36 / 44
見知らぬ人
しおりを挟む「最近浮かない顔をしているな。」
マーカスが、王宮で話しかけて来た。
「イライザ夫人どうだった?」
「それがどんどん疑惑は深まる一方だと言うより、イライザに秘密があるのは確実だ。」
「そうなのか?
イライザ夫人に限って、そんなことあるのか?」
「僕も信じたくないけれど、イライザは、昼間御者を木の下で待たせて、どこかへ行っている。
さらには、渡している給金も何かに注ぎ込んでいるし、医師とのことも認めない。
今はそんな状況だ。
僕が追求しようとすると、キスをして来て、それ以上は話してくれない。
イライザには男がいる、多分。
僕を誤魔化したいほどの大切な男が。」
「待てよ。
でも普通そんな感じなら、リカルドとキスしたり、色々しないだろ?」
「誤魔化すためだよ。
僕は頭がおかしくなりそうだ。」
僕はたまらず頭を抱える。
「結論づけるのは、まだ早いぞ。
まだ、浮気していると決まったわけじゃないだろ?」
「ああ、今邸の私兵に探らせているところだ。」
「なら、最後まで希望を捨てるな。」
「なぁ、僕達に子供ができなかったからだと思うか?
いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。」
「子供がいてもいなくても、するやつはするし、しないやつはしない。
でも、イライザ夫人がする人とはまだ思えないんだ。」
「僕もそう思っていた。」
僕は、疑惑が大きくなればなるほど、不安だし、疑心暗鬼になっていく。
最近は、王宮に行っても、心ここにあらずで、何も言わないけれど、多分僕の異変に王子も勘付いている。
侯爵当主として情けないが、イライザを愛している分、僕はどんどん不安定になって行く。
「ねぇ、聞いているの?」
「聞いているよ、母上。」
母がいる棟の庭園で、日課の母のお茶に付き合っている。
同じ邸の中だけど、こちらは、父が亡くなってから、ますます静かになり、母のキンキン声だけが響く。
「もう、リカルドだけなんだから、私の話を聞いてくれるのは。
旦那様が亡くなってからは、あなたしかいないのよ。」
そう言うが、イライザを拒否したのは、母だ。
もし、子供ができなくともイライザを認めていたならば、こんなに一人寂しい思いをしなくても済んだのに、自分のせいだとは、母は気づいていない。
「ねぇ、そろそろ、第二夫人でも娶ったら?」
「何度も言わせないでくれ。
母上だって、父上に認めなかっただろ?」
「一緒にしないで。
私はあなたを産んだわ。
あの人とは違うわ。」
「そうだとしても、嫌な気持ちは一緒だろ?
どうして、自分がされたくないことを人には求める?」
「仕方ないでしょ。
後継は必要なんだから。」
「その話は、親族の者をもらうと言うことで、決着がついている。」
「嫌なものは嫌なの。
あなたにそっくりな孫が欲しいのよ。」
「すまないが、それは果たせない。」
父が亡くなってから、母はますます孫を欲しがるようになった。
いつもなら、それを受け流すこともできたが、最近は僕にも余裕がない。
大声で、無理なんだよ。と叫んでしまう日がいつか来そうで、自分でも怖い。
感情的になることは、貴族として、とっくに無くして来たのに。
僕は最近自分が嫌いだ。
「どうぞ、入って。」
執務室で仕事をしていると、イライザの尾行を頼んだべモートが入って来る。
「リカルド様、報告があります。」
「ああ、待っていたよ。
話してくれ。」
僕とライナスはその話に聞き入る。
「イライザ様が、馬車から離れ向かった先は、ある邸でした。
こじんまりとしてはいますが、誰かの別邸と言う感じで、建物は立派です。」
「なるほど。」
「そして、イライザ様がその邸に消えた後、邸に入った者は、ノーマン医師ただ一人です。
後は使用人の出入りがあるだけです。」
「何と。
では、ノーマン医師との密会場所なのか?」
「それがそうではなく、ノーマン医師も長くいたわけではありません。
多分、どなたかを診察してすぐに帰られたと思います。
そして、イライザ様以外、あの邸に出入りはありません。
なので、イライザ様は誰かの看病をしているのではないでしょうか?」
「なるほど。
イライザは、父の看病もしてくれていたしね。」
母は父が倒れてからは、お茶会だとか、友人と出かけるなどと言って、父に寄り付かなかったから、その隙にイライザは父を心配して、父のいる棟を訪れていた。
「はい、私がキャサリン様がいない時、イライザ様をご案内しておりました。
旦那様は、いつもイライザ様が来てくれるのを、楽しみに待っておられましたから。」
ライナスは、思い出して微笑む。
「だとしてただの看病なら、わざわざ僕に隠す相手とは誰だろう?」
「わかりません。
そうなると、やはり男かもしれませんね。
残念ですが。」
ライナスは諦め顔で首を振る。
「とにかく、イライザ様がもうあの邸に通わせないようにするのは、大変なことでしょうね。
いっそのこと、目をつぶったらいかがですか?
下手に追い詰めると、イライザ様がリカルド様に離縁を申し出るかもしれませんよ。」
「そんなことが?」
「その相手と無理矢理引き離すのですから、覚悟がいります。
反対に子供ができなかったから身を引くと言われたら、こちらとしても離縁を認めざるを得ないでしょう。
不貞の証拠を掴んでいれば、話は変わりますが。
だからと言って、イライザ夫人の不貞がキャサリン夫人に知られたら、大騒ぎでしょうし。
よく考えてみられたらいかがですか?」
「ああ、そうするよ。」
ライナスとべモートが、部屋を出た後、しばらく一人で強い酒を飲んだ。
この前までは、十年経っても新婚生活などと浮かれていたのに、あっと言う間にどん底だ。
人生わからないものだ。
僕はいつ間違ったのだろう。
イライザが、僕以外の男を求めるなど、今でも信じたくないし、受け入れられない。
しかも僕はこうなるまで、全く気がつかないほどの鈍感な男で、それでも、イライザを失いたくないから、動けない。
でも、それならどうしてイライザは変わらず僕を受け入れる?
好きな男がいるとしたら、普通は嫌なものでないのか?
秘密にするためなら、僕に抱かれても我慢するのか?
僕は沼にハマって動けないように、酒に溺れ、そのまま執務室で寝てしまった。
マーカスが、王宮で話しかけて来た。
「イライザ夫人どうだった?」
「それがどんどん疑惑は深まる一方だと言うより、イライザに秘密があるのは確実だ。」
「そうなのか?
イライザ夫人に限って、そんなことあるのか?」
「僕も信じたくないけれど、イライザは、昼間御者を木の下で待たせて、どこかへ行っている。
さらには、渡している給金も何かに注ぎ込んでいるし、医師とのことも認めない。
今はそんな状況だ。
僕が追求しようとすると、キスをして来て、それ以上は話してくれない。
イライザには男がいる、多分。
僕を誤魔化したいほどの大切な男が。」
「待てよ。
でも普通そんな感じなら、リカルドとキスしたり、色々しないだろ?」
「誤魔化すためだよ。
僕は頭がおかしくなりそうだ。」
僕はたまらず頭を抱える。
「結論づけるのは、まだ早いぞ。
まだ、浮気していると決まったわけじゃないだろ?」
「ああ、今邸の私兵に探らせているところだ。」
「なら、最後まで希望を捨てるな。」
「なぁ、僕達に子供ができなかったからだと思うか?
いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。」
「子供がいてもいなくても、するやつはするし、しないやつはしない。
でも、イライザ夫人がする人とはまだ思えないんだ。」
「僕もそう思っていた。」
僕は、疑惑が大きくなればなるほど、不安だし、疑心暗鬼になっていく。
最近は、王宮に行っても、心ここにあらずで、何も言わないけれど、多分僕の異変に王子も勘付いている。
侯爵当主として情けないが、イライザを愛している分、僕はどんどん不安定になって行く。
「ねぇ、聞いているの?」
「聞いているよ、母上。」
母がいる棟の庭園で、日課の母のお茶に付き合っている。
同じ邸の中だけど、こちらは、父が亡くなってから、ますます静かになり、母のキンキン声だけが響く。
「もう、リカルドだけなんだから、私の話を聞いてくれるのは。
旦那様が亡くなってからは、あなたしかいないのよ。」
そう言うが、イライザを拒否したのは、母だ。
もし、子供ができなくともイライザを認めていたならば、こんなに一人寂しい思いをしなくても済んだのに、自分のせいだとは、母は気づいていない。
「ねぇ、そろそろ、第二夫人でも娶ったら?」
「何度も言わせないでくれ。
母上だって、父上に認めなかっただろ?」
「一緒にしないで。
私はあなたを産んだわ。
あの人とは違うわ。」
「そうだとしても、嫌な気持ちは一緒だろ?
どうして、自分がされたくないことを人には求める?」
「仕方ないでしょ。
後継は必要なんだから。」
「その話は、親族の者をもらうと言うことで、決着がついている。」
「嫌なものは嫌なの。
あなたにそっくりな孫が欲しいのよ。」
「すまないが、それは果たせない。」
父が亡くなってから、母はますます孫を欲しがるようになった。
いつもなら、それを受け流すこともできたが、最近は僕にも余裕がない。
大声で、無理なんだよ。と叫んでしまう日がいつか来そうで、自分でも怖い。
感情的になることは、貴族として、とっくに無くして来たのに。
僕は最近自分が嫌いだ。
「どうぞ、入って。」
執務室で仕事をしていると、イライザの尾行を頼んだべモートが入って来る。
「リカルド様、報告があります。」
「ああ、待っていたよ。
話してくれ。」
僕とライナスはその話に聞き入る。
「イライザ様が、馬車から離れ向かった先は、ある邸でした。
こじんまりとしてはいますが、誰かの別邸と言う感じで、建物は立派です。」
「なるほど。」
「そして、イライザ様がその邸に消えた後、邸に入った者は、ノーマン医師ただ一人です。
後は使用人の出入りがあるだけです。」
「何と。
では、ノーマン医師との密会場所なのか?」
「それがそうではなく、ノーマン医師も長くいたわけではありません。
多分、どなたかを診察してすぐに帰られたと思います。
そして、イライザ様以外、あの邸に出入りはありません。
なので、イライザ様は誰かの看病をしているのではないでしょうか?」
「なるほど。
イライザは、父の看病もしてくれていたしね。」
母は父が倒れてからは、お茶会だとか、友人と出かけるなどと言って、父に寄り付かなかったから、その隙にイライザは父を心配して、父のいる棟を訪れていた。
「はい、私がキャサリン様がいない時、イライザ様をご案内しておりました。
旦那様は、いつもイライザ様が来てくれるのを、楽しみに待っておられましたから。」
ライナスは、思い出して微笑む。
「だとしてただの看病なら、わざわざ僕に隠す相手とは誰だろう?」
「わかりません。
そうなると、やはり男かもしれませんね。
残念ですが。」
ライナスは諦め顔で首を振る。
「とにかく、イライザ様がもうあの邸に通わせないようにするのは、大変なことでしょうね。
いっそのこと、目をつぶったらいかがですか?
下手に追い詰めると、イライザ様がリカルド様に離縁を申し出るかもしれませんよ。」
「そんなことが?」
「その相手と無理矢理引き離すのですから、覚悟がいります。
反対に子供ができなかったから身を引くと言われたら、こちらとしても離縁を認めざるを得ないでしょう。
不貞の証拠を掴んでいれば、話は変わりますが。
だからと言って、イライザ夫人の不貞がキャサリン夫人に知られたら、大騒ぎでしょうし。
よく考えてみられたらいかがですか?」
「ああ、そうするよ。」
ライナスとべモートが、部屋を出た後、しばらく一人で強い酒を飲んだ。
この前までは、十年経っても新婚生活などと浮かれていたのに、あっと言う間にどん底だ。
人生わからないものだ。
僕はいつ間違ったのだろう。
イライザが、僕以外の男を求めるなど、今でも信じたくないし、受け入れられない。
しかも僕はこうなるまで、全く気がつかないほどの鈍感な男で、それでも、イライザを失いたくないから、動けない。
でも、それならどうしてイライザは変わらず僕を受け入れる?
好きな男がいるとしたら、普通は嫌なものでないのか?
秘密にするためなら、僕に抱かれても我慢するのか?
僕は沼にハマって動けないように、酒に溺れ、そのまま執務室で寝てしまった。
0
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる