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54 帰国

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三人は私が想像した以上に良い関係を築いているようだ。

ジルベールはセドリック、シェノビアの二人から弟の様に可愛がられている。
セドリックは持ち前の面倒見の良さから三人の中で頼りになる長男的な存在だ。
シェノビアは要領の良い次男といったところだろうか。


「ジル、これ運んで」

セドリックは美味しそうなミモザサラダを大きめのお皿に盛るとジルベールに渡す。

「セドリック、肉の焼け具合どう?もういいかな?」

シェノビアはフライパンの肉を返しながらセドリックを呼ぶ。

「私も何かお手伝いするわ」

腕まくりをしながらキッチンに入った。

「だーめ。ほら、大人しく座って待ってて。今日はアレッサを三人でおもてなしする予定だからさ」

ジルベールに肩を掴まれダイニングに連れ戻されると、そのまま椅子に座らされてしまう。

今日は私の巫女務めが終わったことの慰労会?卒業祝い?だそうだ。
先日私は女王候補にも選ばれることなく、無事に巫女の務めを終えた。

セドリックのアパートに男三人が集まると流石に狭いが、三人の存在を手近に感じる距離感が嬉しかった。
テーブルには温かな食事が並び四人で乾杯をした。

料理の感想を言い合いながら楽しい時間を過ごし、デザートが出てきた頃に言い忘れていたことを付け加えるように話した。

「来週、ベルガーディナに帰ろうと思っているの」

三人は私を見つめたまま動きを止めた。

「…それは一時的なものだよね?」

チョコレートムースを掬ったスプーンを口の前でとめたままのシェノビアがおずおずと聞いてくる。

「勿論。今後、私がカルダン王国で暮らすために先ずは家族にちゃんと説明して理解して欲しいし、ゆくゆく三人についても…エレーヌ様からの申し出についても家族と話し合わなければならないでしょ」

エレーヌ様から有難い申し入れがあった。
私をエレーヌ様の養女として迎えたいという話だ。
エレーヌ様にはお子様がいらっしゃらない。
女王を退位なさって女侯爵となる予定だが、その次の跡取りがいない。
私が三人と交際しているのを知って養女になることを提案してくれたのだ。

三人の夫を持つとなるとやはり爵位があり私が女侯爵になることが前提だ。

しかし、それには両親の許可が必要だ。
せっかく親子の名乗りを上げて、その直後に二年間離れて暮らさなくてはならなかったことを考えると言い出しにくいことではある。

「ずっと戻って来ない訳じゃないんだし…心配しないで待っていて」

「…どのくらいで戻ってくる?」

「そうね…。一、二週間といったところかしら」




♢♢♢♢♢♢♢♢





ベルカーディナ王国へは空飛ぶ馬車を使えばあっという間だ。

二年ぶりの帰国を二組の両親と兄は喜んでくれた。

全員揃っている好機を逃したくなくて、私はその日の夕食後にカルダン王国の戸籍、爵位、三人の恋人について一気に話した。

「私にアレッサは責められないし、ダメとも言えないわ。私自身が愛する人と一緒にいるためにしたことを考えると」

母上は食後のお茶を一口飲むと静かにティーカップを置いた。

「エレーヌからも手紙が届いていたのよ。アレッサが愛する男性達と一緒になる手助けをしたいって。姉に引き続き姪も助けたいってね」

ふふふと可笑しそうに口元を押さえる。

「流石に三人の恋人、いずれ夫になるなんて聞いて驚いたけれど…カルダン王国では女性が爵位を継いで複数の夫を持つことが普通だってシャロン様に説明されてね……」

父さんと母さんは面食らってはいたが、母上のカルダン王国とベルガーディナ王国の文化の違いについての熱い説明を聞いた後では、反対する余地もないらしかった。

「多分、エレーヌの養女になるのが一番スムーズに事が進むと思うわ」

父上は暫く腕組をしたまま押し黙っていたが、漸く口を開いた。

「正直、やっと戻ってくると思っていたのに、また離れ離れになるのかと思うと受け入れ難かったよ。しかも、三人の恋人がいて…その三人と結婚したいから国籍も変わり、女侯爵になるなんて決断をしたことに…驚きしかなかった。……でも…三人は優れた人格の持ち主で頼りになる紳士達だってロアルドから聞かされてね…娘の幸せの為に…その決断を応援するよ」

「ありがとう…私の我儘を許してくれて…幸せになれるよう、私…頑張るから…」

水面下でエレーヌ様と母上が根回ししてくれていたことに感謝した。
そして、なぜか兄上まで父上を説得してくれていたことにびっくりした。

父さん母さんを見送った後、兄上を呼び止めた。

「兄上、父上を説得してくれて…ありがとう。その…三人と兄上は面識があったの?」

「ああ。リンダニア国攻撃作戦の後、共同作戦の報告書作成で第一騎士団がカルダン王国に滞在していたのは知っているね?」

その時、シェノビアのいる病院に訪ねてくれて私と会っていた。
こくこくと頷く。

「セドリック宰相補佐官と蒼の騎士団のジルベールが宿舎を訪ねてきてね。シェノビアを含め三人がアレッサと交際すること認めて欲しいと言ってきたよ。最初は何を言っているのかと怒って、追い返そうとしたが……全力でアレッサを護る、幸せにするための努力を惜しまないって…一歩も引かないし、延々と話されて…参ったよ」

兄上は苦笑いした。

「安心しろ。離れていても、兄は妹の幸せを応援すると誓う」

子供の頃してくれたように私の頭を大きな手でぽんぽんする。

「……安心して。離れていても、妹も兄の応援に応えるって誓う」

じんわりと目頭が熱くなり視界がぼやける。
涙ぐんでいるのを隠すように兄上の大きな身体にギュッと抱き着いた。




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