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第13話 会いたくて※
しおりを挟むアルマは庭先で剣を振る父の姿を眺めながら、エルガーはどうしているだろうと考えるばかりの自分に気がついた。
庭から部屋に戻り暇つぶしの為に始めた刺繍を手に取るも一向に進まない。
退院後、アルマは王宮の仕事に戻ろうとしたが両親により既に休職願が出されており、少しの間故郷に戻ることになった。未だに王宮内では今回の三人の出来事が尾を引いているらしく収束を図るためにアルマの休職を歓迎しているようだった。
ソレーヌは正式に侍女を辞め子爵家に戻った。
事情を知った子爵夫妻は今まで一人娘のソレーヌが可愛いばかりに彼女の行いに目を瞑ってきたことが過ちだったと認めた。彼女を遠い親族の元に送り反省させるとエルガーに許しを請うたらしい。侯爵家とエルガーは謝罪を受け入れ、今後一切ソレーヌとエルガーが関わることはないと念書を交わしたそうだ。
アルマが故郷に帰る前には、エルガーは驚異的な回復力を見せ退院することになった。しかし、退院直後から休んでいた間に溜まった山積の書類と格闘する日々を送ることになってしまった。
故郷に着いてからすぐにエルガーから短い手紙が届いたものの、それ以来音沙汰がない。戻って一週間程でこんなに不安になるなんて思いもしなかった。
「アルマったら。そんなに暇なら魅了の力のコントロール方法でも私と訓練する?」
母からの提案に首を傾げる。
「魅了の力ならエルガー様と関係を持ったことで抑え込まれているんじゃなかったの?」
「あら、いつまでエルガー様に頼るつもり? 二人の関係が終わってしまえば頼ることも出来なくなるのよ?」
半永久的な効果が得られた訳ではないと忠告され、しかもエルガーとの関係が終わるなどと聞きたくもない言葉を耳にして居ても立っても居られなくなった。
「やっぱり私、王都に戻るわ!」
「急に何を言い出すの? 今戻っても居場所はないでしょう?」
「おいおい、何をぎゃあぎゃあ騒いでいるんだ。客人がいらしたというのに」
割って入ってきた父の言葉で、二階の部屋の窓から玄関先を覗く。そこには会いたくて堪らなかった人の姿があった。
ダークブラウンのフロックコートに若草色のアスコットタイ姿のエルガーは、我が家の玄関先には不釣り合いな高貴な立ち姿でこちらを見上げた。
彼を見慣れた筈の自分でも未だにドキドキさせられ一気に体中の熱が上がる。やはり自分を覚醒させた相手とはこういうものなのだろうか。
階段を駆け降り玄関の扉を開け放つ。
「エルガー様!」
アルマは勢いよく抱きつくとハッとして手を離した。
「ごめんなさい。お怪我をしているのに」
「もう大丈夫だ。君を抱きとめるくらい何の問題もないさ」
「お仕事が忙しい筈なのに、こんな遠くまで足を運んでくださって嬉しいのですが……大丈夫なのですか?」
嬉しい気持ちと彼の仕事の邪魔をしてはいけないという気持ちが入り混じる。
「仕事は最速で終わらせてきたよ。アルマと君のご両親に会うためには仕事を早々に終わらせることが大前提だったから、手紙を書く時間さえなくて……一通しか送れなくて寂しい思いをさせてしまったね。ごめん」
二人のやり取りを生温かい目で見つめていた両親に気が付くと、エルガーは丁寧に挨拶をした。その姿に改めて彼が侯爵家の令息なのだと実感させられる。
我が家の小さなソファに座る彼は真剣な面持ちで切り出した。
「アルマさんとは真面目に将来を見据えてお付き合いしています。どうか、正式に交際を認めていただけないでしょうか。許されるのであれば、すぐにでも婚約したいと思っています」
「なんとも、急なお話ですね。私の娘に身に余るお話だとは思いますが。しかし…あなた様は第一騎士団の副団長というだけでなく侯爵家の次男、アルマは庶民です。とても釣り合いが取れないでしょう」
「私は次男で爵位を継ぐこともありません。このまま騎士団で職務を全う出来れば良いだけです。アルマが庶民であっても構いません」
「ですが、あなたのご家族も周囲も反対なさるでしょう。将来、娘が辛い思いをするくらいなら父親として交際を認めることは……」
バンっとテーブルを叩いて立ち上がったのは母だった。
「ああ、もう! あなた、いい加減になさい。アルマが可愛くて心配なのはわかりますよ。身分がどうのこうのって言うのなら、あなたの実家は一応、子爵家じゃなかったかしら? 私と結婚する為に庶民になったことは有り難いと思っているのよ。でもね、娘の幸せは別。ご実家にお願いして養女として籍だけ貴族になれば問題はないでしょう?」
アルマも立ち上がり母に加勢する。
「パパ、お願い。私は大丈夫よ。辛くたってエルガー様と一緒なら。ご家族や周囲の方々にも認めてもらえるように努力するから。私、エルガー様とずっと一緒にいたいの。彼がいなくなったら淫魔の魅了の力でまた大変なことになってしまうかも知れないわよ? エルガー様と一緒にいられれば心配はないでしょう?」
二人に挟まれ、ぐっと眉根を寄せ苦悶の表情になる父に、もう一押しとばかりにアルマが畳み掛ける。
「パパ、愛しているわ」
アルマは跪き父の手を握った。
「わかった、わかった、わかった! こんなに想い合っている二人を引き離したい訳ではないんだ。おまえに幸せになって欲しいだけなんだ」
「勿論。わかっているわ、パパ。パパが私のことを愛してくれているって」
母と娘の連携のとれた攻撃に呆気にとられていたエルガーも立ち上がり頭を下げた。
「アルマさんを一生愛し続けます。全身全霊をかけて大切にします!」
三方を敵に囲まれ攻め込まれては、辺境伯の右腕と呼ばれる男でも観念するしかなかった。
「娘を……アルマをよろしくお願いします」
エルガーの寝室にと用意された部屋は王宮の客室とは比べ物にならないものだが、部屋に案内された彼はとても満足そうだった。
「泊まらせていただけるということは、それだけ君の家族に近づけたということだろう?」
「確かにそうですけれど。エルガー様には部屋もベッドも小さ過ぎませんか?」
ベッドから足は出てしまうかも知れないが大丈夫だと嬉しそうに笑う彼にアルマの心も自然と満たされる。
そっと抱きつくとエルガーはアルマを包み込むように腕をまわす。
アルマがつま先立ちになりキスをねだるとエルガーは彼女を横抱きにし、そのままベッドに腰掛けた。
膝の上で横抱きにされたままキスを繰り返すと、すぐに互いの息が上がるほどの濃密なものに変わる。久し振りのキスに夢中になる二人は互いの舌を絡め、舌先を弾き遊ぶ。エルガーがアルマの舌先に吸いつくと二人は唇を合わせたまま見つめ合った。
アルマがエルガーのシャツの釦に手をかけると、やんわりと手を重ねて止められる。
「アルマ、ご両親もいらっしゃるし……今日は我慢してくれ」
「でも……エルガー様のここ、とっても苦しそうです」
そう言ってパンパンに張った膨らみを指でなぞる。
アルマは彼の膝から降りると床に膝をつき、慣れた手付きで彼のズボンの前を寛げる。
「アルマ、駄目だ……そんなことしなくていい」
「こういうのは、お嫌いですか?」
「うっ……嫌いな訳ない。君にされることなら何でも。寧ろ好き……いや、駄目だ」
「エルガー様は私のを美味しそうに舐めるのに。私はエルガー様のものを舐めてはいけないのですか? 私、大好きなエルガー様のここも大好きなんです。舐めてみたいです」
「なんてことを言うんだ……もう……」
エルガーは天を仰ぎ両手で顔を覆った。
許可を得る必要はなさそうだと思ったアルマが、彼の下着に手をかけ一気に引き下ろすと立ち上がった巨根が勢いよく跳ね出てくる。
最初は恐ろしいくらい大きくて戸惑った彼のものも、今となってはアルマを喜ばせてくれる愛しくて可愛いものに見えてくるのだから不思議だ。
小さな手では握りきれない太さのそれを両手でしっかり掴むと、アルマは巨根の裏筋に舌を這わせ舐め上げた。
「う、わ……」
エルガーはベッドに手をつき、のけ反るようにしてアルマが己のものを嬉しそう舐める様子に見入る。
アイスキャンディーでも舐めるように太い幹をちろちろと小さな舌でくすぐるように舐め、徐々に丸く滑らかな先端へと近づいていく。
先端の割れ目の雫をチュッと音を立てて吸い上げ、そのままパクリと咥え込んだ。
「ん、ふっ」
目を細め、半開きになったままのエルガー口からは甘い吐息が漏れる。
頑張って頬張るものの、エルガーの巨根は半分程しか咥え込めなかった。仕方がないのでアルマはそのまま上下に動かすことにした。
「あっあ! アルマ……なんて淫らなんだ」
口に入らなかった部分を両手で握り優しく扱く。時々、吸い上げながら上下に動き、緩急をつけると、どんどん余裕をなくしていくエルガーは苦しそうに歯を食いしばった。
口の中で彼の巨根が更に膨らんだように思えたその時、彼は体を一層のけ反らせ腰を浮かせた。
「ああ! アルマ! 出る!」
びゅくびゅくとアルマの喉元目掛けて解き放たれた精は小さな口には入りきれず唇と肉棒の間からダラダラと流れ落ちた。
口の中の濃厚な精をどうにか飲み干すと、いつも以上に満たされる。唇の端についた精をぺろりと舐め取ると妖艶な笑みを浮かべエルガーを見上げた。
◆
翌朝、アルマはエルガーと共に馬車に乗り王都へと向かっていた。
もう離れるのは嫌だと嘆くアルマの言葉を待っていましたとばかりに、エルガーから王都に二人で住む家を既に用意してあると打ち明けられたのだ。
アルマへの執拗な愛は彼のとんでもない原動力となった。彼女との時間を取り戻すべく己の明晰な頭脳と並外れた行動力を存分に発揮したエルガーは、書類の山と格闘しながら新居を用意するという執念を見せつけた。
困惑する両親だったが、娘を止めるのは不可能だと理解し送り出してくれた。
侯爵家の立派な馬車の中で、エルガーは疑問に思っていたことをアルマに尋ねた。
「アルマが淫魔と人間のハーフなのだとしたら、俺達の間に生まれる子も淫魔の魅了の力を持つ可能性があるのだろうか」
夕食の時に、アルマが淫魔と人間のハーフだと打ち明けられたエルガーは驚いたものの、君を愛するのに邪魔になるものではないと言い切っていたのだ。
そうは言っても、やはり受け入れられない部分はあるのかも知れない。アルマは不安になりエルガーを見つめた。
「嫌……ですか?」
「嫌ではない! 二人の子供なら、どんな子だって可愛いに違いない! ただ、君に似た可愛い女の子で魅了の力を持って生まれてきたら……俺はどうしたらいい? 性欲にまみれた男達の魔の手から可愛い娘を守る為にどうしたらいいんだ?! 心配だ! 娘が生まれたら俺は心配でどうにかなりそうだ!」
頭を抱えるエルガーを見て内心ホッとしながらも、生まれてもいない娘に対する心配は度を越していると感じた。
「もし、そうなったら、同じ悩みを持った者同士、パパにでも相談してみたらどうでしょう?」
「義父殿に?」
「間違っても、パパがしたみたいに心配のあまり娘を軟禁するなんてことはしないで下さいね」
「勿論だ、軟禁なんて……そんなことは……しかし、軟禁なら安全で安心だな、身の安全を図れるし……」
「エルガー様!」
どうか、心配性の父親の所為で、授かるかもしれない娘の将来が振り回されることがないようにと切に願うアルマだった。
〈 おしまい 〉
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