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第二部 一章
第四話 猫が稽古をつける
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「よろしくお願いします」
「……」
無言だった。
ミーミルはもう一度、挨拶してみる。
「よろしくお願いします?」
「よ、よろ、しく、お願いします!」
パークスの部下が叫ぶ。
声がジェイド家専用の練習所内に響き渡る。
「アベル殿」
「何でしょうか。パークス様」
「どうしてあんな事になってしまっているのですか」
パークスは震える指でミーミルを指差す。
そこにはいつも通りに裸同然のミーミルがいた。
「これにはとても深い訳がありまして」
スパァン!
アベルの言葉を遮るかのように、破裂音が鳴り響く。
パークスの部下が持っていた木刀が斬り飛ばされた音だ。
「動きが固い! もっと機敏に!」
ミーミルが檄を飛ばすが、それどころではない。
伝説の英雄の身体のラインやら、目の前でたわわに揺れるものやら、木刀で木刀を切断する現象やらが同時にパークスの部下を襲っていた。
「はい……」
そう返すのが精いっぱいだ。
「パークス様、訳をお話しましょう」
エーギルがパークスに話しかける。
その顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。
それに気づいているのはアベルだけである。
「剣皇様が生きていた頃は、あれが普通だったのです。遥か昔の話ですので、文化や技術に大きな違いがあるのは当然であります」
「し、しかし、さすがにアレは」
「じゃあ次!」
「は、はい!」
パークスの部下がミーミルに近づいていく。
その視線はミーミルにおっぱいに極限まで集中していた。
「あれは問題なのでは?」
「何の問題がありますか? 剣皇様は、昔ながらの方法で剣術訓練を行い。我々は、それに従っているだけです」
「た、しかにそうですが」
スパァン!
また破裂音と共に木刀の破片が宙に舞った。
「全然動けてない! 固まりすぎ!」
「はい……」
「次! ……全く。パークスの部隊はどうなってんだ」
ミーミルは木刀で肩を叩きながら呟く。
アベルやエーギルの部隊より遥かに動きが悪かった。
ミーミルの前に来ると、木刀を持ったまま完全に固まってしまう。
パークスは確か人に打ち込めないと言っていた。
もしかしたらパークスの部下も、打ち込めない人間で固まっているのかもしれない。
「パークス!」
「えっ?」
「ちょっと来てくれ!」
「えっ!?」
パークスはエーギルを見る。
エーギルは笑みを浮かべたまま頷くと、木刀を差し出してきた。
パークスは木刀を受け取ると、ミーミルの前まで進んだ。
だが、まともにミーミルに顔を合わせられない。
視界に入れられない。
そんなパークスを見て、ミーミルはため息をつく。
「パークス、お前がそんなだからダメなのだ」
「は、はい」
「しっかりこっちを見るのだ」
「はいっ……!」
パークスはミーミルを見る。
「――」
頭の先からつま先まで痺れるような衝撃が走る。
目の前で見ると、より強烈だった。
部下が固まるのも仕方ない。
「パークス、顔が真っ赤だぞ? 体調が悪いのか?」
「いえ。問題はありません」
パークスは木刀を構えると、ミーミルの顔に視線を集中させた。
出来る限り下は見ない。
ミーミルの顔をじっと見る。
今までちゃんと見られなかったのだが、はっきりと顔を見る。
剣皇は美しかった。
整った目鼻立ちに、黒く輝く長い髪。
まるで黄金のような金色の瞳を見ていると、吸い込まれるような感覚に陥る。
猫の耳は、パークスの方向へ向き、僅かな音も逃さぬようにぴくぴくと動いていた。
「何かさらに顔が赤くなってきてないか」
「大丈夫です!」
「なら、打ち込んでみろ。こっちからは攻撃しないから」
「そんな、恐れ多い……」
「この場所では誰もが平等だ。上下関係なんか無い。気にせず打ち込め」
「万が一、怪我でも負わせてしまったら、申し訳が立ちません」
「気にするな。木刀如きでは痣もできんよ」
「前もそう言われましたが……にわかには……」
「えーい、うじうじしない! さっさと打ち込め! 皇帝命令!」
ミーミルの初めての皇帝命令は『自分に打ち込め』だった。
もう少し特別な事で使いたかった気もするが、まあいいだろう。
ミーミルはそう思った。
「で、で、で、でやああああああ」
剣を振りかぶると、パークスは目を閉じて、ミーミルに突っ込む。
真っ暗な視界の中で、パークスはミーミルがいると思われる場所に剣を振り下ろした。
だが、その剣は途中で止まる。
腕が動かせない。
パークスは目を開いた。
目の前に剣皇がいた。
本当に目の前である。
いつの間にここまで接近されたのか、パークスにはさっぱり分からなかった。
「こらー、目をつぶってたら絶対当たらないだろ?」
ミーミルは瞬時に距離を詰め、振り下ろそうとした瞬間の手を抑えたのだ。
「はい、一本」
ミーミルは木刀の柄で、パークスの脇を軽くつつく。
「そんなんじゃ部下も育たないっしょ? ちゃんと隊長が手本見せないと」
ミーミルはパークスの顔を覗き込みながら諭す。
だがパークスはそれどころではなかった。
腕を掴まれ、息を感じる程の距離。
皇族御用達石鹸の香りがパークスの鼻をくすぐった。
あと一センチでも近づけば、ミーミルの胸に自分の胸が触れる。
何もかもが恐れ多すぎる。
パークスは目を閉じながら頷くだけで限界だった。
誰かの「羨ましい」という言葉すら耳に入らない程に、一杯一杯だ。
「はい、じゃあもう一回」
ミーミルはパークスを放す。
支えを失ったパークスは、どっと地面に座り込んだ。
「あ、あれ? もしかしてさっきの柄、効いてた?」
自分のチート腕力だと、軽くやったつもりでも強く入っていた可能性はある。
ミーミルは心配になってパークスの前にしゃがみ込む。
「だ、だいじょうぶで」
パークスは顔を上げる。
そこにはしゃがみ込んだミーミルの美しい顔と、存在感を増した胸と、強調された股間が
意識は、そこで途絶えた。
のちにパークスは部下に、そう語ったという。
「……」
無言だった。
ミーミルはもう一度、挨拶してみる。
「よろしくお願いします?」
「よ、よろ、しく、お願いします!」
パークスの部下が叫ぶ。
声がジェイド家専用の練習所内に響き渡る。
「アベル殿」
「何でしょうか。パークス様」
「どうしてあんな事になってしまっているのですか」
パークスは震える指でミーミルを指差す。
そこにはいつも通りに裸同然のミーミルがいた。
「これにはとても深い訳がありまして」
スパァン!
アベルの言葉を遮るかのように、破裂音が鳴り響く。
パークスの部下が持っていた木刀が斬り飛ばされた音だ。
「動きが固い! もっと機敏に!」
ミーミルが檄を飛ばすが、それどころではない。
伝説の英雄の身体のラインやら、目の前でたわわに揺れるものやら、木刀で木刀を切断する現象やらが同時にパークスの部下を襲っていた。
「はい……」
そう返すのが精いっぱいだ。
「パークス様、訳をお話しましょう」
エーギルがパークスに話しかける。
その顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。
それに気づいているのはアベルだけである。
「剣皇様が生きていた頃は、あれが普通だったのです。遥か昔の話ですので、文化や技術に大きな違いがあるのは当然であります」
「し、しかし、さすがにアレは」
「じゃあ次!」
「は、はい!」
パークスの部下がミーミルに近づいていく。
その視線はミーミルにおっぱいに極限まで集中していた。
「あれは問題なのでは?」
「何の問題がありますか? 剣皇様は、昔ながらの方法で剣術訓練を行い。我々は、それに従っているだけです」
「た、しかにそうですが」
スパァン!
また破裂音と共に木刀の破片が宙に舞った。
「全然動けてない! 固まりすぎ!」
「はい……」
「次! ……全く。パークスの部隊はどうなってんだ」
ミーミルは木刀で肩を叩きながら呟く。
アベルやエーギルの部隊より遥かに動きが悪かった。
ミーミルの前に来ると、木刀を持ったまま完全に固まってしまう。
パークスは確か人に打ち込めないと言っていた。
もしかしたらパークスの部下も、打ち込めない人間で固まっているのかもしれない。
「パークス!」
「えっ?」
「ちょっと来てくれ!」
「えっ!?」
パークスはエーギルを見る。
エーギルは笑みを浮かべたまま頷くと、木刀を差し出してきた。
パークスは木刀を受け取ると、ミーミルの前まで進んだ。
だが、まともにミーミルに顔を合わせられない。
視界に入れられない。
そんなパークスを見て、ミーミルはため息をつく。
「パークス、お前がそんなだからダメなのだ」
「は、はい」
「しっかりこっちを見るのだ」
「はいっ……!」
パークスはミーミルを見る。
「――」
頭の先からつま先まで痺れるような衝撃が走る。
目の前で見ると、より強烈だった。
部下が固まるのも仕方ない。
「パークス、顔が真っ赤だぞ? 体調が悪いのか?」
「いえ。問題はありません」
パークスは木刀を構えると、ミーミルの顔に視線を集中させた。
出来る限り下は見ない。
ミーミルの顔をじっと見る。
今までちゃんと見られなかったのだが、はっきりと顔を見る。
剣皇は美しかった。
整った目鼻立ちに、黒く輝く長い髪。
まるで黄金のような金色の瞳を見ていると、吸い込まれるような感覚に陥る。
猫の耳は、パークスの方向へ向き、僅かな音も逃さぬようにぴくぴくと動いていた。
「何かさらに顔が赤くなってきてないか」
「大丈夫です!」
「なら、打ち込んでみろ。こっちからは攻撃しないから」
「そんな、恐れ多い……」
「この場所では誰もが平等だ。上下関係なんか無い。気にせず打ち込め」
「万が一、怪我でも負わせてしまったら、申し訳が立ちません」
「気にするな。木刀如きでは痣もできんよ」
「前もそう言われましたが……にわかには……」
「えーい、うじうじしない! さっさと打ち込め! 皇帝命令!」
ミーミルの初めての皇帝命令は『自分に打ち込め』だった。
もう少し特別な事で使いたかった気もするが、まあいいだろう。
ミーミルはそう思った。
「で、で、で、でやああああああ」
剣を振りかぶると、パークスは目を閉じて、ミーミルに突っ込む。
真っ暗な視界の中で、パークスはミーミルがいると思われる場所に剣を振り下ろした。
だが、その剣は途中で止まる。
腕が動かせない。
パークスは目を開いた。
目の前に剣皇がいた。
本当に目の前である。
いつの間にここまで接近されたのか、パークスにはさっぱり分からなかった。
「こらー、目をつぶってたら絶対当たらないだろ?」
ミーミルは瞬時に距離を詰め、振り下ろそうとした瞬間の手を抑えたのだ。
「はい、一本」
ミーミルは木刀の柄で、パークスの脇を軽くつつく。
「そんなんじゃ部下も育たないっしょ? ちゃんと隊長が手本見せないと」
ミーミルはパークスの顔を覗き込みながら諭す。
だがパークスはそれどころではなかった。
腕を掴まれ、息を感じる程の距離。
皇族御用達石鹸の香りがパークスの鼻をくすぐった。
あと一センチでも近づけば、ミーミルの胸に自分の胸が触れる。
何もかもが恐れ多すぎる。
パークスは目を閉じながら頷くだけで限界だった。
誰かの「羨ましい」という言葉すら耳に入らない程に、一杯一杯だ。
「はい、じゃあもう一回」
ミーミルはパークスを放す。
支えを失ったパークスは、どっと地面に座り込んだ。
「あ、あれ? もしかしてさっきの柄、効いてた?」
自分のチート腕力だと、軽くやったつもりでも強く入っていた可能性はある。
ミーミルは心配になってパークスの前にしゃがみ込む。
「だ、だいじょうぶで」
パークスは顔を上げる。
そこにはしゃがみ込んだミーミルの美しい顔と、存在感を増した胸と、強調された股間が
意識は、そこで途絶えた。
のちにパークスは部下に、そう語ったという。
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