていい。
「さ、歩くよー」
「は――はい」
パークスはアヤメを支えに、どうにかこうにか家へと歩き始めた。
―――――――――
「二人とも大丈夫?」
「……」「……」
アヤメはパークスとアベルに声をかけるが、反応が薄い。
「ぐー」
「ミーミル様、着きましたよ」
レガリアに背負われたミーミルは完全に寝ている。
アヤメ達はどうにかパークスの家まで到着していた。
動かない大人三人をどうやって子供一人と大人一人で運ぶのか。
悩むアヤメに答えを出してくれたのは、意外にもバーのマスターであった。
「表に馬車を手配してあります。そちらへどうぞ」
普通に馬車を使えばよかったのである。
この世界にはタクシーが存在しないという先入観に囚われていた。
タクシーの代わりを用意すればいいだけの事であった。
しかも女性店員が店の外まで運ぶのを手伝ってくれたのである。
あの地下への階段を手伝い無く、レガリアとアヤメだけで何度も往復するのは、相当の骨だったに違いない。
「あのマスターさん、よく気が利くね。料理も美味しかった」
「あの人は実は、昔ジェイド家の厨房で働いていた人でしてね。今は独立して食堂をしているのです。昼に行けば様々な料理を出してくれますよ。あの地下への階段から人がはみ出るくらいの行列が出来る人気店です」
「そんなに! あんまりお客さんいなかったから、知られてない店なのかなって思ってた」
「昼は看板を出していますが、夜は看板を出していませんからね。見た目は閉店していますが、知る人ぞ知る隠れ家的なバーに変わるのですよ。私やパークス、アベル殿のような面倒な地位にいる人間の為の店ですね」
「はー、なんか凄いね」
芸能人は外食しても落ち着いて食事なんかできないのだろう……と思っていたが、きっと有名な人は誰にも邪魔されない店を知っているのだ。
そしてそういう人の為にある店も、どこかに存在しているのだろう。
余り普段は思わないが、そう考えるとアベルとパークスも本当はすごい人間なのかもしれない、とアヤメは思った。
ただ家の壁を背にして、ぐったりと横たわる様子からは、とてもそう見えないが。
「ほら、立って」
アヤメは二人の手をぐーっと引っ張って起こそうとする。
「……申し訳……ぐっ」「申し訳……ありません」
閃皇に――しかも幼女にこう言われては立たない訳にはいかない。
二人は気力を振り絞りどうにか立ち上がる。
アベルはややふらつきながら立つ。
だがパークスは壁に手をついていた。
どうやらまだ地面が柔らかいようだ。
「とりあえずアベルとパークスは何とかなりそうですね。ミーミル様は、部屋まで私が運んでいくのでご安心下さい」
「……」
アヤメはレガリアを疑惑の眼差しで見る。
「酒に酔った女性に手を出す程、私は下種ではありませんよ。何より皇帝に手を出せば、首が飛ぶどころでは済みませんし」
「でも自分の家に運ぶつもりだったでしょう」
「気のせいです」
「アベル、ちょっとレガリアと一緒にミーミル運んであげて」
パークスに比べると、まだしっかりしているアベルに指示する。
「分かりました……レガリア様、ミーミル様を降ろして下さい。二人で肩を支えて連れていきましょう」
「そうか……そうだな……」
レガリアはとても名残惜しそうにしながら、ミーミルを背中から降ろす。
「胸の感触を味わえるのもここまでか」
「何て?」
「何でもありませんよアヤメ様。さあ、アベル殿、二人で肩を持つぞ」
「分かりました……」
ミーミルはアベルとレガリアに連れられ、家の中へと入って行く。
物凄く不安なので、後でちゃんと様子を見に行こう。
アヤメはその後姿を見送ると、パークスに話しかける。
「歩ける?」
「何か支えがあれば……申し訳……申し訳ありま……うっ」
「んー、じゃあ私が手を持てば行けそう?」
アヤメはパークスの手を取る。
身長は足りないがパワーだけならあるので、体重をかけられた所でビクともしない。
杖の代わりくらいにはなるはずだ。
「そんな恐れ多い」
「お金ない時に終電逃して、一駅ミーミル背負って歩いたのに比べたら全然余裕だから」
「シュ……シュウ、デン?」
「あー、ええと。昔は馬車の事をそういう風に呼ぶこともあったような無かったような」
アヤメは適当に誤魔化す。
「なるほど……凄いですね」
恐らく何も分かっていないだろうが、パークスは納得したように頷いていた。
酔っ払いは、こういう所だけは扱いやすくていい。
「さ、歩くよー」
「は――はい」
パークスはアヤメを支えに、どうにかこうにか家へと歩き始めた。
0
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
死んだと思ったら異世界に
トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。
祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。
だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。
そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。
その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。
20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。
「取り敢えず、この世界を楽しもうか」
この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~
SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。
物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。
4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。
そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。
現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。
異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。
けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて……
お読みいただきありがとうございます。
のんびり不定期更新です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる