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41 優しい指先
しおりを挟むそれからというもの…男は毎夜、牢を訪れる。
酷く疲れたアレッサの寝顔を眺める。
跪き、そっと額に手を当て癒しの魔法を施した。
柔らかな白い光が額に吸い込まれていく。
顔色が幾分良くなったのを確認し安堵すると、頬を指先で優しく撫で慈しむ。
彼女は決して気づくことはない……その優しい指先に。
♢♢♢♢♢♢♢♢
窓一つない牢は薄暗く、唯一の光は牢の外に掛けられたランプのみだ。
夜なのかも昼なのかもわからない。
あれから何日経過したのだろう。
いざという時に、動けないのは困る。最低限の栄養は取らなくては…硬いパンと冷めたスープを無理矢理口に入れた。
私とシェノビアが二人同時に姿をくらまし、そのいきさつを全てジルベールが見ている。
きっと、助けが来る。
一人でこの牢から出ることが例え出来たとしても、魔力を使えない状態で逃げ切ることは不可能だ。
ここは助けが来るのを待つのが賢明だ。
今私に出来ることは、助けが来た時の為に体力と気力を蓄えておくことくらいだ。
膝を抱え座る。
額を膝に押し付け小さくなったままじっとしている。
あれ以来、シェノビアの姿を見ない。
「顔を見ない方がいいわ…心をかき乱されなくてすむ……」
自分に言い聞かせるように独り言を呟く。
なのに、シェノビアのことを考えると…まだ心臓がズキリと痛む。
最初から誘拐する為に私に近づき甘い言葉を囁いて、好きだと言ったのか。
抱きしめてくれた腕も、頭を撫でてくれた温かな掌も演技だったのか。
斬られたジルベールは大丈夫だったのだろうか。
苦痛で歪んだジルベールの顔が脳裏に浮かぶ。
悔しさ、憤り、惨め、不安、心配……様々な感情が無秩序に羅列し心に浮かぶ。
ギイィ……
扉の開く音に気付き、ぱっと顔を上げる。
ゴードンが入って来た。
この牢に入れられた日から顔を見せなかったのに。
その後ろにもう一人男が続いて入って来るのを見て、アレッサは眉を寄せる。
「ガトー様、この娘です」
アレッサの前に立った男は、蛇の様な目で頭からつま先まで舐めるように見る。
嫌な汗が出る、蛇に睨まれたカエルとはこのような感じか。
精一杯の意地で目を晒さずにガトーと呼ばれた男を真っ直ぐ見た。
「ふっ、気が強そうだ…美しい娘だが薄汚れているな。身綺麗にさせろ。その後は分かっているな」
「はい、仰せのままに」
ゴードンはにやりと笑い頭を下げた。
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