P  転  生

猫村慎之介

文字の大きさ
上 下
5 / 6
第一章

第5話 フィオの故郷

しおりを挟む

「見えてきました」
「あそこがそうですか」

 大和は馬車を引きながら坂道を登る。
 坂道の先には、木で作られた門と物見やぐらが見える。
 規模自体はそう大きなものではないが、それでも治安の悪さを感じさせるには十分だった。

「あの森は?」

 だが、それよりも目を引くものがあった。

 村の後方に広がる森。
 全ての木が、完全に枯れている。
 あんな風に森が枯れているのを見るのは初めてだ。

「あれは――腐水の森です」

 不吉な名前と、枯れた森、警備が厳重な村。
 陰鬱な雰囲気が、辺りを支配していた。

「止まれ!」

 ある程度、村に近づいた所で物見やぐらから声がかかった。

「フィオです! 帰って来ました!」

 フィオは御者席から降りると、物見やぐらの方に向かって手を振る。

「おお、フィオじゃないか! すぐ開ける! 待っていろ!」

 どうやら無事に中に入れるらしい。

「私も入って問題ありませんか?」
「もちろんです。村の者には私から説明します」
「お願いします」

 村の入り口を閉じていた門がゆっくりと開く。
 門が開くと、警備していた者が三人、武器を携えて出て来た。
 そのうちの一人がフィオに近づいていく。
 残りの二人は少し離れた場所から、大和をじっと観察しつつ、警戒していた。

「フィオ! 久しぶりだな。帰って来たのか?」
「はい。お休みを貰って。あ、こちらの方は神薙大和さんです。ここまで護衛をして貰った人で、怪しい人ではないです」

 フィオは自分でそう言いながら、説得力がないなぁと思った。

「神薙大和と申します。フィオさんの護衛とプロデュースの件で伺いました」

 大和は深々と警備の人間に頭を下げる。

「ぷろでゅーす?」
「私もよく分からないんですけど、そういう仕事があるそうです」
「傭兵ではないのか?」

 警備の男の目が露骨に厳しくなった。
 やはりプロデューサーというのは、この世界では理解されない職業らしい。

「えーと……」

 フィオ自身も大和の職業が何なのか、ちゃんと分かっていない。
 何と答えればいいのか戸惑っていると、大和が自ら口を開いた。

「我が主を決める為に旅をしている者です。傭兵とは少し違いますね」
「武者修行中の騎士――か? それにしては装備が……」

「騎士ではありませんが、修行中なのは確かです。異国の服ですので、そう感じるかもしれません。出来る限り装備を少なくするのが我が国のしきたりです」
「大丈夫です。盗賊に襲われている所を助けて貰ったので、悪い人ではないです」

 フィオも大和をもう一度フォローする。

「盗賊っていうと――まさか盗賊団か? この辺りでもかなり被害が出ている凶悪な盗賊団だ。よく無事だったな」
「大和さんが助けてくれたので」
「たまたまです」

 大和はそう言って頭を恭しく下げる。
 確かに見た目はとても怪しいが、物腰は柔らかだ。
 純朴なフィオが騙されている可能性も考慮していたが、もし何かするつもりならば、門が開いた時点で行動を起こしているだろう。

「分かった。二人とも入って来てくれ――っと、あんたには自己紹介がまだだったな」

 そう言って男は剣を鞘に収めると、右手を差し出した。

「俺の名はクーゲルだ。自警団の団長をしてる。フィオを護ってくれて助かった」
「神薙大和です。使えるべき主を探す為に修行の旅をしております。改めてよろしくお願いします」

 クーゲルと大和は握手をする。
 この世界でも握手というのは親愛の意味を持つらしい。

「そこの馬車はどうする? 馬はどうした」
「ここに置いていては邪魔になりますね。動かします」

 大和は馬車の長柄を持つと、馬車を押し始める。

「……おい、おい。何をやってる」

 目の前で起きた現象に、思わず制止を入れてしまうクーゲル。

「馬車を引いております」
「いや、馬車を何故引ける」
「パワーです」

 そう言って大和はぐっと力こぶを作る。

「……いや、そんな事出来るはずが……いや、外の世界なら出来る奴もいるのか? ううむ」

 生まれて一度も村から出た事のないクーゲルには判断がつかなかった。

「まあ……中に入ってくれ」

 本当に入れていいのか不安になってきたが、今更「何か怖いので帰ってくれ」とは言えない。
 クーゲルは他の二人に目配せすると、門を大きく開かせた。
 これで馬車も十分に通れるだろう。

「馬車の中はどうなってる?」
「他の護衛の方の遺体があります。さすがに私一人の力では盗賊団から守りきれませんでした」

「そうか、それは気の毒に」
「先に墓場に埋葬したいのですが、埋葬の代金は如何ほど必要になりますか?」

「ああ……代金は構わんさ。スペースならある」
「そうはいきません。場所を使わせて貰うのです。然るべき代金はお支払いします」

 そう言って大和は懐から革袋を取り出して、中身を出す。
 金貨と銀貨と銅貨を数枚ずつ。

「これで足りますか?」
「え、ああ……」

 クーゲルは困惑した表情を浮かべる。

 金貨など初めて見た。
 村で使うのは銅貨くらいだ。
 銀貨でも行商人くらいしか扱っているのを見た事がない。

 しかもあの袋は、まだ中身がありそうだった。
 騎士かと思っていたが、どこかの貴族の息子かもしれない。

「じゃあ、銅貨十枚くらいでいいよ」
「一人分ですか?」

「二人でいい。おまけしておく。って本来は取らないんだがな」
「ありがとうございます」

 大和は銅貨を十枚探し当てると、クーゲルに渡した。

「おい、カナン。ジョルノ。墓地で遺体を埋葬してやってくれ」

 そう言うとクーゲルは二人に四銅貨ずつ渡す。

「アトラん家の馬を借りて馬車を引く。これは馬の借り賃だから、あの坊ちゃんにしっかり渡してやれ。あそこの馬は最近、調子が悪いから無理させるな。金はちょろまかすなよ?」

 クーゲルは残った二枚の銅貨を二人に渡した。

「クーゲルさん、あざっす!!」

 二人は頭を下げると、嬉しそうに近くの馬屋へ走って行った。

「良し。銅貨十枚にしては働きが足りんが、まあいいだろう」

 クーゲルはすっきりした表情で笑みを浮かべる。

 人の心を掴んだ、いいお金の使い方をする男だ。
 マネージャーとして才能があるかもしれない。
 大和はアイドル業が軌道に乗り始めたら、クーゲルをマネージャーとして採用してもいいかもしれないと思った。


 いや、いっそ彼もアイドルにしてはどうだろうか。


 何も女性だけがアイドルではない。
 男性のアイドルも十二分に需要があるのだ。

 しかし少しばかり年齢が行き過ぎているか……?

「大和さんは、今日の宿は決まっているのかい」
「いえ、決まっていませんね」

「だったらうちの隣の空き家が空いてるから使うといい。つい最近まで人が住んでいたから綺麗なもんだぞ」
「ありがとうございます。有難く使わせて頂きます」

「フィオはどうする? 家に戻るのか?」
「えっ? あ、はい。戻ります」

 さっきから考え事をしていたフィオは急に話を振られ、慌てた様子で返事する。

「フィオさん、まだ時間はありますか?」
「ありますよ。予定よりずっと早く着いたので」

「済みませんが、村の案内をお願いできますか。少し気になる事がありまして」
「……分かりました」

 フィオはゆっくりと頷く。

「じゃあ、俺は警備に戻る。夕食の時には、色々と外の話を聞かせてくれよ、大和さん」
「大した話は出来ないかもしれませんが、喜んで」
「じゃあな!」

 クーゲルはそう言うと、物見やぐらの方向へ戻って行った。



「――さてと、少し見て回らせて下さい」
「はい」

 大和は村の中を歩き始めた。



 一言で言うならば、村は寂れていた。
 お年寄りが多く、店も殆ど無い。
 空き家も目立つ。

 過疎の村だった。



「あの、大和さん」
「はい。さっきの事ですね」

 大和は後ろから少し離れてついてくるフィオに歩きながら返事をする。
 フィオがさっきから黙り込んでいた理由は分かっていた。

 クーゲルに、さっきと違う職業説明をしたのが引っかかっているのだろう。
 後から段々『良くない人を村に入れてしまったのかもしれない』と思っても何もおかしくはない。

「どうして嘘を? 聖女を育てる仕事ではなかったのですか?」
「嘘はついておりません。貴女に説明して気づきましたが、アイドルという仕事と、プロデューサーという仕事はこちらでは非常に知名度が低い。ですからこちら風にプロデューサーの仕事をかみ砕いて説明しました。それをクーゲルさんは修行中の騎士と勘違いした。それだけの事です」

「嘘は……ついてないと?」
「誤解を解く努力をしなかっただけですよ。怪しい職業と思われて、村に入れなくては困りますから、穏便に済ませたかったのです」
「――そんなに村に入りたかったんですか?」

 フィオは躊躇いながらも大和に聞く。

 何らかの目的を持って村に近づこうとしているのかもしれない。
 それが悪い事なら、自分の責任だ。
 危険を伝え、大和を止めねばならない。

 大和は足を止めると、フィオに向き直る。
 そしてこう言った。



「あなたの為です。あなたとどうしてもお話をしたかったのですよ」



 フィオは顔が瞬時に赤く染まるのを感じた。
 自分と話したい為だけに護衛を誤魔化してまで村に入って来た。

 それは――もう愛の告白のようなものだ。

「い、いけません。私なんか」
「いけません。私なんかはNGです」

「え?」
「私なんか、ではなく私でも、と思って下さい。私なんかじゃ無理、ではなく私でも出来るんだ。そう思う事がとても大事なのです」
「は、はぁ……よく分かりません」

 フィオは赤くなっている顔を隠す為に俯く。

「俯くのも良くない」

 大和はフィオの顎を持ち、ぐっと上に上げる。
 いきなりだった。

「下を向くと顔に影が入ります。上を向けば自然と光が差す。それだけで貴女の印象は変わるのです」

 フィオは顔をさらに真っ赤にしながら「はわわ」と言った。

「はわわ、いいですね。キャラとして有りかな?」
「な、な、何を言ってるのか分かりません! て、手を離してください!」
「っと、大変失礼しました」

 大和は慌ててフィオの顎から手を離す。
 集中すると周りが見えなくなるのは悪い癖と言われていたのだ。
 それでちょいちょいトラブルを招いていた事を思い出す。

 それこそ、まだまだ修行が足りない。

「ついでに私も一つ聞きたいのですが」
「何……ですか?」

「どうして嘘を? メイドのお仕事は辞められたのでしょう?」

 フィオはクーゲルにメイドの仕事を休んで、と言った。
 だが大和には暇を頂いた、と言った。
 休むと辞めるでは大違いである。

「……辞めたって言うと、クーゲルに戻れって言われると思ったので」
「ふむ」

「村の状況が余り良くなくて……手伝おうと思ったんです。嘘をつくのは悪いと思いますけど、いてもたってもいられなくて、仕事も手がつかなくて」
「自分の為ではなく、みんなの為についた嘘です。誰も責めはしませんよ」

 大和はフィオに向かって笑みを浮かべる。

「もしかしてアレですか……」

 フィオは顔を赤くして、呟くように言う。

「何か詐欺とかスパイみたいな人ですか。私にとりいって、村の情報とか弱点を仕入れようとしているとか……そんな感じですか」
「ああ……そういう誤解、よくされます」

 大和はフィオに向かって膝を折った。

「?」
「誓います。貴女の村に悪意を持った行動は、何一つもしません。この命に賭けて」

 そう言って大和は首を垂れる。

「い、命までかけなくても」
「それくらいしないと信用されないでしょう。今の私には命くらいしか賭けられる物がありませんので」

「あ、フィオおねーちゃんだ! 何やってんのー?」

 フィオが見知らぬゴツイ男性を傅《かしづ》かせているのを見て、子供が寄って来た。

 はす向かいのロビンだ。
 フィオが出て行った頃には三歳だったが、少し見ない間に大きくなった。 

「もしかしてフィオねーちゃんのカレシ? 調教中ってやつー?」

 大きくなった。

「フィオちゃん? 何をやっているの」

 近所のお婆さんまでやってきた。
 お隣のジータおばあちゃんだ。
 収穫した小麦を使って、よく焼き菓子を焼いてくれた。

「こんな男の人を跪かせるようになるなんて、フィオちゃんは都会にいって大きくなったのねぇ……」

 大きくなっていない。
 
「わ、わ、分かりました! 信用しますから、それ止めて下さい!」
「はい」

 大和は素直に立ち上がる。

「でっけぇ。こんなデカい人、初めて見る」
「ジャンプを毎日してください。すると背が伸びます」

「マジで!?」
「マジですよ? 私よりデカくなって下さいね」

 そう言って大和はロビンの頭をぽんぽんと叩いた。

「手もでけぇ」
「持ってみますか」

 大和はそう言って手を広げる。

「え、うん……」

 戸惑いながらもロビンは大和の手を握る。
 その瞬間、大和はロビンを高く持ち上げた。

「おわあああ」

 そのまま肩にロビンを座らせる。

「おおおおわあああ……すっげぇ! たけぇ! いつもの村が違って見える!」
「はっはっ、そうでしょう。少し高くなるだけで、全然違う世界が広がるものです」

 そう言いながらロビンとドッキングした大和は、ゆっくり歩き始めた。

「すげー! 怪獣だ! 走れー!」
「はっはっはっ。ギアを上げていきますよ」

 大和はその場をぐるぐると走り始めた。

「ちょ、ちょっとロビン。失礼でしょう。ああ、もう」
「見た目が怖いけど、いい人そうじゃないか。王城の兵士さんかい?」

「おばあちゃん、そうじゃなくてね」
「兵士さん、じゃないとすると、まさか騎士様かい? こりゃ玉の輿だねぇ」
「そうじゃなくて! 大和さん、早く行きましょう! 日が暮れちゃいます!」

 フィオは顔をまた赤くしながら、大和に呼びかける。

「そうでした」

 大和はロビンを肩から降ろす。

「えー! まだお兄ちゃんと遊ぶ!」
「今日はここまでです。主になるかもしれない方が、お怒りですので」

「主? フィオねーちゃんってもしかして貴族とかになったの? じゃあ俺はフィオねーちゃんの騎士になるよ! 最近、団長に稽古をつけてもらってんだ!」
「ち、違うの。この人が勝手に」

「押しかけて来たのかい? 騎士様と身分違いの恋なんてフィオも随分と罪作りになったんだねぇ」
「ちーがーうー」


 フィオは悶絶した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

メイド・イン・マジックガール  ~現代最強魔法少女の私。力を籠めすぎたら勢い余って地球壊しちゃいました~

筒井 航輝
ファンタジー
最強の魔法少女である照間アイリスは勢い余って地球を壊してしまった。 そして目覚めたら女子高校生になっていた。転生してきた他の四人の魔法少女(秋雨美咲・夢見みるく・薔薇園紫音・火暗明穂)とともに「勇者」として、願いを叶えるために魔神討伐を目指す。

追放から始まる成り上がり

時雨古鷹
ファンタジー
 カクヨムでも連載しています。  地球から異世界の農民の息子に転生した悠翔……ハルトは出稼ぎのため冒険者になり世界最強のパーティーに入る。しかし1年間冒険を続けるもレベルが上がらないハルトは追放される。だがそれはハルトが自分自身に課したペナルティだった。そのペナルティとは強制的に活動すると他に入る経験値が0になるというもの。  これはパーティーを追放されたハルトが成り上がっていく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界チート?転生 〜性別も転生した〜

幻影の夜桜
ファンタジー
16歳という若さで死んでしまった俺は、お決まりの展開に捕まって異世界に転生することになった。 異世界行きを渋った結果、女神様に基礎魔力値の高いチートな身体にしてもらったから行ったけど、なんか女の子にされてました。 「女の子の方が魔力高めやすかったんです」だって。ふざけんな。 ……しかもこの身体、チートって言うほど強くない気がするんですけど。 そんなわけで女の子になっちゃった俺が優しいパーティメンバーと頭のおかしい女神の弟子に支えられ、時には支えながら、なんだかんだで異世界ライフを満喫するお話。 案外、こんな日常も悪くないのかもしれないな。 ↓以下お知らせ↓ ・4/14より更新再開予定です。 ・日曜21時の週一回更新とする予定です。 ・小説家になろう、でも投稿しています。 【4/2更新】

元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。 元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。 もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。

サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ
ファンタジー
───────魔法使いは人ではない、魔物である。 この世界で唯一『魔力』を扱うことができる少数民族ガナン人。 彼らは自身の『価値あるもの』を対価に『魔法』を行使する。しかし魔に近い彼らは、只の人よりも容易くその身を魔物へと堕としやすいという負の面を持っていた。 人はそんな彼らを『魔法使い』と呼び、そしてその性質から迫害した。 四千年前の大戦に敗北し、帝国に完全に支配された魔法使い達。 そんな帝国の辺境にて、ガナン人の少年、クレル・シェパードはひっそりと生きていた。 身寄りのないクレルは、領主の娘であるアリシア・スカーレットと出逢う。 領主の屋敷の下働きとして過ごすクレルと、そんな彼の魔法を綺麗なものとして受け入れるアリシア……共に語らい、遊び、学びながら友情を育む二人であったが、ある日二人を引き裂く『魔物災害』が起こり―― アリシアはクレルを助けるために片腕を犠牲にし、クレルもアリシアを助けるために『アリシアとの思い出』を対価に捧げた。 ――スカーレット家は没落。そして、事件の騒動が冷めやらぬうちにクレルは魔法使いの地下組織『奈落の底《アバドン》』に、アリシアは魔法使いを狩る皇帝直轄組織『特別対魔機関・バルバトス』に引きとられる。 記憶を失い、しかし想いだけが残ったクレル。 左腕を失い、再会の誓いを胸に抱くアリシア。 敵対し合う組織に身を置く事になった二人は、再び出逢い、笑い合う事が許されるのか……それはまだ誰にもわからない。 ========== この小説はダブル主人公であり序章では二人の幼少期を、それから一章ごとに視点を切り替えて話を進めます。 ==========

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...