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【番外編】素人童貞 初夜までの道のり

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~テオ視点~


「エメリは初めてだ…俺も初めての女性を抱くのは初めてだ」

余程恥ずかしいのだろう頬を染め視線を外したままのジョアキンを見てテオは希少な物を見たと腕組をし、まじまじと男の顔を見つめる。

「お、おお」

「今まで関係を持ったのは、ライアンに連れていかれた娼館の女達だけだ。でも、ああいうところは女性が男を喜ばせるだけのスキルがあって…勝手にいろいろしてくれる…正直、気を使わなくて良いし後腐れのなくその場で終われるから楽だった」

頬を染める男の眉間には皺が寄る。

「テオは…その、男性経験のない初めての女性を相手にしたことはあるんだろう?」

「ま、まあ。レナータとはそうだな」

「テオ、おまえ…レナータ以外にも女がいたような言い草だな」

訝しげな顔を向けられ慌てる。

「俺だって、騎士仲間と娼館ぐらい行ったことはある。ただの性の捌け口でしかなかったけどさ」

動揺を隠すように腕を胸の前で組み直した。

「そうか…ジョアキン、おまえ素人童貞って奴だな。まぁ、レナータと結婚するまでは俺もそうだったが」

懐かしく、あの頃の純な自分を思いだす。

「こういう相談なら、俺よりおまえの従兄弟のライアンあたりが適任なんじゃないのか?」

「おい…レナータと結婚していた俺が初めての女性の扱い方を聞いたらおかしいだろう?」

「ああ、そうか……だが、俺が適切な指導をできるかどうかはわからないぞ。まぁ、そのくらいの気持ちで聞いてくれ」

「……わかった。何も知識がないよりはマシだ」

本当に生真面目な男だ。
だが、俺はジョアキンの美しい外見と、この生真面目さのギャップが堪らなく好きだ。

「言っておくが…娼館とは全く違うぞ。だって、愛している女との交わりなわけだからな…抑制できない感情が溢れ出して止められなくなる。でも相手を思えばこそ大切に丁寧に扱わなくてはならない」

俺は切に願う。
身を乗り出し、自分の言葉を真剣に聞く男の前途に幸あれと。




~ジョアキン視点~


パークシャー伯爵家の事件以降、残務処理に追われ忙しい日々を送っていた。
王宮に泊まり込むことも多く、帰宅できたとしても寝る為だけに帰るような状態だった。

運良く帰宅できたとしてもエメリが熟睡している時間にしか帰宅できない。
それでも帰宅できた日は家での秘かな楽しみを思い浮かべ仕事で疲れ切った顔が和らぐ。

「ああ、早くエメリに会いたい」

疲弊した体を引き摺るように寝室に向かうが、ベッドで寝息を立てるあどけない寝顔のエメリを見つめると不思議と疲れが薄れていく。夕陽色の髪は張りがあるのにしなやかで指で梳くと指の間を抜けるしっとりとした感覚が癖になり、うっとりと目を細めた。

長い睫毛が愛らしく丸い頬に影を作る。彼女の幼さを残す丸顔が可愛くて堪らない。特にその頬は指でつつきたくなる衝動を抑えるのに苦労する。蜂が蜜を吸いに香しい花々に導かれる様にジョアキンもエメリに顔を寄せ瞼にキスを落とす。

瞼を開けば彼女のキュッと目尻が上がった丸く大きな黒い瞳は、ジョアキンの瞳の奥をじっと覗き込むように見つめ、ゆっくりと瞬きする。
日常、何気なく見せる彼女のその様が堪らなく萌えるのだ。

顔を両手で覆い身悶える。

「どうして、こんなにだらしない男になったんだ?」

自問自答しながらもニヤニヤが止まらない。

性欲が戻りつつあるとハッキリわかる。
エメリの半開きになった柔らかで無防備な唇にキスしたいという衝動。
彼女の細い首筋に顔を埋め、その香りを堪能したい。

触れたい、抱きしめたい、キスしたい……その先も。

夫なのだからそうすることは可能な筈だ。
けれど流石に寝ているエメリには出来ないし、気持ち良く寝ているエメリを起こしてまでするのは違う。
今までの分、エメリにとって…二人にとって初めての閨事はゆっくり時間をとりお互いに望む形で行いたい。
二人にとって特別な時間にしたいのだ。

「まいったな。ロマンチストなんて柄じゃないのに」

エメリの寝顔をもっと見ていたいという願いも虚しく身体の疲労に押し流される様に眠りについた。



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